少女と、神官 1
私は、神官の人に会うことにした。もしかしたら神官の人を殺さなければならない結果になるかもしれないけれど、それでも私は会わないよりも、会いたいと思った。だから私は神官の人たちの前にでることを決めた。
もちろん、私一人ではない。側には、ドングさんやランさん、エルフの人たちといったあの二人組よりもずっと多い人数がいる。加えてシーフォやカミハ、フレネだっている。
最初に神官の人たちの前に出たのは、フレネとドングさんだった。
剣士の人は、フレネのことがやはり見えないのだろう。フレネに対しては一切視線を向けることはない。ただ、ドングさんのことを警戒したように見ている。それとは正反対に、神官の人は目を見張って、フレネのことを見ている。やっぱり、フレネのことが見えている。
「―――何者だ!」
「……待ってください。シェハンさん、貴方に一つ質問をさせてください」
「こんな時に何を悠長に……!」
「私には、少女の姿が映るのですが、貴方にはもしかして見えていない?」
「少女? 何をいって……。目の前にいるのは獣人の男だけだろう」
少女と、しっかり口にしている。この神官の人はしっかりとフレネのことが見えている。フレネっていう存在のことを認識している。
フレネは私の方をちらりと見る。私が頷けば、フレネは皆に見えるように姿を現した。女の人は目を見開いている。そして得体のしれないものを見る目で腰に下げている長剣に手を伸ばしている。
あの剣士にとっても神官にとっても、ドングさんとフレネって存在は突然現れた不思議な存在だ。自分にとって敵であるか、味方であるかもさっぱり分からないだろう。だから、剣士の人の対応の方が当然の対応なのだ。でも、神官の人はそういう表情は一切していない。神官の人の目にあるのは、どちらかというと喜びだった。
「―――人には見えない存在。人ならざるもの。貴方は、精霊様でしょうか」
神官の人は、フレネを見てる。羨望の目を向けている
「だとしたら?」
「私は精霊様を見るのは初めてです。お目にかかれて光栄です」
「そう……」
「あの、精霊様。つかぬ事をお聞きしますが、精霊様は神子様をご存じではないでしょうか」
精霊であるフレネに向かってキラキラした目で見つめていた神官の男性は、そう告げた。
「その神子様を見つけたら貴方はどうするの?」
ドングさんも、剣士の人もじっと彼らの会話を見守っている。私も、その答えをちゃんと聞こうと耳を傾けている。
あの神官の人はなんというだろうか。何を望んで、何を求めて———そして私を探しているのだろうか。その答えによっては、彼らを帰すわけにはいかない。そういう選択肢は恐ろしいし、出来たらしたくないけれど、私たちのこれからのためにはそういう覚悟や選択肢を持たなければならない。
手を合わせて、祈るように神官の人の答えを待つ。
「――――私は国から本物の神子様を連れ戻すように使命を受けています」
そういった言葉を聞いた時、一瞬絶望しかけた。ああ、生きて帰すわけにはいかないのかもしれないと。だけど、神官は続けた。
「――――でも、私はそれを遂行しようと思っておりません。私は神に仕える存在です。だからこそ、神の愛し子とされている神子様の意志に反する行為を行いたくはありません。神子様はもしかしたら大神殿に保護される事を望んでいないかもしれない。そのことに思い至ったからこそ私はそれを望みません。神に仕える身として、神の意志のままに、神子様の意志のままに従いたいと思っております」
神官の人はそういった。
本物の神子様、と神官は口にしていた。姉は神子ではない、とその大神殿という所は判断したということなのだろうか。そして、どういう根拠で探しているのかもどうやって此処までたどり着いたかもわからないけれど、私を探していると。
そして、使命は受けていても、それを遂行する気はないとその神官はフレネの目を見据えてまっすぐに伝えるのだ。
「――――私は神子様にお仕えしたいのです。神子様の隣で神子様の神官として仕えていきたいのです。ですので、神子様をご存じでしたら教えてほしいのです。決して神子様をご不快にさせるようなことはしません。私の命を含めて、私の全てを神子様に捧げますからお願いします」
神官は、フレネが私のことを知っていることを確信した様子でそういった。……それにしても命を含めて、全てを捧げるって重い。そんな重いもの、怖いから受け取りたくない。
「そう……」
フレネはその言葉に頷いた。そしてちらりとこちらを見た。私は———神官の人たちの前へと踏み出した。隠れていた私たちが何人も出てきて、剣士の人は顔をこわばらせていたけれど、神官の人は目を輝かせて、私の方にかけよってくる。
「お目にかかれて光栄です! 神子様!!」
そして、躊躇いもせずにその言葉を叫んだのだった。
―――少女と、神官 1
(多分、神子な少女は神官の前に出る。そして神子様と確信したように呼びかけられた)