少女と、おばば様 1
私は穏やかな日常がとても好きだ。
皆とのんびり過ごす日々は楽しくて、仕方がない。
これからの事を考えると不安は大きいけれども、それでも確かに良い方向に向かっていると思うから。
その日、目を覚ました時、少しだけ不思議な感覚だった。
何だか今まで感じた事がないような不思議な感覚。――いつもなんとなく、良い事が起こるとか、悪い事が起こるとかそういうことを感じ取れる。でも、それとも違う。
分からないけれど、顔を洗ってからランさんを起こしに向かう。ランさんの部屋の扉を開ければ、机に伏せるように寝ているランさんがいた。ベッドもあるのに、何かまとめていてそのまま寝てしまったのだろう。
「ランさん……、朝だよ」
「うんん……」
ランさんは中々起きない。
いつまで起きていたのだろうか。私は昨夜すぐに寝てしまったから分からない。でもこれだけぐっすりと眠っているという事は夜遅かったのかもしれない。
「ランさん……」
「ん……朝、ですか?」
顔をあげたランさんは寝ぼけたように声を発する。
「うん、朝だよ、ランさん。おはよう」
「ああ……おはようございます。レルンダ」
それからランさんは顔を洗いにいった。その間に、私は朝ごはんを取りに向かう。この村は小さく、人数もそんなにいないからまとめて食事が作られている。個別に作ることもあるけれど、今日は作ってくれている朝食をもらいに行くことにした。
ランさんの分まで一緒にもらう。グリフォンたちやシーフォはそれぞれ自分たちが狩った物を食べているのを見かけた。
私は色々な人とご飯を食べる。今日はランさんと一緒に食事をとる。
顔を洗ってきたランさんと向き合って、食事をする。今日の朝食は山菜を多く使ったものである。美味しい。
私とランさんもあまり口を開かずに、黙々と食べる。この時間が結構私は好きだ。
食事を終えて、会話を交わす。
「ランさん、ビラーさんたち今日も来るかな」
「おそらく来るでしょう」
ビラーさんたちは、毎日のように私の側にやってくる。それは私の側に居る事を望んでいるかららしい。ビラーさんたちは私たちが受け入れる事を認めてからはこの村の場所をなんとなくわかるようになったらしい。とはいえ、大人数はこれないらしい。それも神子としての力のようだけど、正直どういうものであるか、分からない。その不思議なさじ加減とか、どういう基準なのかとか……やっぱり不思議だ。
ビラーさんたちは私の事を、特別に感じているというのは分かる。私は翼を持つ人たちの事がとても不思議で、翼をよく見てしまう。流石に、翼を触る事は叶ってないけれど……仲良くなれたら触らせてもらえたりするのだろうか。
「あの方たちはレルンダの事を特別にしています。よく考えたらあの方たちは私と同じですね。私もレルンダの側に居たいと思ったから、国を飛び出した。そして今、レルンダの側にいる。そしてあの方たちはレルンダの事を気にして、レルンダの側に居たいと思っている。……でも、あの神官ほど、露骨ではない。イルームさんはレルンダを崇拝して、レルンダのいう事は全て聞いてしまいそうな危うさはあるけれど、あの人たちはそんな危うさはない。とはいえ……、あの翼を持つ人たちは空を飛ぶ力を持っていますから警戒心をなくすことは難しいですけれど。でも……、レルンダは彼らに悪い予感はしないのでしょう? なら、おそらくあの者達は大丈夫でしょう」
「うん」
イルームさんは、相変わらず私に驚くほどの態度をしている。……もう少し私がイルームさんが暴走しないようにうまく出来たらいいのかもしれないけれど、難しい。あとフィトちゃんの神の声が聞けるとかの事情は分かったけれど、フィトちゃんとイルームさんを会わせたらどうなるか現状分からない。……皆で仲良くできたら一番いいのだけど、上手く仲良くできたらいいなと思う。
どのようなタイミングで会わせたり出来るだろうか。今の所、保留になっている。
「イルームさんは……もう少し落ち着いてくれないかな」
「どうでしょうね。時間が解決してくれればいいのですが。もう少しだけでも落ち着いてくれればと思うのですが」
「うん……」
ランさんとそんな会話を交わして、家の外に出た。
それからしばらくして、ガイアスが私たちの元へかけてきた。
「レルンダ! ランさん!」
「どうしたの、ガイアス」
ガイアスが慌てた声をあげている。そんなに焦っている声を聞いたのは久しぶりだった。
私はガイアスが続けて発した言葉に、頭が真っ白になってしまった。
「おばばが倒れたんだ!!」
――おばば様が倒れた?
私はその言葉の意味をすぐには理解することが出来なかった。
―――少女と、おばば様
(神子の少女は穏やかな朝を過ごす。そんな中で一つの報せを受けた)
神官の名前途中から間違えている所あったので直しました。