少女と、獣人の村 1
私たちを出迎えたのは、多くの獣人たちだった。ただし、この村は狼の獣人しかいないのか、全員狼の耳と尻尾のようだ。
獣人たちは、私に注目している。そんな風に見られると、ちょっと怖い。注目されるなんてこと人生の中でなかったから、正直慣れないし。
「……どう、しよう」
降りて挨拶するのが正しいのだろうか、獣人たちを前に私はどう行動をすればいいのだろうか。正直それが分からなかった。シーフォの上で私は困っていた。
そうしていれば、レイマーたちがアトスさんたちを乗せている籠を下ろした。二人ずつのっていたからか、下ろした時結構大きな音がした。
「ぐるぐるぐるるう(ちゃんと運んだから誉めなさい)」
「ぐるぐるぐるぅう(そうだそうだ)」
リルハとカミハ夫婦が籠を下ろしたあと、そんな風に鳴きながら私に近づいてきた。大人のグリフォンでもこの番はこういう可愛いところがある。
「ありが、とう」
お礼を口にして、シーフォの上に乗ったままリルハとカミハの頭を何度かなでる。気持ちよさそうに二匹は鳴いた。
私は皆にも、お礼を伝えて、シーフォから降りた。
集まった獣人さんたちは、何だか驚いたような顔をして私の方を見ている。
私は、獣人さんたちの方を向いて、
「私、レルンダ」
まずは、自己紹介。
アトスさんたちが私の名前を伝えているかもしれないけれど、自分の口から挨拶をするべきだと思ったから口にした。
「よろしく、お願いします」
私はそういってぺこりと頭を下げる。グリフォンたちと、シーフォも私の真似をして頭を下げた。
それに獣人さんたちは慌てはじめた。
「グリフォン様に頭を下げられるなんてっ」
「そんな、頭を下げなくて結構です!!」
そんな声が聞こえてきて、グリフォンたちに頭を下げられたことに慌てているということが分かった。
籠から降りてきたアトスさんがその場を収めてくれた。アトスさんはこの村の長なんだって。知らなかったから、ちょっとびっくりした。
それから、アトスさんとガイアスが村の中を案内してくれた。
この村は森を切り開いて作られたという。それもあって一歩村の外に出ると広大な森が広がっている。森の中から時々魔物が飛び出してきたりするから大変なんだっていってた。
そんな言葉と共に、
「グリフォン様たちにそういう魔物たちをどうにかしてもらえないだろうか」
とそんな風にも言われた。
それは別にかまわないことだった。というより、お世話になるのだからそういうことは進んでやるべきだと思っていた。
「レルンダとグリフォン様や《スカイホース》をこちらに来させることに対して複雑な思いを抱えているものもいる。そういうものを抑えるためにも、頼む」
「……お世話になる、から、やる」
そういったらアトスさんはほっとした顔をした。
私がここに来たいって我儘を言ったからアトスさんに苦労をかけてしまったのかもしれない、ということに初めて気づいた。よく考えずに口にしてしまっていた。
「……無理いって、ごめんなさい」
「ここに来たいといったことか? 確かに少しは説得が大変だったが、グリフォン様や《スカイホース》にそれだけ好かれる人間と交流を持てるということは、こちらとしても利があるからそこまで気にやまなくていい」
謝ったらそんな風に言われた。
私は村に行きたいから、ただ行きたいと口にした。
だけど、アトスさんは色々考えた結果、私の申し出を受け入れてくれたらしい。
大人って、色々難しいこと考えている、らしい。
「ただ、レルンダに悪いようにはしない。グリフォン様や《スカイホース》を敵に回すことを我らはよしとはしない。それに、ガイアスも君を気に入って———」
「父さん、何言っている!」
「何って、あれからずっとレルンダの話ばかりしていただろう」
「……それはっ、こんな奴、そんないないから……」
皆が居るから、私は悪いようにならないらしい。皆に出会ってから、獣人たちに出会うっていう順番で良かった。逆だったらどうなっていたのか、正直想像が出来ないけど今より大変だったかもしれない。
私は、誰かから暴力を振るわれそうになったりするとそれが阻止されたり、食べ物が外で見つかったりとか、そういうことがあるから死ぬことはないだろうけれど、今みたいに穏やかに過ごせなかったかもしれない。
「私の、話……嬉しい」
アトスさんとガイアスの話を聞きながら、ガイアスが私の話をしてくれていたと思うと何だか嬉しくなった。
「私と、ガイアス、友達、なれる?」
友達というものが私には居ない。その言葉の意味を知っているし、姉の周りには沢山人が居た。姉と村の子供の関係は話に聞いていた友達という関係とは違うように見えたけど、姉の周りの子供同士は友達という関係だったのではないかと思う。
思わず聞いたのは、初めての友達が手に入るのではないかと思ったから。
「……もう、友達じゃねーの?」
「そう、なの?」
「少なくとも、俺は友達っていっていいと思ってたけど」
「……そうなんだ。嬉しい」
「何が?」
「友達、初めて」
そうなんだ。ガイアスは私をもう友達と思ってくれているんだ。そう思うと何だか嬉しかった。
初めての、友達。
嬉しい、って気持ちが心に湧いてくる。
私の言葉にアトスさんとガイアスは驚いた顔をした。どうして驚いているんだろう?
「……レルンダは、そういえば捨てられたとも言っていたな」
「ん、そう」
「友達も、居なかったのか?」
「ん」
私は姉のオマケみたいなものだった。姉は私のこと召使か何かのようにしか思ってなかったみたいだし。あんまり姉と会話をしたこともないから、姉が私をどう思っていたかは分からないけど。
お母さんとお父さんは先祖返りで、家にかろうじて残っているご先祖様の記録の姿とそっくりな姉を可愛がっていて、神聖視していた。私が必要以上に近づくことも嫌がっていた。村の人たちも姉を特別に思っていて、そんな姉を生んだ両親が私を嫌っていたからそれにならっていた。
改めて、村にいたころの私はほとんど一人でいたのだなって思った。
ただ生きていたころ色々私に教えてくれたおじいさんは別だった。おじいさんが居た頃は私に話しかけたりしてくれたから。
「レルンダ、じゃあ、此処で沢山友達作れよ」
「……なって、くれる?」
「俺も、手伝うから」
此処で友達を作れというガイアスに、私はなってくれるだろうかと不安になった。そしたらガイアスは笑ってくれた。手伝ってくれるという。嬉しい。
アトスさんにもなんか頭を撫でられた。
私、頭なでられたの初めて。
「頭、人に撫でられるの、初めて」
そうつぶやいて、アトスさんを見上げる
「もっと、撫でて、ほしい」
撫でられたことが気持ち良くて、驚いた顔のアトスさんにそういったら、ガイアスも一緒に私を撫でてくれた。
それから、私と皆がしばらく生活したりできるようにって、準備された簡単な家に案内してもらった。
――――少女と、獣人の村 1
(多分、神子な少女は獣人の村に到着し、友達を作ったり、初めて頭を撫でられたりする)




