少女と、民族 7
流血沙汰が起こってしまったと聞いた時は、頭が真っ白になった。実際にどういう事が起こったのかは私は直接見ていないから分からない。危険だろうからその現場にはいかないようにとドングさんたちに言われた。私は飛び出したい気持ちがあったけれど、そんなことをしたらまた村に迷惑がかかってしまうから我慢した。
ロマさんは大丈夫だろうか、そして流血沙汰が起こったとはどういうことなのだろうか。不安が募る。―――私の言葉がもっとロマさんに伝えられれば、ロマさんが飛び出すこともなかっただろうか。私がもっと説得力を持つ力があったのならば、ロマさんを納得させられたなら。
そんな風に考えていることをぽつりと漏らしてしまったら、シーフォに言われた。
「ひひひーん(自分をせめなくていいよ)」
そういって、私を慰めるように鼻先を押し付けてくる。
「ひひひひん、ひひひーん(誰の説得でも、止まらなかったかもでしょ)」
そんな風に、シーフォに言われる。
誰の説得でもロマさんは止まらなかったかもしれない。でも——もっと上手く立ち回れたのならばロマさんのことをあの人たちの元へ飛び出させずにいられたかもしれない。
私は皆と違う部分が沢山ある。―――違う、ということで今まで苦しいとかあんまり考えたことなかった。
生まれ育った村にいた時は、周りに対してそこまで関心はなかった。
獣人の村にたどり着いて、エルフの人たちと出会って、だけど皆優しくて”違う”ってことで苦しいとか感じることはなかった。
でも今は、違うこと、苦しい気持ちがある。
「……皆と、違うの苦しいね」
でも、もし私が皆と違う部分がなければ私はとっくに餓死していただろう。そしてとっくに死んでいただろう。そして皆は私に、私がこういう力を持っていたからこそ今の現状が保たれているっていっていた。もしかしたら、そういう違う部分がなければ皆死んでしまっていたかもしれないと。
そう考えると、私に、皆と違う力があること。それが神子であるか神子でないかはともかくとして、その力があることは喜ばしいことなんだと思う。―――だけど、皆と違うんだなと実感をとてもしてしまって、何とも言えない胸の苦しさを感じている。
「――――人と関わるのは、大変だね」
生まれ育った村ではこのような大変さは感じてこなかった。私はただ生きていただけで、誰かを大切にすることもしていなかった。でも、人と向き合って、人と付き合っていくことは大変なんだと改めて実感をする。色んな考えを持つ人たちがいて。私の願いは皆でただ過ごせればいいとか、皆で安心できる場所を作りたいだけだけれども、それは難しいことなんだ。―――笑い合っていた人と笑いあえなくなることもある。幾ら言葉をかけてもともに歩めないこともあるんだ。
それを、私は実感している。
ロマさんやあの人たちの場所で起こったことがどういうことなのか不安になって、ただ私はシーフォにもたれかかってシーフォに言葉をかける。不安が強かった。ただ、予感としてロマさんはもう戻ってこない気がした。
―――そしてその予感はあたっていた。
これはあの人たちの元へ向かっていた猫の獣人の一人から聞いた話だ。
ロマさんはあの人たちと仲良くなって、あの人たちの元へと向かった。そして仲が良い人たちと笑い合って暮らしていたらしい。でも、この私たちが住んでいる村では作物を植えただけで適度に世話をすれば上手くいったり、食べ物を探しにでかければ上手く見つかったり、倒せる程度の魔物と遭遇して上手くいったりとかしていたけれども、あの人たちの村ではそうはならなかった。ロマさんがこの村から種を持っていき、飢えをしのぐために植えたらしい。でも、それは上手く育たなかったという。同じような環境だけれども、私たちの村では育っても、あの人たちのいる場所では育たなかったりとかしていると。
そして私たちの村では当たり前だったものが、あの人たちのもとでは当たり前ではなかった。私はそんなに違うものなのかと驚いてしまったけれど、一緒に話を聞いていたランさんは「レルンダがいるのといないのではやはり違うのですね…」と言っていた。
上手くいっている村から人がやってきて、これでこの場所でもうまくやっていけるかもしれないという気持ちになっていたようだが、やることなすこと上手くいかない。そのことにしびれを切らしたのは私たちが交渉に向かった時に私たちをとらえようとしていた人たち一味だったらしい。彼らはこんな役立たずなんてといってロマさんの事を殺したという。―――そしてそんなことをやらかしてしまった人たちは、良心のある人たちによって殺されたと。……そしてあの人たちはロマさんが殺されてしまったことを必死に謝っているという。こんなことになってしまって申し訳ないと。
私はその話を、現実味のない話として最初聞いてしまった。―――ロマさんが亡くなったというのは、私にとって衝撃だった。
それからドングさんたち大人が彼らについての話を続けていたけれど、私の頭の中には入ってきていなかった。
――――少女と、民族 7
(多分、神子な少女はその悲しい報せを聞いて、頭を真っ白にさせる)