少女と、少年の出来る事
フィトちゃんには後日改めて会いに行くことになった。フィトちゃんの元へ一人で会いにいくのはまだ駄目だといわれているので、改めて誰か都合が良い日を作ってから行くことになっているのだ。
私は今、狼の姿に変化しているガイアスと共に居る。
というのも、狼の姿に変化することが出来るようになったガイアスが実際にどのような事を出来るようになったのかというのがまだ分からない。出来る事が増えているのならば、その出来る事を使いこなせるようにしたいとガイアスはいっていた。
私も魔法とか、もっと使えるようにならなければと一緒に学んでいる。
魔法で空に浮けるようになって、少し自由に動けるようになっている。相変わらず今の所風の魔法以外はそこまで出来るわけではないけれど出来ることが少しずつ増えているのを実感している。そのことが嬉しくて仕方がない。
狼の姿のガイアスは、私の側をかけている。素早い。そして大きい。もふもふなガイアス、とてもかっこいい。
「ガイアス、魔法は使えそう?」
「がうがうがう(んー。難しい)」
走り回って、一息をついているガイアスの体を撫でる。狼の姿のガイアスの毛は時々ブラッシングして上げている。
私も、ガイアスも出来る事をもっと増やしていきたいと少しずつ学んでいる。
「ガイアス、レルンダの影響もあって風の魔法なら上手く使えるとは思うんだけど」
「がうがう(使えるようになりたい)」
「ひとまず、一旦人の姿に戻ってみたら? その姿になるのも魔力を使っているだろうから」
ガイアスは私の影響で耳や尻尾の色が変化したり、狼の姿になったりした影響でフレネの姿や声をいつも聞けるようになっていた。ガイアスはフレネの言葉に、元の姿に戻った。人の姿に戻ると、ガイアスは一旦座り込んで休んでいる。前に変化した時よりも疲れが少なく見えるのは何度も変化して慣れてきたからというのもあるのだろうか。それとも何かしらの影響で魔力が増えたとか? 今の所、そういうことも分からないことだらけだ。
もっと自分の力の事を知っていきたい。もっと私が何をできて、何ができないかその事をきちんと見極めたい。自分の限界が何処なのか、そういうことを知っておかなければ何かあった時に大変だから。
というか、私もがんばったら姿を変えれたりするんだろうか。そういう魔法あるのならば、夢が広がると思うのだけど。
風の魔法をガイアスが使えるようになるために私がまずガイアスに風の魔法を見せる。風の刃とも呼べるものを出現させて根本から一本の木を切り落とす。木が大きな音を立てて倒れていく。
ガイアスも同じようにやってみようと目を瞑る。集中しているのだろう。銀色の耳や尻尾が微かに動いている。
魔力がガイアスの周りに集まっているのがなんとなく知覚できる。そしてその集まった魔力が形となる。魔法が完成する直前にガイアスは目を開く。魔法が形成され、私が切り倒した木と別の木にぶつかる。威力が強くなかったのか倒れることはなかったが確かに魔法は形成された。
「やった!」
ガイアスが嬉しそうな声をあげている。
少しずつ出来る事を私たちは増やしていけている。出来ることが増えていくことは嬉しい。
「ガイアス、浮けるように頑張ろうよ。私、ガイアスと空の散歩、してみたい」
ガイアスが空に浮けるようになって、一緒に空の散歩できたら楽しいと思う。というか、私が皆を浮かせられるぐらい魔法が使えるようになったら、魔法が使えない皆とも一緒に空に浮けるようになったりするのだろうか。そのくらい、魔法が使えるようになれたらって考えてしまう。
「ああ!」
ガイアスも空の散歩と聞いて、目を輝かせて頷いた。
「もっと、出来ること増やして、皆とずっと一緒にいられるように頑張りたい」
もっと、もっと———、どんどん願望が沸いてくる。出来る事が増えても、もっと先へ行きたいのだと。その思いが沢山わいてくる。それはガイアスが私に”皆が笑える場所を作りたい”って夢を提案してくれたから。ガイアスが願って、口にしてくれたその夢は私だけじゃなくて、私たち皆の夢になった。
あの時、ガイアスが口にしてくれた夢があるから、その夢に共感出来たから、その夢のために頑張りたいと思ったから———、だからこそ、何があっても頑張ろうって思えるんだ。
「うん……俺も、皆と一緒にいられるように、皆が安心できる場所作れるように頑張りたい」
今は幸い、暮らしていく上で問題点は起こっていない。またいつか、戦わなければならない事が起こるかもしれない。ううん、ただこのまま平穏に時が過ぎていくとは思えない。
だからこそ、出来る事を増やしていかなければならない。私たちが、私たちの夢をかなえるために。
「出来ること、沢山増やそうね」
「ああ!」
二人で頷き合って、またしばらくの間私たちは自分たちが出来る事を増やしていくために行動を続けるのだった。
ガイアスは狼の姿に変化したまま魔法が使えないかやってみていたけれど、それはまだ成功できなかった。
―――少女と、少年の出来る事。
(神子な少女は、少年と出来る事を増やしていく。すべては自らの願う夢をかなえるために)