少女と、神官の崇拝
フィトちゃんと少しだけ距離を縮める事が出来て、友達になれた。そのことでぽかぽかした気持ちになって、とても嬉しかった。
フィトちゃんの事はまだ話し合いがされているのが現状だという。
お友達になれた事を報告したらランさんは「良かったですわ」とにこにこと笑みを零していた。
ランさんはこの村での記録を沢山とっている。その記録を元にこの村を良くしていこうとしているのだ。ランさんは頭の回転が速くて、何かを学んでいるときはそれに何処までも夢中で、やりたい事が見つかっているランさんには憧れる。
フィトちゃんと友達になった二日後、イルームさんとシェハンさんの元へと向かった。この二人も、下手に自由にさせていると何かやらかすかもしれないという危険があるのもあってほとんど同じ部屋で過ごしてもらっている。
イルームさんは私の姿を定期的に拝みたい、とだけ言っているらしく、時々イルームさんたちの元へと向かう。私の姿を見たからって何かあるわけでは決してないのだけれども……というか、私の事をそんな風に特別視されるのは、あんまり好きじゃない。でも私がそういったところで、イルームさんにとって私は”神子様”でしかないというのも受け入れている。
私の大好きな獣人の皆や、後から仲間になったエルフの人たちはそれぞれグリフォンや精霊という信仰対象を持っていた。それもあって、私という存在に普通の態度をしてくれる。只のレルンダとして接してくれている。ランさんも私の事を思いやってくれている。だけど、こうして人が増えれば増えた分だけ、私の事を”神子様”として接して、イルームさんのように何かを拝むような姿勢を取られる事もあるのだ。
でも大丈夫。私には皆がいるから。グリフォンたちやシーフォ、フレネは私の家族で、ガイアスやドングさんたち、エルフのシレーバさんたち、ランさんは私の仲間。皆が居てくれる。それならば、私の事を特別視してくる人たちがいたって大丈夫。
どうあがいたって、私は神子であるという事実は変わらない。特別な力があって、その他とは違う力を使ってでも皆を守っていこうと、そう決めたのだから。
私はイルームさんとシェハンさんに私の知らない事を沢山聞いている。大神殿の神官という立場だからこそわかること、シェハンさんのように冒険をしているからこそわかる事。それを教わっている。人が増えたからこそ、色々な考え方や情報が入ってきて、私の中の常識や当たり前は他の人にとっての当たり前でない事が沢山あるのだと学べる。
「アリスは——」
そして、イルームさんは神子として引き取られていった私の姉の事をとても悪く言っていた。我儘三昧だったとか、見た目は美しくてもあれはと告げ、それと同時に私をほめたたえる。
私は正直、姉の事は好きでも嫌いでもない。―――どちらかというと無関心というのが正しいのかもしれない。私と姉の扱いの違いは他人から見てみればとてもひどい扱いだった。今の生活で感じる当たり前を、生まれ育った村に居た頃は感じる事が出来なかった。でもあのころは姉が特別で、特別ではない私が姉と同じ扱いをされないのは当然であった。イルームさんは私の事をほめたたえるけれど、それは私が神子であるからだ。私が神子ではなければ、私なんてほめたたえはしないだろう。私の見た目を褒められても、姉の方が綺麗なのになぁって正直な感想を抱いてしまう。
私が神子でなければ、イルームさんはこんなにもほめたたえない。でも考えてみると私が神子だからこそ、私は家族たちと契約をかわせて、此処までたどり着けた。神子であるという事は多分、私の一部のようなもので、私と切り離せないものなのだ。
「レルンダ様、貴方様の望みを私は叶えたい。貴方様のために何かをしたいのです」
また、イルームさんはよくそんなことを言う。なんて危険な言葉だろうと思う。だって、本当にイルームさんは私が口にした事を、全て肯定して何かを起こしてしまいそうだった。
例えば私が口にした事が残酷な事だったとしても、私がどれだけ間違った事を口にしようとも。
なんだろう、あとは私と出会ってからイルームさんはずっと興奮状態で、どこか落ち着きがない。私のために何かをしたいという気持ちでいっぱいな感じがする。私はもっと落ち着いたイルームさんと話がしたいと思うのだけど……落ち着いているイルームさんが多分、本来のイルームさんだろうから。
シェハンさんの方が落ち着いている。シェハンさんはイルームさんと一緒にいるけれども、私に対しては「レルンダ」と呼び捨てである。正直そっちの方が嬉しいのだけど、イルームさんはそれに毎回何か言いたそうにしたりする。
もう少しイルームさんが興奮を抑えて、冷静になってくれたらいいのに……と私は毎回思ってならない。
――――少女と、神官の崇拝
(神子な少女は神官の崇拝に戸惑いながら、もう少し冷静になってほしいと願ってやまない)