少女と、報告
私たちは村へと戻った。そしてドングさんやランさんに早速先ほど見た二人組について報告した。ドングさんとランさんは、難しい表情になっていた。
あの二人組は何者なのだろうか。あの人たちは私たちに何をもたらそうとしているのだろうか。また、何か変わっていくのだろうか。そう思うと、不安が沸いてくる。
「……フェアリートロフ王国が、アリスのことが神子ではないということに気づいたというのは確実だと思います。レルンダがアリスを連れて行った神官たちと同じような服装をしていたということはフェアリートロフ王国からやってきたものでしょうし」
フェアリートロフ王国が姉が神子ではないことに気づいた。ランさんはそういった。
「それからレルンダの存在を知って探しているのかもしれません。それにしても森のこんな奥深くにまで来るとは思いませんでした。普通に考えれば当時齢七歳の少女が単身で森の中に入って行ったなどとは思いませんから」
「それをいったらランもよくレルンダを追って森の中へと入ったな……」
「……森の中に入った目撃情報がありましたし。ほとんど賭けでしたね。だからこうしてレルンダに無事にあえて共にいる事が出来、あの時森に単身で入った自分の判断を褒めたいぐらいです」
ランさんはドングさんの問いにそんな風に答えた。そして続けた。
「それにしても神子という存在を保護するためというのならば、たった二人だけで森の中へと入っていることはおかしいですね。神子を本当に大々的に保護するためというのならばもっと多くの者をよこすのが当然です。それなのに二人しかいないというのはおかしいですね。もし、仮に秘密裏に神子を保護するという任務を受けているにしても最低でも5,6人編成のパーティーで移動すると思いますし……」
ランさんは、彼らがたった二人で森の中にいるのがおかしいといった。本当に神子という存在を保護するためなら、それだけの少人数で動くのはおかしいのだと。
それにしても保護、という言葉に何とも言えない気持ちになる。私はこの村で幸せに暮らしているのに、保護して人間の国に連れていこうと考えている人間なのかもしれないと思うと恐ろしい。私はここでの生活が好きだし、人間の国になんて戻りたくない。
「レルンダ、不安そうな顔をしなくて大丈夫ですよ。貴方が自分から出ていかなければ、おそらくこの村は見つかりませんから。レルンダが連れて行かれないように私たちも全力を尽くしますから」
「うん」
「ひとまず、その神官と剣士がどういう目的で、何を思って森の中にいるのかをきちんと知らなければなりません。私たちは彼らがレルンダを連れていこうとしているのではないかと懸念していますが、実際は違う思惑があるかもしれませんし」
「……うん」
「だから、フレネ様の力をお借りしたいのですわ。フレネ様の姿は、彼らにも見えないことでしょうし、会話を聞けば彼らが何を考えているかわかるでしょうから」
「うん、そうする」
何を考えているのか知るのが第一だとランさんはいった。私を連れていこうとしている人なのではないかという気持ちはあるけれど、実際はどういう目的でこの森の中にいるか分からないのだから。
「あとは、そうですね……この村の存在は見つからないかもしれないけれど……一つ懸念があるとすれば、彼らの村が見つかる可能性があることです」
「……そうだね」
フィトたちの村がその神官と剣士に見つかる可能性はある。その結果、この村にはたどり着かなくてもそちらにたどり着くことは出来るかもしれない。
「レルンダ、意識的に彼らの村や村人にその二人組が近づかないようにと願ってくれませんか」
「願う?」
「ええ、それで効果があるかはわかりませんが、心の片隅にでもおいておけば何かしら作用されるのではないかと思いますから」
そういわれたので、心の中で彼らの村や村人に、その二人組が近づけないように願った。でも願っていることが全部叶うわけではないから、どうなるのか分からない。少しでも効果があればいいのだけど。
それからフレネにその二人組のことを見ているように頼んだ。フレネは頷いてくれた。
また、ガイアスにもその二人組の話をしたら「レルンダは連れて行かせない」と言ってくれた。そんな風にいってもらえるだけで、私は嬉しかった。
ひとまず、フレネから報告を聞くまでは村の外に誰もなるべく出ないようにということになっている。この村の場所は見つからないかもしれないけど、外に出て遭遇する分には遭遇するかもしれないからと。
そんなわけで、村の中でしばらくのんびりしていたのだけど、その日のうちにフレネは戻ってきた。そしてフレネは驚くべきことをいった。
「あの神官、私のこと見えているかも」
と、そんなことを報告したのだ。
――――少女と、報告
(多分、神子な少女は二人組について大人たちに相談をした。そして情報収集に出かけた風の精霊は思わぬことを口にする)