少女と、嬉しい知らせ
フィトちゃんに祝福が与えられたという事実は村中に知られた。フィトちゃんの髪の色が変わったのもあって一目瞭然の事であった。
ただフィトちゃんがどういった力を手に入れたのかというのは現状分からない事だった。『神子の騎士』という存在の例はそんなにないのである。だからこそ、フィトちゃんがどんなふうに変わったのか誰も分からないといったのが現状であった。フィトちゃんはそのことを気にしていない様子だった。例え分からなかったとしても、フィトちゃんが『神子の騎士』になったのは事実であり、これで動きやすくなったと言っていた。
ランさんは興味津々である。
フィトちゃんの事も研究対象になったようで、意気揚々とフィトちゃんの周りをうろうろしていた。
フィトちゃんはあの後、民族の人たちの下へ顔を出した。民族の人たちにフィトちゃんが何の力も持たない少女であった事は知られてしまったものの、私から祝福を与えられたという事で神の娘に連なる存在だとして特別視されるようになったらしい。私は一緒に行かなかったから詳しくは知らないけれど一緒についていったドングさんが言っていた。
フィトちゃんは上手く民族の皆を説得したらしい。自分の言葉で、力強く前に立ち告げる姿はとても説得力に満ちていたと言っていた。
フィトちゃんは私達の村に居ながら民族の人達と連絡を取り合いながら、私を支えたいと申し出たみたいで村に居る事になった。フィトちゃんは、一人で行動はしないようにとは言われているけれど村の中で自由に過ごせるようにはなっている。
「祝福って、よくわかんないね」
「そうですね。まだ不明な点が多いものです。過去の神子の記録というのもあまり残っておりません。ですから、フィトから過去の神子だろうと思われるその真なる神の娘について聞かなければなりません」
ランさんは私の呟きに目を輝かせていた。
本当にランさんは知りたい事を知ろうとする意欲が強い。ランさんは神子という存在について知りたくて仕方がないのだろう。
すぐ側にいるスカイホースのシーフォと、グリフォンのワノンが呆れた目をランさんに向けている。
「ひひひひーん(興奮してるね)」
「ぐるぐるぐるるるるる(研究熱心なものね)」
二匹ともそんな事を言っている。本当にランさんは研究熱心で、自分のやりたいことに対して一生懸命で、そういう所が好きだなって思う。
ランさんはフィトちゃんが祝福を受け取ってからというものの、フィトちゃんに色々聞いている。過去に居た真なる神の娘と呼ばれていた存在についてはフィトちゃん達、神の娘に伝えられているのもあってフィトちゃんに色んな事を聞いているのだ。
シノルンさんがランさんも良い年頃なのにと心配していた。ランさんは二十三歳になるのだが、研究に一生懸命で誰かと結婚する事は考えていないようだ。そのことに対して、シノルンさん達は心配しているようだった。
私はよく分からないけれど、二十歳ぐらいになると皆結婚していくものらしい。平民だともっと遅くに結婚している人もいるみたいだけど、ランさんは元貴族だから嫁ぎ遅れだと散々言われていたそうだ。早く結婚しないと子供を産めなくなるからっていうのもあるそうだ。
「でもいいのです。私はそれよりも色んな事を学びたいんですから」
ランさんはキリっとした顔で「結婚とかしないの?」と聞いた私にそう言った。
私も大きくなったら結婚とかするのかな。そういうの、いまいちぴんと来ない。
結婚ってどんな感じなんだろう。この村に居る夫婦はとても幸せそうだ。私はそういうのを見るといいなぁという気持ちになったりもする。仲良い家族というのはいいなって思う。
私はグリフォン達やシーフォ、それにフレネの事も家族のように思っているけれど、結婚して家族になるとそれとはまた違った家族の形になるのだろうか。ちょっとだけ興味が湧いた。
少しだけそういう事に興味がわいていた頃、私は嬉しい知らせを受けた。
「妊娠したの?」
そう、村に住んでいるエルフのウェタニさんのお腹に子供が宿ったという話だった。ウェタニさんはエルフだから人間や獣人よりもずっと子供が出来にくい。シレーバさんがとても久しぶりのエルフの子供だと喜びの声をあげていた。
私も嬉しい、と心から感じた。
ああ、そうかって思った。誰かが亡くなる事もあれば、こうして命が生まれ落ちる事もあるんだって、何だか実感した。
命が失われて、命が生まれて。
おばば様は居なくなったけれど、新しい命がお腹の中で育まれていて——そして新しい出会いが待っているのだ。
そう思うと、心が躍った。
ウェタニさんのお腹に手をふれて、そこに生きている鼓動を感じた。
……新しい命。新しい出会い。
それが待っていると思うと、私は嬉しかった。
―――少女と、嬉しい知らせ。
(神子の少女は嬉しい知らせを聞いた。新しい命がそのエルフに宿ってる)