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商人、追いかける。

「では、行きましょうか」




 僕は、ヴェネ商会のサッダ。

 ヴェネ商会のトップという位置に一応いる。とはいえ、父親から継いだばかりというのもあって僕の統率能力は父さんほどではないが。




 今回、ミッガ王国の王子が獣人たちを助ける動きをしていたため、それに協力することにした。はじめは何を考えているのかと訝しがっていたものだが、調べてみると徐々にその思考がわかってきた。




 あの王子は、獣人の事を本気で助けたいと何かのきっかけで思うようになっていたそうだ。

 ――そのきっかけが、ランドーノ・ストッファー……ランが追いかけていた神子の少女だと知った時、僕は良い機会だと思った。だから接触をし、王子の配下の者と共に神子の元へと向かう事を決意した。



 正直散々止められたけれど、僕はどうしても神子という少女の元に行きたかった。それは神子である少女とのコネを持てれば商会も動きやすくなるだろうという思いももちろんあったが、僕は……何よりも三年会っていないランに会いたかった。




 この三年で散々根回しをして、きちんと準備をした。

 神子かもしれない少女を追いかけて一人で森に入るといったランの事を追いかけようと思って。



 正直、ランが生きている確率は少ないだろう。そもそもその追いかけることにした神子かもしれない少女が生きているかどうかもわからない。だけれども、獣人のものたちは神子の元に行くことを選択した。もしかしたら自分が死ぬかもしれないという思いがあったとしても。

 僕も……自分が死んでしまうかもしれないとしても、ランにもう一度会いたいと思った。だから、追いかけることにした。獣人の者達と一緒に。




「ええ。行きましょう」

「会長、準備は万端です」




 ヴェネ商会から神子の元へ向かうのは、僕だけではない。ヴェネ商会の者達も付き従う。



 ミッガ王国にも、フェアリートロフ王国にも悟られないように秘密裏に行動を起こす準備は大変だったが、森の中には入る事が出来た。ひとまず、ヴェネ商会の事は、僕がいない間は信頼できる者に任せている。万が一、僕が戻らなかったときの事まで考えて準備を終えるのに三年がかかった。二つの王国の中で上手く動くための準備が整ったからこそ、ランの事を追いかけられるのだ。



 僕より、二歳年上で今はもう二十三歳になっているはずのラン。生きていたらどんなふうに過ごしているだろうか。というか、生きていたらではなく、生きているとなんとなく確信している、そしてそう信じていたいと思っているから生きているという前提で考えてしまうのだけれど。



 国が手を出していない広大に広がる森。



 そこにはたくさんの魔物が住んでいて、また危険な植物も自生していたりもする。自然というものは脅威である。人の手が加えられていない自然の中では何が起こるか分からないのだから。



 正直、僕は荒事が苦手だ。

 考える事は好きだ。数字を扱う事も好きだ。正直、家の中で動くことなく考える方が僕は好んでいる。こうして、自然豊かな森の中へと足を踏み入れるなんてランがその先に居ると知らなければ向かわなかっただろう。



 体力もそこまでない僕は、この神子のいる場所を目指す者達の中でも足手まといと言えるかもしれない。僕が商会の者ではなく、彼らに対して物資などの支援をしてたという実績がなければとっくに見捨てられそうな気もする。ただ、幾ら僕がそういう立場だったとしても獣人たちが僕を見捨てる可能性は十分にある。



 でもまぁ、僕はそういう危険があったとしてもランの事を追いかけたいなと思ったのだ。

 だからこそ、三年間準備をしてこうしてランの事を追いかけようとしているのだ。

 ランに会いたいと思うのは……友人だからというのもあるけれども、僕はランに好意を抱いている。ランはそんなこと一切気づいていないだろうし、今は生きていて神子の側に居るのならば僕の事なんて思い出しもしていないかもしれないけれど。だってランは自分の研究対象が目の前にあればそれしか目に入らないような人だから。



 それにしてもその神子は森の中に居るのだろうか、それとも想像も出来ないような森の果てにいるのだろうか。その神子の隣にランはいるのだろうか。ランは三年経ってどんなふうに過ごしているだろうか。……僕は友人だと思っているけれど、ランは僕の事を覚えていてくれているだろうか。神子を追いかけて飛び出て、神子や他の興味深い事が満載で、ランが僕の事を忘れていたらどうしようなどと不安も多い。




 まだ会える保障もないのに、会えたら——とそんな願望ばかりを僕は考えている。

 もし会えたら何を言おう。そんなことを、余裕のあるときはずっと考えてしまっていた。ただ、やはり森の中というのもあって危険がないわけではなく、魔物に襲われる事もあった。



 怪我をしてしまう者もいて、やはりこの森は危険だと実感する。この危険な道中の果てでランに本当に出会えるかは分からない。だけど、会えるという可能性を信じて僕は足を進めた。



 ―――商人、追いかける。

 (商人は会いたいと望んでいるからこそ、危険な中で足を進めた)



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