少女と、神官 4
私は仲良くしたい。なるべく、仲良くできる人とは仲良くしていきたい。もちろん、仲良く出来ない人や分かり合えない人もいることは理解している。
私が幾ら仲良くしたいと思っていても、向こうが仲良くしたいと思わなければ仲良くは出来ない。
でも神官の人は、私と仲良くしようと思ってくれている。でも、その好きって気持ちが強すぎるからきちんとしなければならない。一緒に居よう、仲良くしようとするのならば、私には覚悟がいる。
私は、神子かもしれない……ううん、あの神託を受けたというイルームさんの話を聞く限り、かもしれないではなく、神子であるというのが正しいのかもしれない。―――かもしれない、ではなく、であると思わなければいけないのかもしれない。とはいえ、イルームさんが言っていることが本当であるかは分からない。それでも私に他の人が持ち合わせていない力があるのは確かであって、その力を使って皆を守っていきたいとそんな風に思っているのは確かだ。
だからこそ、自分が特別であることを受け入れて生きていくのならばランさんの言うとおり、そういう立場として生きていく覚悟を持たなければならないのだとは思う。
誰かを利用するとか、そういうこと今まで考えた事はなかった。でもイルームさんと仲良くしていきたいと思うのならば、私はイルームさんへの影響力が強すぎるから言動に気を付けなければならない。そんなこと私に出来るだろうか、と思うけれど、そんな風に出来るだろうかと不安になっていたら何もできない。
――――私は、悩んで、ランさんたちに相談しながら結局イルームさんとあの魔法剣士さんを受け入れることにした。
私を、”信仰”しているといっても過言ではないといわれているイルームさんが私の言動に暴走してしまう恐れがあるのと、何を思ってイルームさんと一緒にいるかよくわからない魔法剣士さんに対する不安はあるけれども、受け入れる道を私は選んだ。もちろん、ただ無条件に受け入れるということはしない。監視することは決定されている。
私たちがイルームさんの元へ向かって、「貴方を村に置くことにした」ということを告げると、イルームさんはそれはもう嬉しそうな笑顔を見せていた。
「イルームさん」
「はい、なんでしょうか、神子様!!」
「私は、村の皆が大事。だから……勝手なことはしないでほしい。何かやろうとするなら、私に一言いって欲しい」
私のぽつりと零してしまった言葉でもかなえようとするかもしれない、そんな危険性がイルームさんにはある。私のためを思って、勝手に行動を起こすかもしれない。そういう可能性があるとランさんたちに言われたからこそ、相談して、一番最初にその言葉を言った。
私が村の皆が大事なのだときちんといっていれば、イルームさんは私のためにと村の皆にとって不利益になることをしないだろう。
そしてこういっておけば、私はイルームさんが困った事をしようとする前に止められるだろうと思ったから。
私の言葉にイルームさんは、
「はい!!」
と、躊躇いもせずに頷くのだった。
本当に私の言うことならば何でも頷いてしまいそうな勢いだった。私の言葉が全てとでもいうような態度は、何だか久しぶりに姉のことを思い出してしまった。
姉のいう事は正しい。———そんな風に生まれ育った村の皆は姉に盲目的だった。両親も村の人も、姉の願いを叶えようとしていた。その様子を思い起こすと、やっぱり言動には気を付けなければならないと改めて思うのだった。
イルームさんと、魔法剣士のシェハンさんを村へと案内した。
目隠しをして連れて行った。それは村の場所が分からないようにするためだった。イルームさんは一切躊躇いもせずに目隠しをしてくれた。シェハンさんはイルームさんがするならと渋々していた。村について目隠しを外せば、イルームさんはキラキラした目をしていた。
「これがレルンダ様が現在住まわれている場所なのですね!」
この村は、まだ形になってきたばかりの村だ。
村の中心に精霊樹という特徴的な樹はあるけれども、精霊樹はまだ回復しきっていない。精霊樹に魔力を流すことは続けているけれど、まだエルフの人たちの契約している精霊たちは休んだままだ。
精霊樹という存在を除いてみれば、普通の村だ。確かにエルフとか獣人とか色々な人が住んでいるから家の形はそれぞれ違うけど普通の村。なのにどうしてこんなに興奮しているのだろうかと正直わからなかった。
「そんなに興奮するべきものでもないだろう……」
「いいえ、シェハンさん。ここは神子様であるレルンダ様の住んでいる場所なのですよ。それだけでも聖地として認定されてもおかしくないような場所なのです。ここでレルンダ様が生活をされておられるというだけで興奮するのは当然です!」
シェハンさんの呆れた言葉に、イルームさんは躊躇いもせずに答えた。
聖地……と不思議な気分になる。私が住んでいる場所というだけで興奮するイルームさんに、私はイルームさんが暴走しないように本当に出来るのだろうかと少しだけ不安を覚えたのだった。
―――少女と、神官 4
(多分、神子な少女の村に神官と魔法剣士が招かれる。それがどのような影響力を与えるかは今は定かではない)