少女と、遭遇
ガイアスの毛並がふさふさで、思わず触ってしまう。
ガイアスが狼の姿に変化したこと、皆びっくりしていたけれど、最近は狼の姿になった時の動きの練習とか、いざという時のためにすぐに変身できるようにという思いも込めて時々こうやって狼の姿になっている。
狼の姿のガイアスは村の中を移動しているとすぐに発見できる。
銀色の毛をよく触る。耳とか尻尾は番しか触らないって言われたから触らないけれど、体をちょっとなでるぐらいはしたくなってしまって、ガイアスにいってからしている。あとグリフォンたちやスカイホースにするようにブラッシングもさせてもらっている。
もふもふで、ふさふさで良い毛並。
ガイアスはまだ子供だけど、狼の姿になると結構大きい。ガイアスがもっと大人になったら狼の姿ももっと大きくなったりするのだろうか。それにしても狼の姿のガイアス、凄く綺麗でかっこいい。ずっと見つめていられるぐらい、凄い。
「毛並、凄い、ふかふか」
ふかふかで、本当に気持ちが良い。
「がうがうがうがう(レルンダ、触りすぎだろ)」
「だって、ふかふかなんだもん」
私がそう口にすれば、ガイアスが呆れたように見えた。狼の姿だと表情とかわかりにくいけど、何となくどういうこと考えているのか分かるんだよね。これって、ガイアスの姿が変化したりしたの、やっぱり私の影響だからということなのかな。それで私とガイアスは何かしらつながっているのだろう。
「ね、ガイアス、狼になったの、どう思ってる?」
私はガイアスの事を撫でながら、問いかける。耳と尻尾の色が銀色に変わっただけではなくて、狼の姿に変化までしてしまった。
「がうがうがうがう……がうがう(複雑といえば複雑だけど……まぁ、嬉しいといえば嬉しい)」
「……ガイアスが、狼なれるから、色々と変わるかもしれないけど」
「がうがうがう(それは仕方ないだろ)」
「うん……」
私は神子かもしれなくて、皆にはない力がある。
ガイアスは私の影響からか、狼になる力を手にした。
私たち自身が変わったつもりはなくても、周りは変わっていくかもしれない。ロマさんがあんな風になってしまったように。
ガイアスは、私よりも大人だなと感じる。私よりも割り切っていると思う。
私ももっと、割り切って、考えられるようにもしなければと思う。とはいえ、なるべくあきらめたくはないけれど。
そんなことを思いながら、ガイアスの毛を撫でまわした。
それから数日後、私はシノルンさんとフレネとシーフォと一緒に、森の中にいた。魔法の練習をもっとして、出来ることをどんどん増やしたいと思っているから。グリフォンたちの何匹かは、あの民族の人たちのことを監視してくれている。
今の所、何も問題は起きていないようでそのことにほっとしている。フィトの方もおとなしくしている。もう少し仲良くなれたら、神と交信が出来るとかそういうのを聞くことが出来たりするのだろうか。
フィトちゃんのことを監視している獣人の人たちからフィトがどんなふうに過ごしているかも色々聞いているけれど、今の所、普通にただ生活しているという話で、神との交信とかしている様子もあんまりないみたいだった。どちらかというとぼーっとしていることも多いらしい。仲良くなることが出来たら、もっとフィトの事も知りたいなと思う。
「ひひひひひひーん(レルンダ、何か近づいてくるよ」
魔法の練習をしていたら、シーフォがそんな言葉を口にした。何か近づいてくるとシーフォがいっていることを私がシノルンさんに告げれば、シノルンさんが警戒したような表情になった。
私も新しい何かが近づいてくるということは、警戒しなければならないと思っているので、その近づいてくる何かから隠れることにした。
隠れて、近づいてきたその存在たちを見る。
二人の人間。一人は剣を腰に下げている。女の人? かな。もう一人の人は神官みたいな服装をしている。二年前に姉を連れて行ったような神官と同じような服装に見えた。その神官の人も中性的な見た目をしていて、男なのか女なのか分かりにくい。
顔が見えるぐらいの距離にはいるのだけど、彼らは私たちに気づかない。多分、私が見つかりたくないと思っているからじゃないかなと今までの経験から思う。
「本当にこんな森の中に、お前が探している存在がいるのか?」
「わかりません。しかし、この森の中に神子様がいる気がするのです」
神子、と神官は口にした。私のことを、探している?
神子という存在を探している神官と、その神官と共にいる剣士。
もしかしたら、人間の国の方で何かあったりしたのだろうか。そして私を探しているのだろうか。神子として姉のことを引き取った人間の国。なのに、森の中に神子という存在を探している存在が居る。
正直頭が働かない。わけが分からない。
でも、ひとまずここで飛び出さないほうがいいことだけは理解している。考えなしに、彼らの前に顔を出すわけにはいかない。
―――この二人組について、村の皆に相談をしよう。
そんな思いで、私たちは彼らが居なくなるまで息を潜めていた。
―――少女と、遭遇
(多分、神子な少女は森の中で二人組と遭遇した。そしてその存在が去るまで息を潜めるのだった)