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少女と、おばば様 3

 おばば様の寿命が近づいてきている。おばば様はそう言っていた。本人がいっていることだから、間違いということはないのだろう。



 私はその事が悲しいと思っている。だけど、生物であるのならばいつか死んでしまうというのは当たり前の事だ。それに私は悲しいと思ったとしても、おばば様が安心して旅立てるようにしたい。おばば様の事が大好きだからこそ、おばば様に楽しく過ごしてほしい。



 私はそう願うから、おばば様が長くはないといった時から、皆と話し合いをした。おばば様が実際いつまで生きるかは分からないけれども、その時まで楽しい日々を過ごして欲しいから。



「おばば様に、ご飯作ろう」

「ええ、作りましょう」



 おばば様が笑ってくれるように、具合が悪いおばば様も美味しく食べれるものを作ろうと思った。



 私と、カユとシノミで準備をしている。

 おばば様が居なくなる、と想像するだけでも悲しいけれどおばば様の前で悲しい顔をしないようにしようと思った。おばば様が笑ってくれるように、安心して旅立てるように。

 シーフォに火を熾してもらって、そこで食べやすいようなスープを作っている。

 ランさんも一緒に作ると最初はいっていたのだけど、ランさんは料理が苦手だから別の方面でおばば様のために楽しく過ごしてもらうために頑張る事にしたみたい。



 カユもシノミも、おばば様が居なくなるかもしれないという言葉は口にしない。多分、口にしてしまったら悲しくて泣いてしまうからだと思う。私も、そのことを口にはない。ただ、おばば様が楽しく過ごせるように楽しい日常を過ごそうと思っているのだ。



 それもあってビラーさんたち、翼を持つ者たちにはしばらくこちらに来ないように頼んだ。私たちだけでお別れをしたいと思った気持ちが反映されているのか、それ以来、ビラーさんたちは来ようとしても私たちの村を見つけられなくなっているらしい。神子の力って……本当に不思議だと思う。



 三人で倒れたおばば様が食べやすいスープを作った後、おばば様の下へと持っていった。




「ありがとうね」



 おばば様は嬉しそうに笑ってくれた。

 おばば様が笑う顔を見るのが私は好きだ。誰かが笑っている姿を見ると、嬉しい。



 倒れてしまったおばば様は、それからずっとベッドの上に居る。立って歩くことが出来ないわけではないみたいだけど、体が辛いみたいだった。そういう姿を見ると、ああ、おばば様が居なくなってしまうのだと実感して、悲しい気分にはなる。だけど、その気持ちは出さないようにしている。



 色々な事を教えてくれていたおばば様。

 優しい笑みを零してくれるおばば様。

 いつだって穏やかに私たちを見守ってくれていたおばば様。

 おばば様と過ごした優しい日々を思い起こすと、おばば様が大好きだと改めて思えてならなかった。



 

 皆、おばば様が大好きだから、おばば様の下へと顔を出す。













 おばば様の下へ、私は何度も何度も顔を出した。おばば様の周りにはいつも誰かが居て、皆がおばば様の事を心配しているのだ。

 おばば様は、時間が経過するにつれて少しずつ元気をなくしていった。



 だけど、それでもおばば様は自分の体が寿命が訪れようとしている事をわかっているだろうにずっと笑っている。



 私たちが顔を出すと、それだけでも嬉しいと笑みを零してくれている。

 私の大好きな、優しい笑み。




「おばば様……私、おばば様が大好き」

「ありがとう、レルンダ。私も……レルンダの事を大好きさ」

「うん……」



 おばば様の事を大好きだと告げる機会も、もうないかもしれない。そう思うと、もっとおばば様に大好きだと告げたいと思った。人はいつか死んでしまう……。だからこそ、自分の気持ちを伝えられる機会があるのならば伝えていかなければならないとおばば様を見ながら改めて思った。




 私たち、生きている者はいつか死ぬ。

 限られた時間の中を私たちは生きている。

 おばば様の生は、終わろうとしている。

 ――私の生も、いつか終わりを告げる。



 それを思うと、後悔しないように生きていきたいとそういう気持ちがわいてくる。

 私は今の穏やかで幸せな生活がずっと続いてほしいと願うけど、永遠と続くものはありえない。ならば、変化するにしても良い風に変化出来るように行動し続けたいと思った。



 おばば様の生が閉じようとしているように、誰かの生も寿命が来たら閉じてしまう。これから生きていく中で、別れがないというのはありえない。その事実を、おばば様の生と向き合いながら改めて感じた。


 ――それから二週間後、おばば様は皆に囲まれながら、笑みを浮かべて旅立った。









 おばば様が亡くなってから、おばば様が楽しく過ごせるようにと過ごしていた皆が涙をこぼした。おばば様がもういないと思うと、とても悲しかったから。おばば様の笑みをもう見れない。おばば様の声をもう聞けない。その事実が悲しかったから。



 でもきっと、おばば様は幸せに逝った。

 笑って、おばば様は旅立った。



 その最期はとても穏やかな死だった。アトスさんの時のように、突然の死ではなく、生き物の生が終えての、死。寿命で穏やかに死へと旅立つ事は幸せな事だとランさんはいった。



 ――人が死ぬ事は悲しいことだけど、穏やかに死を迎えられる事は幸せなことだと思う。私は死ぬと思うと怖くて仕方がない。もっと生きたい、皆と過ごしていきたいと思ってならない。けど、いつか、おばば様のように穏やかに死を迎える心境がもっと大人になったらわかるようになるだろうか。



 おばば様。

 私の大好きだったおばば様。

 私たちは頑張るよ。おばば様が心配しないように、皆で力を合わせて頑張るよ。

 ――だから、おばば様、見守っていてね。




 ―――少女と、おばば様 3

 (神子は、大切な人とお別れをする。おばば様は穏やかに旅立った)



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― 新着の感想 ―
[一言] やめてぇぇぇ…こうゆうの弱いのぉ…(´°̥̥̥ω°̥̥̥`) おばあちゃん…(´°̥̥̥ω°̥̥̥`)
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