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猫は、暗躍している。

「なんで人間なんかに媚を売っているんだよ」

「どうして———」



 ――俺の事を見ている同じ獣人たちの目は厳しい。俺は通常の奴隷たちよりも良い暮らしをしている。何故なのかといえば、俺を買った人間である伯爵家の娘に気に入られているからである。俺の顔を気に入っているらしい”お嬢様”に好かれるような態度をし続けている。

 俺はお嬢様に従順であるように動いている。お嬢様が望むから、お嬢様が俺の本音に気づかないように耳や尻尾をあえて触らせて、お嬢様を特別扱いしているように見せているのはすべて捕まっている仲間たちのためだ。




 結果が良ければいいと俺は考えている。今、こうして厳しい目を向けられている事実は俺にとってつらい事実だ。でも、辛かったとしても俺は俺の目的を叶える。





 母さんと姉さんには会えていない。生きていてくれている———と信じている。信じなければやってられない。だけど、時々不安になる。俺がこうして動いている間に母さんと姉さんが死んでしまったらと考えると生き急ぎそうになる。だけれど、慌てて行動して失敗してしまっては俺のこれまでが全て無駄になってしまう。




 お嬢様をたぶらかして、獣人たちを集めさせている。お嬢様はこの家の中で甘やかされている。そして我儘だ。集めた獣人たちへ興味がいかないように、俺がお嬢様の興味を引き付けている。



 ――お嬢様は獣人を集めているということで、獣人狂いとか呼ばれだしている。




 お嬢様は、というより貴族令嬢というものは処女であるかどうかが重要であるらしい。そういうこともあって、流石に俺は体までは奪われていない。ただ耳や尻尾は触られまくっているけれど。

 お嬢様を言いくるめて、獣人たちに酷い扱いをしないようにはしている。他の所で奴隷をやるよりは、断然、此処で奴隷をやる方が人として良い生活は出来ているだろう。



 この頃、隣国で発見されたという神子が偽物であったということが正式に発覚した。そのことがあって、国内はばたばたしている。国内では、奴隷たちが事を起こしてしまっている。同じ獣人たちの奴隷の中でも行動を起こして鎮圧されたという噂も入ってきている。鎮圧——というのが殺害されたのか、とらえられたのか、そこまでは入ってきていない。



 今の所、ミッガ王国の国内は確かに混乱しているが、まだ、国力を残している。もっと大きな転機があれば——そう、俺は願いながらお嬢様に気に入られていった。



 お嬢様に気に入られていく中で、もちろん、俺のことを怪しむものは多く居た。俺が獣人であり、この国を好いていることはありえない立場だったから。

 お嬢様は俺のことを信じている、と口にした。お嬢様は俺が敵になることはないのだと。必死に、必死に訴えて、俺の事を一切疑うことはない。そのことに、複雑な気持ちにはなる。だけど、俺は獣人たちのために、俺達のために動くのだ。

 お嬢様は周りを信じさせるために、俺に命令をした。周りに促されるままに、俺に獣人に酷い真似をしろと。




 俺はそれを実行した。殴った。本気の力で。怯えている彼らに。胸が痛かった。だけど、目的のためにはやらなければならないことだった。本人に聞こえるように小さく謝罪はしたが、俺は皆からしてみれば酷い奴だろう。



 ――俺は獣人の味方ではなく、お嬢様の味方である。お嬢様に首ったけで、お嬢様のためならどれだけでも動けるのだと。それを見せつけるために。



 本当、良かったよ。相手を殺せとかそういう命令じゃなくて。まだ言いがかりをつけてきた人間がお嬢様と同じぐらいの年頃で、そこまで危険な行為を命令してこなくて本当によかった。



 そのことにほっとする。それと同時に俺はまだ覚悟が足りないのかもしれないというのを実感する。

 目的を叶えるために、何かを犠牲にせずに叶えられるものなんてない。―――誰も失わずに俺の目標が叶う、とは思えない。だけど、なるべく誰も失いたくはないとそう願う。なるべく多くの者達が生きて、この奴隷という立場を抜け出す。それが、俺の最終目標。



 お嬢様の信頼を勝ち取った俺は、益々お嬢様の側にいかなる時でも控えるようになる。それと同時に、お嬢様の周りの貴族だからこそ手に入る情報をひたすらに集めていった。そうすることで、俺や獣人たちが奴隷から抜け出すための手がかりと情報を集めているのだ。






 ――少しずつでもいいから、俺は俺の目標を叶えるために人間社会に溶け込む。そして俺がミッガ王国という王国の中での行動範囲を少しずつ広げていっている。

 そうしている中で、俺はおかしな動きをしている王子の存在を知った。



 ―――猫は、暗躍している。

 (その猫は、奴隷から解放するという目標の元、お嬢様の側に控える。本心を隠して、暗躍している)




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