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少女と、民族と人質の少女 1

 ドングさんたちが手配をしてくれて、ひとまず、民族の人たちの中の代表の数名とフィトちゃんを会わせる事にした。場所は私たちの村でだ。ただ、念のために目隠しをした状態で村に連れてくるという事になっていた。



 翼を持つ人たちとの一件もあって、私は彼らの事を仲間の枠に入れてしまっている。私の認識次第で、そういう範囲が広がっていくのって、私の心がそういう能力だと知っている人たちからしてみれば丸わかりなのだなと思うとちょっとだけ複雑な気持ちになる。でも私は神子というものを受け入れることにした。そういうものだというのならば複雑な気持ちになったとしても受け入れると決めた。



 私はその場に同席することにした。フィトちゃんの事が心配だったから。もちろん、私だけが同席するわけではない。私の契約しているグリフォンのレイマー、ルルマー、あとスカイホースのシーフォに、風の精霊のフレネ。

 狼の獣人のオーシャシオさんとドングさん。

 猫の獣人のニルシさんとグエラデさん。

 エルフのシレーバさんとウェタニさん。

 そしてランさん。

 あとガイアスも何かあった時のためにと狼の姿になってその場にいることになった。狼の姿に変身する練習も含めてらしいけど。




「神の娘よ、元気そうで良かった…」

「神の娘よ、久方ぶりですね」




 刺青を入れた彼らは、フィトちゃんの姿を見るなりそのように口にする。

 ”神の娘”という言葉を口にして、フィトちゃんの事を名前で呼ぶ事はない。そのことに何だか悲しい気持ちになった。

 生まれ育った村に居た時、私は名前を呼ばれないのが普通だった。だから一切気にしていなかったけれど、私に唯一優しくしてくれていたおじいさんが悲しそうな顔をしていたのは今の私と同じような気持ちを感じていたからなのだろうか。





「ええ、私はとても息災よ。皆の者は?」




 フィトちゃんは、”神の娘”としてあることに慣れてしまっているのだろう。彼らの態度を一瞥したあと、私やガイアスと話している時とは違う雰囲気の喋り方をした。

 周りが望むままに、フィトちゃんは”神の娘”という立場を演じている。自分ではない自分を演じて、そこに存在している。





「こちらも貴方様のおかげで皆元気に過ごしております」

「神の娘は——」




 神の娘、神の娘——皆が、そう呼ぶ。

 フィトちゃんの名前は呼ばない。



 フィトちゃんの姿は、ありえたかもしれない私の一つの姿なのかもしれないと思う。例えば、私が契約をしている家族たちや獣人の皆に出会う事がなければ——神子様、神子様とただそんな風に呼ばれ、レルンダと優しく名前を呼ばれる事はなかったかもしれない。



 ただ神子として相応しい姿だけを求められ続け、神子として相応しくない事をすることを恐れたかもしれない。そしてフィトちゃんと同じように自分ではないものを演じたかもしれない。

 そういう可能性を思うからこそ、余計にフィトちゃんが神の娘と呼ばれているのが悲しいと思う。




 フィトちゃんは民族の人たちが好きで、だから人質としてこの村にいる間、おとなしくしていた。そして心の奥底では神の娘としてではなく、フィトちゃんっていうただの女の子としてみてほしいと望んでいる。それは、民族の人たちの事を思っているからこそに他ならない。

 民族の人たちだって……、神の娘とフィトちゃんの事を呼んでいるけれど、その言動は本当にフィトちゃんの事を心配しているように見えた。フィトちゃんの事、大切に思っているのだろうと思う。

 フィトちゃんは民族の人たちが好きで、民族の人たちだってフィトちゃんの事を大切にしているのならば、ちゃんとフィトちゃんのただのフィトちゃんとしてみてほしいっていう気持ち伝わると思うんだ。




 人はいつか死んでしまう。その事実をおばば様が亡くなって、余計に実感した。だからこそ、私はなるべく後悔をしないように生きていきたい。私の願いや行動は人によっては我儘と言われるものかもしれない。でも、私は行動しない。色々と考えて、行動しないというのはしたくない。行動しなければ何も始まらないのだから。

 そう思うから、私はフィトちゃんと民族の人たちに近づいた。




「ねぇ、フィトちゃんの事、名前では呼ばないの?」




 なんていって切り出したらいいか分からなくて、私はそう口にしてしまった。こうして近づいたのは軽率な行動だって言われてしまうかもしれない。でも、動きたかった。それにフレネも横に控えてくれているし、皆が側に居るから危険はないと思ったから。





「君は……」

「神の娘を名前で呼ぶなど……」




 民族の人たちは、そう口にする。

 神の娘、という立場はそれだけ彼らにとって特別なものなのだろう。神の娘という立場を作ることによって、民族の人たちは色々と助かっている部分も多いのかもしれない。だからこそフィトちゃんをただの少女としてではなく、神の娘としているのかもしれない。

 そういう事情を私は知らない。



 知らないけど、フィトちゃんの名前を呼ばれたいっていう気持ちは知っている。



 だから——、

「フィトちゃんは、名前で呼ばれたがってるよ?」

 そう口にした。



 ――少女と、民族と人質の少女 1

 (神子な少女は人質の少女が民族の者達と再会する場に共にある。そして行動を起こす)



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