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神官と、導き

 私、イルームは魔法剣士であるシェハンさんと共に森の中をさまよっている。この森の中は、魔物も溢れる危険な場所だ。このような場所に私、一人だけで入れば大変なことになっていたことだろう。それを考えるとシェハンさんがいてくれてよかったと思った。



「シェハンさんがいてくれて助かりました」

「……そうか」



 シェハンさんは、私がお礼をいうとなぜかそっぽを向いた。何か不快になるようなことをいってしまったのだろうかと問いかけたが、シェハンさんはどうしてそっぽを向いたか教えてくれなかった。

 神子様を追い求めてこんな森の奥深くまで私は入り込んでいる。神子様が本当にここにいるのか分からないけれど、神子様がこの森の中にいてくださっている、そんな予感がしているから。確信というものでもない、ただ何となく、そういうことを感じている。



 もし、神子様がこの場に居なかったとしても、私は別にかまわない。ただ、自分の予感のままに進んで行った先に何があるのかというのも知りたいから。それにこの予感は、導きのようなものだと思う。そもそも私の言動も、その結果起こったことも、全て神による導きだと思えるから。だから予感のままに進んで、どんな未来が待っていようとも構わない。出来れば、神子様に会いたい。神子様にお会いして、神が慈しんでいる神子様の意志を叶えていきたい。そう、神に仕える神官として思っている。



「―――神子か、神に愛されている者か。そんなもの本当にいるのか」

「ええ、いますとも。シェハンさんは信じていないのですか?」

「まぁな、そういうものは信じていない。神官であるお前に言うことではないかもしれないが、神というものをあたしは信じていない。あたしが信じているのは自分の力だけだ」



 シェハンさんはそんなことを言う。神、という存在を信じていないのだと。自分の力だけを信じているのだと。



「―――そうですか」



 そのことを別に責めようとは思わない。神に関する考え方にも色々な人が居ることは理解できるから。そして私は信仰を押し付けようとは決して思わないから。

 私は私の信じるものを、ずっと信じつづける。その心だけはずっと保っていきたい。

 シェハンさんは自分の力だけを信じている。それもまた、信じる形だと思うから。



「王国の保護している神子が偽物だから、っていうことで探しているんだよな?」

「ええ、そうですね。こちらの手違いで神子様を間違えて保護したのです。私を含む神託を受けたものが全て意識を失っていたとはいえ、あってはならないことです」




 神託を受ける、ということは本当に大変な事だった。多くの神官で挑んで、あれだけ大変なのだから一人で神託を受ける力を持っていた存在は本当に貴重でものすごい存在だったのだと改めて思う。



 私も、いつか、生きているうちに一人で神託を受けることが出来るぐらいの存在になれるだろうか。そう思って、なりたいと願う。



 それにしても私に少しでも意識が残っていれば、神子様という存在をきちんと伝えることが出来たというのに。年齢や居場所などはきちんと告げれはしたが、まさか双子で、その両親が神子様の方を隠すとは思わなかった。偶然と偶然が重なって、神子様という存在は王国に保護されることはなかった。でもそれも———神の導きなのかもしれない。そういう運命だったのかもしれない。



 全ての出来事はつながっていて、私たちの行動の一つ一つは全て結ばれている。神子様が王国に保護されずにさまようことになったことも、こうして私が神子様を探す命を受けて、そして結果的に魔法剣士の女性と二人で森の中をさまよっているのも———きっと、全てがつながっている。もし私が神子様に会えなければ、そういう運命だったというだけであり、もし奇跡的に神子様に出会うことが出来たのならば私は神子様と出会うことが出来る運命だったということなのだろう。



 私とシェハンさんは、森の中を歩き続ける。この森の中にいるかどうかもわからない、神子様という存在を求めて。

 



 そんな中で私は、不思議な物を見た。














 うっすらと見えた———一人の少女。どこか神秘的な雰囲気を纏った緑色の髪をした少女。こんなところに少女が一人でいる? そのことに不思議な気分になった。

 その子は、私と目が合った瞬間、驚いた顔をして消えていった。



 私は、シェハンさんに少女の話を振った。シェハンさんも、そちらの方を向いていたから少女のことをきちんと見ていたはずだったから。なのに、シェハンさんは「なんのことだ?」といった。



「目の前に、いたでしょう?」

「いや、何もいなかったぞ」




 私はそれを聞いた時、見間違いだったのだろうかと一瞬思考した。だけど、その思考をすぐに振り払った。なぜなら確かにこの目で見たのだから。私は、もしかしたら私にだけ見えたのかもしれないと思った。

 そして、その存在は神子様という存在に繋がるのではないかと歓喜したのだった。




 ――――神官と、導き

 (その神官は、その存在を目撃する。そして多分、神子な少女に繋がることに歓喜の表情を浮かべる)



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― 新着の感想 ―
[一言] 神託を受けて1人だけ目覚めた事や並外れた信仰心を持ちながらも他人にそれを強要しない事からして、聖職者としてハイスペックな御仁なのに、精霊まで認識出来るとは……
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