少女と、道中
「準備が整った」
そういって私の元へアトスさんとガイアスたちが現れたのは、一度アトスさんたちが村に戻ってから二十日ほど経った日のことだった。ガイアスたちと一緒にやってきた獣人は以前、こちらにやってきていた顔ぶれだった。
「じゃあ、行っていい?」
「ああ。大丈夫だ」
「ありがとう」
自分の生まれ育った村しか、私は人が暮らす場所を知らない。獣人の村は、どういう場所なのだろうか。分からないからこそ、不安はある。けれど、皆が居るから安心している。どんなところだろうという気持ちも大きい。
正直、私は生まれ育った村で生きて、村から出ることもなく死ぬのではないかと思っていた。食べ物をくれなかったときは、そのまま死んじゃうんじゃないかと思ったこともあったし。そんな私が捨てられて、村の外に出て、そして獣人の村に行こうとしている。何だか不思議な気分。
「これから、よろしくお願い、します」
そういって頭を下げる。
これからお世話になるのだから、頭を下げとくべきなのではないかと思った。誰かにお世話になる時村の人がそんな風にやっているの目撃したことあったから、多分、間違ってないはず。
「……ああ。それで、レルンダは移動手段はどうするんだ?」
「シーフォに、乗る。見て、ほしいもの、ある」
私は移動する時シーフォに乗る予定であった。それで獣人たちも、グリフォンたちに運んでもらう方が目的の獣人の村に早くたどり着くのではないかなと思った。でも背には乗せたくないって言っていたからどうにか出来ないかなと考えた。
「……これは?」
見てほしいものがあると、見せたのはグリフォンたちの手作りの籠である。獣人たちが二人ずつぐらい入る事が出来るぐらいの大きさのものが数個。
リオンとユインの兄弟が特に作るのが楽しくなってしまったようで、気合いを入れて作っていた。兄弟の共同作業、二匹とも仲良し。籠には紐がついていて、それをグリフォン達が爪でひっかける形にしたら運べるようになっている。
「ここ、入る。そして、グリフォンたち、運ぶ」
私はまず、それが何かを説明する。ちゃんと伝わっているか不安だけど、伝わるかな?
「そしたら……、着くの早くなる」
こんなに話すこと、村ではなかったから喋ることはやっぱり慣れない。
こんな喋り方しかできないから、たまに話した時に村の人たちは色々いっていた。それもあって喋ること苦手だなと改めて思ったんだっけと思い起こす。でも、アトスさんもガイアスも、私がこんな喋り方でも、村の人たちみたいなこと言わないから、いいなって思う。
「我らがここにのり、グリフォン様方が運んでくれるということか。いいんだろうか」
「ん。背中は、や、らしいけど、これならいいって」
「そうか……。なら、ありがたく運ばれよう」
「場所は、わかんないから、教えて」
「村の場所はもちろん、こちらで教えるさ」
「ありがとう」
アトスさん、すらすら喋れて凄い。私も、喋るのもっと得意になれるかな。アトスさんの言葉を聞きながらそんなことも思った。
それから私はシーフォの上に、アトスさんたちは籠の中に入ってグリフォンたちに運んでもらう。
大人のグリフォンたちが、それぞれ紐をひっかけて、持ち上げる。子グリフォンたちはその後ろを一生懸命飛んでいる。子グリフォンたちもいるから、そんなに高い位置を飛んではいない。私もあまり高いとちょっと怖いしね。
でもお空を飛べるって、グリフォンたちもシーフォも凄いなって思う。今日の天気は晴れ。太陽が出ている。風も吹いている。お空を飛ぶ時、風を感じて心地よい。気持ちが良くて、思わず嬉しくなる。
「~~♪」
嬉しくて、小さく歌を口ずさむ。
風を感じながら、歌うのって楽しい。私の声、小さいはずなのに子グリフォンたちは聞きつけて、一緒になって歌い始めた。
籠の中のガイアスたちがびっくりしていた。
森の中を、歌いながら進んでいる。他の魔物に襲われることはなかった。時々気配はしたけれど、すぐに逃げていったように見えた。グリフォンたちが居たから逃げたのかな、よくわかんないけど。
グリフォンの巣から離れた場所は全然知らなかったから、この森の中にはこんな景色があるのだとびっくりしたりもして、あたりを見るのも楽しかった。
途中で川があって、そこで休憩をした。水を飲んで一息をつく。シノルンさんが具合が少し悪くなっていた。籠での移動で気持ち悪くなってしまったらしい。大丈夫かなと、水筒の水を差しだしたら、お礼を言われた。
移動で気持ち悪くなる人もいるんだなと思った。私はシーフォの上にのって移動している時、気持ち悪くなったことなかったから、そういう人もいるって考えてなかった。ちょっと反省。
シノルンさんの具合が少しよくなってから、また進んだ。
そして、グリフォンの巣が元々あった場所から、数時間ほど移動した先に目的地はあった。
――――少女と、道中
(多分、神子な少女はグリフォンの巣から獣人の村へと向かう)




