少女と、翼をもつ者たち 1
「あの方たちが誰かに襲われているですか……」
「殺そうとしていない状況で、翼をもっている」
「そして……レルンダを探しているですか」
ランさんとドングさんが難しい顔をして、そんな会話を交わしている。二人が冷静な態度で良かった。私は自分で慌てていて、頭が回っていない自覚がある。だから二人まで慌ててしまったら何か間違った選択肢をしてしまったかもしれない。良かった、二人の冷静な様子を見ていると私も少しだけ落ち着いた。
「……あの人たちの所行かないと」
「待ちなさい、レルンダ。貴方にどういう目的で会いたいと告げているかもわからないのですよ。貴方の事を神子というのを把握して狙っているとしたら大変です。それに、翼をもつ種族など私は存在していることを知りませんでした。まだまだ私も勉強不足なのですね。世の中には様々な種族が存在するという事を把握していたつもりでしたが……。本当に世の中は奥深い」
ランさんは私の言葉に待ったをかけながら、その翼をもつ種族というものについて言葉を紡ぐ。ランさんは勉強熱心な人で、沢山の事を知っている。そんなランさんも知らない人たち。
「……でも、ランさん。私ね、嫌な予感とか全然しないの。いつもなんとなくで感じる感覚が、私がそこに行くことは問題ないと言っているの」
嫌な予感が全くしない。――寧ろ、そこに行く事は問題がない。そんな感覚に何故か陥っている。あの民族の人たちが襲われているという状況なのに。
「そう、ですか。ならば、あのイムールさんの時と同じように覗いていて、出ても大丈夫と思ったら出てください。レルンダの予感が間違える事はないと思いますが、私は貴方に何かがあるのは不安ですわ」
「うん」
ランさんは私の事を心配してくれている。だからこそ、私の予感の事を信頼してくれていても一旦様子見をするように言ってくれている。
「翼をもつ種族……そんなものが近くに住んでいるということも把握できていなかった。俺たちはその存在に気づいてもなかった。襲われたら一たまりもなかっただろう。それに空を飛べるというのはとても大きな力だ。その翼をもつ種族たちが、あの者達を殺していないという事実はこちらと敵対する気がないという事だと思う」
「そうですね。それは確かだと思います。翼をもつという事はグリフォンたちのように空を自由に駆けまわる力を持っているということ。そんな彼らならばあの者達を殺そうと思えば殺すことなど簡単でしょう」
二人は冷静に頷き合っている。
グリフォンやシーフォのように、空を自由に駆ける事が出来る種族。確かにその力があれば、誰かの命を奪う事も簡単に出来るかもしれない。そう思うと、恐ろしい事実だと思った。
とても大きな力を持っている人たち。その人たちが私たちのとても近くに存在する。でも———嫌な予感はやっぱりしない。
私はあの民族の人たちの元へ、皆と向かうことになった。
翼をもつ人たち。どういう人たちなのだろう。どうして私に会いたいと思っているのだろうか。私の事をどうして知っているのだろうか。
空を自由に駆ける事が出来るということは、上空から私たちの事を見ていたのだろうか。その人たちと、仲良くなれるだろうか。争いとかにならなければいいと願ってならない。
私はカミハの上に乗っている。
あの民族の人たちの住んでいる場所に近づくと、私は一旦皆から離れて身を潜める。
「お前たち、どういう目的だ」
ドングさんの声が聞こえた。
視線をそちらの方にじっと向ける。
その視線の先に翼をもつ人たちがいる。見た目は、大体が人間である私たちとあまり変わらない。だけど、明確に違う部分がある。それは、背中から生えた大きな翼。鳥の翼が人の背中から生えているのは何だか不思議な気持ちになる。あれは作り物でもなんでもなく、本当にあの人たちの背から生えている。飛ぶための物。
彼らの足元で民族の人たちが倒れているけれど、目立った傷は見られない。
翼をもつ人たちは十人近くいるだろうか。その手に武器は持っていない。本当に命を奪うために民族の人たちを襲おうとしていたわけではないのだと思った。
でも、どうして襲っていたのだろうか。
その翼をもつ人たちはドングさんたち獣人を見て笑った。
「ああ、来たか」
笑ったその人はドングさんに視線を向ける。
足元に居る民族の人たちは「どうして来たんだ」とつぶやいている、どういうことなのだろう。
「俺たちは気になっているだけだ。そっちに人間の娘がいるだろう? 会わせてほしいだけだ」
「……どうして、彼らを襲った?」
「ああ、こいつら、俺達にあの娘の場所を吐かなかった。痛めつければ吐くかと思ったが、あの娘の情報を一切吐かなかった。よっぽど、あの娘が大切なのだな」
そういった翼をもつ人の言葉には驚いた。民族の人たちが痛めつけられてたのは私の情報を吐かなかったから。私の情報を吐かなかった、そして私を守ろうとしてくれていた。……そうなのだろうと思うと、ちょっとびっくりした。
「どうして、会いたがってるんだ?」
「以前見かけた時に、心がざわついたから。――俺達が放っておいてはいけないと、一度会うべきだと、直感が告げていたから」
その翼をもつ人はそういって、真っ直ぐにドングさんたちを見ている。
「……それはどういう意味だ? あの子に危害を加えるのは許さない」
「そんな気は一切ない。そもそもただの人間の娘なら俺たちにとっては興味がない。空を自由に飛ぶことも出来ない種族など、俺達には気にする必要もない。ただ、あの娘を見た時に気になった。その心のざわめきが勘違いであったなら俺たちはお前たちにはかかわらない」
「―――それが、勘違いではなかったのならば?」
「少なくとも危害は加えない。かかわってからしか俺達がどうするのか俺達にも分からないが、気になる存在なら気にするだけだ」
―――この人たちは、自分たち以外に興味がないのだろう。それが見てとれる。翼をもち、空を駆ける存在の事は気にするが、それ以外の人たちはどうでもいいと思っている。そんな人たちが私の事を気にしてる。
―――少女と、翼をもつ者たち 1
(神子な少女は翼をもつ人たちの話を、隠れながら聞いていた)




