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少女と、民族と人質の少女 3

「神の娘よ……何を言って」

「何の力もない?」




 民族の人たち——三人の内二人はフィトちゃんの言葉の意味が分からないというように声をあげた。だけど、残りの一人はそのような声をあげることはなかった。

 ただ、何かを悟ったような表情をしていた。フィトちゃんはそのおじいさんの事をまっすぐに見ていた。



「ヨン……いいえ、ヨン爺。貴方は、知っているわね、私たち”神の娘”が決して何の力も持っていないことを」



 それは確信したような言葉だった。

 ヨン爺と呼ばれたその人は、一息をついたかと思えばフィトちゃんの目をまっすぐに見返していう。




「――ああ、知っていた」

「ヨンさんっ、どういうことだ?」

「神の娘が……何の力も持たない?」



 その人の言葉に、他の二人がそれぞれ信じられないといった言葉を発する。




「――何も力がなくても、私たちには、特別な存在が必要だった。だから……、神の娘は、力がなくても特別な存在として過ごしていた。でも……もういらないでしょう、ヨン爺」

「いらない、とは?」

「……私たちの在り方はこれから、きっと変わる。その中で、力のない神の娘はいらない」




 自分たち、民族の在り方は変わっていくのだとフィトちゃんは言う。その後、狼狽している三人や私たちにそれぞれ視線を向けていう。





「私は聞いて欲しい。私たちの民族の事を……。此処にいない皆にも……そして、レルンダたちにだって」




 フィトちゃんはそういって、語り始めた。――民族の人たちの中でも知らない人の方が多い、彼らの話を。自分が神の娘と呼ばれていても何の力もないという事実も含めて、フィトちゃんは語った。




「私たちの民族は……神の娘を擁するが故に、守られ、自信を持ってきた。神の娘は、全てを見通し、神と交信する事が出来るといわれている。――でも、それは違うわ。なぜなら、私も含めて神の娘というのは、一番最初の存在を例外にして、何の力も持たない」



 神の娘は、全てを見通し、神と交信をする。そう伝えられているらしい。




「ずっと昔、私たちの民族に一人の娘がやってきた。それが……一番最初の神の娘。彼女は不思議な力を持ち合わせていたとされている。――神の声を聞き、不思議な力を持っていたその存在が居たからこそ……私たち民族は上手く生きていく事が出来た。刺青を彫る文化も……その頃に生まれたって聞いた。その刺青は、一番最初の……真なる神の娘へ慕う気持ちを表して。そう、考えると……私たちの神とは、真なる神の娘と言える……と、私は思ってる」




 ずっと昔、民族の人たちの所に一人の娘がいた。それが、神の娘。不思議な力を持ち合わせていた娘。





「私たちの民族は……真なる神の娘がいた頃、幸せだったとされている。だけど、真なる神の娘が没してから、私たちは大変な状況に陥ったと聞いている。そこで、私たちは——私たちのために、神の娘を作ることにした……。それが、私のような何の力もない神の娘の始まりだと……私たち神の娘には伝えられている」




 何かしらの要因があり、その神の娘がいなくなった後に民族の人たちは大変な状況に陥った。そしてその際に、神の娘という存在を作ることになった。




「神の娘を作ることによって……私たちの一族は精神的に安定することなる。時には、神の娘が存在しているという事を有利に生かして、その後、私たちの一族は良い方向に向かっていった。時には……とある国の重臣として扱われるぐらいには。だけど、それも続かなかった。私たちは、その立場を追われた。居場所を探して、動いていたと聞いている。――そして私が、神の娘となったのは居場所もないまま、さまよっていたまっただ中だ。私たちは……不思議となんだかんだで一族を存命させてこられた。真なる神の娘以降は、決して……特別な力を持たないというのに。でもそれは……私たちの力ではなく、真なる神の娘の力ではないか……と前任の神の娘は言っていた」





 居場所を無くし、追われていた。だけれども、一族は存命してきた。……フィトちゃんの口ぶりからすると、それはよっぽど奇跡的な事だったのだろう。

 私はフィトちゃんの話を聞きながら少しだけ不思議な既視感を感じていた。




「私たちは……ここにたどり着いた。レルンダたちに出会った。……これは良いきっかけだと思う。私たち神の娘には何の力も持たない。そんな私たちが出会った先で……不思議な力を持つ、レルンダが居た」



 私の方をフィトちゃんが見る。




「私のような、力もない神の娘は普通の娘に戻っていいと、私は思った。私たちの一族の在り方は、変えていくべきだと思うから……」



 フィトちゃんはそういって、話を締めくくった。



 その話を聞いて、民族の人たちは黙りこんでしまっている。神の娘という存在を信じ切っていた人たちはフィトちゃんの話を聞いて衝撃だったのだろう。そしてヨンさんも黙り込んでいる。

 そんな中で、意外にも真っ先に口を開いたのはランさんだった。




「その真なる神の娘……全てを見通し、神と交信をし、不思議な力を持っている———それは、私たちの言う神子と同じ存在かもしれません」




 私はその言葉にはっとなった。

 私の感じた不思議な既視感は、それだったのだろう。――神の娘と呼ばれる存在は、神子という存在とそっくりだ。




 ―――少女と、民族と人質の少女 3

 (神子な少女は人質の少女からその民族の歴史を聞いた)



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