少女と、民族と人質の少女 5
私が神子であるという事を肯定すると、フィトちゃんは息を呑んだ。
フィトちゃんたちにとって、その真なる神の娘というのはそれだけ特別な存在であったという事だろう。恐らく、私と同じように神子だったかもしれない人。
その人が没した後も、その人の思いはフィトちゃんたち一族へと向かっていたのだろう。だからこそ、フィトちゃんたちは生きながらえた。一族として破滅していくこともせずに、何とか一族が存命してきた。
――私が寿命でいつか亡くなった後も、私が皆の事を大切に思っていたらその気持ちで皆が助かったりするのだろうか。
そんなずっと先の未来を思う。
その神子であったかもしれない、真なる神の娘と呼ばれた人はどんなふうに生きて、どんな風に死んでいったのだろうか。
「……レルンダが、真なる神の娘と、一緒」
そうつぶやいたフィトちゃんは膝を突いた。
「フィトちゃん!?」
「……真なる神の娘、同じ存在。なんという、幸運か」
フィトちゃんはぶつぶつとつぶやく。それにならうように他の民族の人たちも膝をついている。
その事実にびっくりして固まってしまう。
「……私は、やはり、神の娘でなくて良い。本物がいるなら、私はそんなもの……演じなくていい。レルンダ……ううん、レルンダ様」
「えええっと、様付はやめてほしい」
「……レルンダ。私たちが、真なる神の娘と同じかもしれない……レルンダに出会ったのは、ランさんが言うように、意味がある。……我儘かもしれないけれど、私たちを……導いて欲しい。いえ……私たちが、傍に控えることを許して欲しい。それだけできっと、私たちは大丈夫だから」
フィトちゃんはそんなことを言う。許して欲しいと、そんな言葉を。私はフィトちゃんと友達になった。でも……フィトちゃんは私がそういう存在だと知って、友達という枠から外そうとしているように見えた。
「フィトちゃん……仲良くできるなら私は、皆と仲良くしたい。フィトちゃんたちが私たちと敵対とかしないなら……私は仲良くしたい。私は、フィトちゃんの事、友達と思ってる。だから……そういう許してほしいって言い方はいらない。私は、仲良くできるなら仲良くする。でも私の大事な人たちに、嫌な事するのだけは見逃せない」
「……ありがとう。レルンダ。私も、友達と思ってる。でも友達であると同時に、崇拝の対象であると知ってしまった。友達で、そういう対象というのは駄目? あと、貴方が真なる神の娘と同じ存在であるというのならば私たちの民族の中では誰ひとり貴方の気分を害する事はしないでしょう。私たちの民族はそれだけ真なる神の娘に感謝を持っているから」
フィトちゃんは私の事を友達と思っているという。だけれども、真なる神の娘と同じ存在だと知って崇拝の念も持っているといった。
「……じゃあ、崇拝よりも、友達の比率を高くしてほしい。私はそっちの方が嬉しい」
私がそういえば、立ち上がったフィトちゃんは頷いて、私の手を取った。
「――私は、レルンダの友としてあり、仲間として存在する。力もない私が何を出来るのか分からないけれど……でも、貴方の味方でいる。そのことを、私は誓う。民族の皆にも、貴方が困ることは絶対にさせない。今代の神の娘の名にかけて……絶対にさせない」
フィトちゃんはそういった。決意したような目で私の事を見つめて、私の手を取って。私の味方でいると。何の力もない神の娘とは名ばかりだけれども、それでも私の仲間として存在するとそんな風にいって、吹っ切れたように笑ったのだ。
その場にやってきていた民族の人たちは「真なる神の娘と同じ存在を不愉快などさせない」「これは他のものにも伝えなければ」などと口にしている。
……フィトちゃんと民族の人たちを仲良くさせられたら、フィトちゃんが何の力がなくても民族の人たちに受け入れられたらいいのにとそう思って、行動を起こしたのに予想外の方向にいってしまって私は困惑しているけれども悪い方向にはいっているわけではないと思いたい。
視線をずらせば、ドングさんにランさんが怒られていた。
「なんでレルンダが神子とわかるような事をいったんだ。悪い方向にはいかなかったが……」と、そんな風に。
「レルンダ、人質がいなくても……貴方が真なる神の娘と同じ存在なら私たちは貴方たちが困ることは絶対にしない。私たちにとって、神の娘という存在は特別で——その中でも一番最初の真なる神の娘は最も大切にするべき存在だから」
「……ひとまず他の人たちには帰ってもらっていい? それでフィトちゃんは私たちとちょっとゆっくり話そう」
予想外の展開にいってしまったから、私自身も困惑しているのだ。だからひとまず落ち着いて話をしたいと思った。
その言葉にフィトちゃんや民族の人たちは頷いて、民族の人たちは笑みを浮かべたまま自分たちの住んでいる場所に戻っていくのであった。
―――少女と、民族と人質の少女 5
(神子な少女が神子である事を肯定し、人質の少女は仲間として存在すると決意したように言った)