少女と、力無き神の娘 2
目が覚めて、体を起こす。
ベッドから降りて、寝ぼけた頭でまだ眠ったままのフィトちゃんの方を見て――、
「え」
私は固まった。
フィトちゃんの薄緑色の髪が、薄紅色に変化していた。
髪の色が変化して、何だか別の人になったような印象を受ける。
「私……また、やっちゃった」
レイマーの時や、ガイアスの時と一緒だ。
私はまた、同じ事を起こしてしまったのだろう。
ただの、フィトという少女として、名前を呼ばれたいとフィトちゃんは言っていたのに。フィトちゃんに何かをしてしまった。
その事を思って、しまったと思った。
私が固まっていると、フィトちゃんが目を開ける。
そして体を起こして、固まっている私の事を見つける。私の表情を見て、フィトちゃんはどうしてそんな表情をしているの、とでもいうような顔をする。
「……フィトちゃん、ごめん」
「どうして謝るの」
「髪……色が変わってる。多分、私のせい」
「え?」
フィトちゃんは驚いた表情で、自分の髪に触れる。そして視線を落とす。
髪の色が変化している事にフィトちゃんは目を見開く。
「……髪の色が違う、でもどうしてこれがレルンダのせいなの?」
「多分、私がフィトちゃんの事を祈ったから……それでフィトちゃんに何かしちゃったんだ。フィトちゃん、今までと違うかもしれない」
「祈ったら、何かする?」
「うん。……ランさんが『神子の騎士』って呼ばれているって言ってた。私は、無意識にフィトちゃんをそういうものにしてしまったのかもしれない」
レイマーの時も、ガイアスの時も——今回も、『神子の騎士』にして下さいなんて祈ってはいない。でもどういう風に選択されているか分からないけど、何か強く思った時にそういう風に誰かに変化が訪れている。
私が民族の人たちを大切に思ったら民族の人たちのいる場所でも作物が育ちやすくなったりとか、本当にどういう風な仕組みなのだろうか。神子の力ってよく分からない。そして不思議だ。
私はやっぱりもっと神子という存在について知っていかなければならないと思う。私がどういう力を持っていて、何が出来るのかというのをきちんと知らなければならない。知らないと予想外の出来事を起こしてしまったりするかもしれないから。
フィトちゃんの意志を聞くこともなく、私の祈りはフィトちゃんに作用してしまった。だから、フィトちゃんは怒るのではないかと思った。でも、フィトちゃんは怒らなかった。
「謝らなくていい。……これが、神の娘……いいえ、神子の力の一部なのね」
「……フィトちゃん、フィトちゃんとして過ごしたいって言ってた。でも、私がフィトちゃんに何かしちゃった。だから……」
「いい、気にしなくて。どちらにせよ、私が……ただのフィトとして生きたいと願ったとしても、皆は私を神の娘であった存在として接する。それに、私は皆がレルンダが望まない事をしないようにするためには力があった方が良かった。……私は力なんてなくてもそれを成すつもりだったけれど……、でも、力を望んだのは、変化を望んだのは私よ」
そういえばガイアスも言っていた。聞かれて、答えたからこその変化だと。
私が祈って、フィトちゃんが望んだからこその変化。
「だから、レルンダは謝らなくていい。寧ろ、私に何かを、与えてくれてありがとう。これで、やりやすくなるわ。貴方のために動きやすくなる」
「……フィトちゃん」
フィトちゃんは真っ直ぐに私の目を見て言った。
やる事を決めて、生き生きしている。そんな表情を浮かべている。
人質としてこの村に居た時のフィトちゃんは無気力で、何もしようとしていなかった。生まれ育った村に居た頃の私みたいにただそこにあるだけだった。――でも、今のフィトちゃんはやるべき事を決めてそれを達成しようという熱意に溢れている。
「私は、何が出来るようになったの?」
「ごめん、それは分からないの」
レイマーは美しい金色の羽毛に変わったり一回り大きくなって、グリフォン達の中でも一番強くなった。
ガイアスは銀色の耳と尻尾へと変わって、狼へと姿を変える事が出来るようになった。
なら、フィトちゃんは何が出来るようになったのだろうか。そもそもこの神子が与える祝福って実際にはどういうものなのだろうか。それがまだ私には理解が出来ない。その与えられた変化は、どういう風に変化していくのだろうか。
レイマーやガイアスの出来る事だってまだ全てが把握出来ているわけでもないのだ。
「そうなの。分かったわ。なら、何が出来るようになったか探す」
「うん。一緒に探そう」
フィトちゃんと話し込んでいたら、それなりに時間が過ぎてしまっていたらしい。ランさんが「レルンダ、フィト、起きてますか」と扉を開ける。
扉を開けたと同時に、ランさんは「フィトに神子の祝福が? それは……」とぶつぶつ何かを思考し始めてしまった。ランさんは研究熱心だから、フィトちゃんに変化が訪れたのを見て色々と考える事があったみたいだった。
―――少女と、力無き神の娘 2
(神子な少女の祝福が力無き神の娘に与えられる。何の力も持たない力無き神の娘に何が与えられたのか、まだ誰にもわからない)