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少女と、おばば様 2

 おばば様の元へ私は向かった。

 おばば様は息子であるオーシャシオさんと一緒に住んでいる。その家には、沢山の人が集まっていた。それは、おばば様がこの場所で慕われていたという証であると言える。



「おばば様……」



 私は家の中へと入って、ベッドに横たわるおばば様の事を見た。おばば様のすぐ横にはゼシヒさんとシレーバさんがいる。二人とも暗い顔をしている。

 おばば様の顔色は悪い。ついこの前まで元気そうにしていたのに、どうしてという思いが沸いてくる。



「レルンダも、来てくれたのかい……」

「うん……。おばば様、どこか痛い? なら私神聖魔法使う! 薬が必要だっていうのならば私とゼシヒさんでおばば様が元気になるような薬作るよ!」




 どうして、暗い顔をしているの。嫌な予感がする。でも、その気持ちを振り払いたくて私は言葉を言い放つ。



「ねえ、おばば様、だから——」

「いいんだよ、レルンダ」



 おばば様は力のない声で、言った。

 それは、諦めるような言葉だった。



「……レルンダ、私が倒れてしまったのはそういうものではないんだよ」



 諦めたような言葉だったけれど、でも悲しみはその声からはうかがえない。



「それって……どう、いう」

「レルンダ、私は……おそらく寿命だ」

「寿命……?」

「そう、生物の生は限られているだろう。……私は獣人としては長く生きていたんだよ」



 おばば様は優しい顔をしたまま言った。


 寿命……生まれ育った村で私と姉の事を唯一両親に言ってくれていたおじいさんも寿命で亡くなった。生きている者は、いつか死ぬ。そんな当たりまえの事。私はその事を頭ではわかってた。そういうものだと把握していた。――だけど、実際にそういう現実を目の当たりにすると衝撃的だった。私にとってそれは知っている当たり前の現実だったけれど、心では理解できていない事だったから。


 寿命がきてる。寿命が終われば、生きている者はいなくなってしまう。




「……おばば様、死んじゃう、の?」



 口にしながら衝撃的だった。



 本当に……? 死んじゃうのかと。今すぐにでも泣いてしまいそうなぐらい、私の心は揺さぶられていた。

 ゼシヒさんを見る。悪い所を治せる薬など出来ないのかと。でも、ゼシヒさんは首を振る。悲しそうな顔をしている。




「レルンダ……人は死ぬものだよ。いつか、死んでしまう。私は……充分に寿命を全うしているんだ。私は人生に満足している。だから——そんな風に泣きそうな顔をしなくていいんだよ」




 人は死ぬものだと、おばば様は笑う。おばば様は悲しそうな顔なんて一切していない。満足したような顔をして、笑っている。




「でも……私なら——」

「いいや、レルンダ。神子であろうとも……寿命をどうにかすることは、人の死をどうにかすることは出来ないよ」



 ベッドの上で起き上がることも出来ないままのおばば様。まだ言葉ははっきりしている。だけど——寿命がきているということはそんなに長くないだろう。




 神子。

 神子という存在は特別で——だけど、絶対的ではない。



 どうして私の力は、そういうことをどうにかする事が出来ないのだろう。アトスさんの時だって、ランさんは私が居なければもっと被害が大きくなったって言ってたけど、でもやっぱり誰かが居なくなるとか、私は嫌だと思う。



 それでも——嫌だと思ったところで、どうにもならないことが確かにあって。そのうちの一つが、寿命だ。



「私は満足しているんだ。こうして皆で、現在安住できて。皆が私の事を、心配して集まってくれて。それだけでも嬉しいんだ」




 おばば様が居なくなるのは悲しい。

 ――だけど、それは仕方がないこと。



 私はおばば様の、自分の死を受け入れてしまっている気持ちが分からない。……私がおばあちゃんになる頃にはその気持ちがわかるだろうか。

 私の心は、悲しい、悲しいってそればかり思ってる。




「幸い、私はすぐに死ぬことはないだろう。だから……それまでの間は楽しく過ごしたい。死ぬまでの間、皆と楽しく過ごしたいんだ」

「……うん」




 おばば様は自分が近いうちに死ぬ事を受け入れている。自分でなんとなくわかるのだろう。寿命が来ているということが。

 私はとても悲しいけれど……でもおばば様の望みは最期を楽しく過ごすことだから。



 ならば——悲しい顔はやめよう。



 おばば様がいなくなってしまうことは、悲しくて、心が痛くて、泣きたくなる。でも、私はおばば様が大好きだから。だからこそ、おばば様のお願いを叶えたいから。



「おばば様が……楽しく過ごせるように皆で、考える」



 私がそう告げれば、おばば様は優しい笑みで笑ってくれた。

 おばば様の優しい笑みが私は好きだ。安心する笑みをいつも私に向けてくれていて、その笑みを見ると心が温かくなった。



 人は、死ぬと空へと帰るんだって。

 そんな風に言われている。死んだ人が何処に向かうのか実際には分からないけれど—―おばば様が安心して旅立てるように私はしたい。



 ―――少女と、おばば様 2

 (神子な少女は倒れたおばば様と対面する。おばば様と会話を交わし、その望みを叶えたいと願った)



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