少女と、民族 6
あの不思議な民族の人たちは、村の近くに住むことになった。私たちはあの人たちと少なからず交流を持つことにした。それが、私たちの妥協だ。
ドングさんやシレーバさんたちやランさんとも話して、それで私たちが出来る妥協って全く彼らとかかわらないというのをやめる事だった。どちらにせよ、ロマさんの事がなかったとしても村の周辺に住まうのならばかかわらずに過ごす事は出来ない。それもあってこの妥協は村の総意で認められたことだった。不思議なことに、村の近くに住まっている彼らは私たちの村にたどり着こうとしても相変わらずたどり着けないようだった。ランさんは私のおかげだと再度いっていた。少なからず村の皆のためになれているなら嬉しいと思う。
ロマさんの事を彼らはすぐに返してくれた。ロマさんが帰ってきてから分かったことだけど、ロマさんは自分から「人質になる」といって人質になったそうだ。ロマさんは私たちの目を掻い潜ってあの人たちと仲良くした。そして彼らに対して同情して、彼らを助けたいと思ったそうだ。
ロマさんは……自分が人質になったことにも悪気がない様子で、「なんで持っているのにあげないんだ」とそんな風に言っていた。ドングさんたちは、苦渋の表情を浮かべて、ロマさんに罰を与えていた。こういうことはきちんとしておかないと、何度でもロマさんは人質に自分からなったりするといっていた。でも罰を与えてもロマさんは彼らに対して愛着を持ってしまっているのか、彼らの事を助けたいという気持ちが一杯で仕方がないらしい。――余裕があるから、そんな思考に陥る。今、私たちが上手くいっているから。いつ、私たちも上手くいかなくなるか分からない。だけど、今は上手くいっているから――、ロマさんのように行動しようとする人も出てくるんだって。
そういえば、あの人たちは私たちを人質にするべきだなどととても恐ろしい発言をしていた者達の事はきちんと見張ると宣言していた。あの恐ろしい発言をしていた人たちがフレネがいっていた、私たちの村から奪えば良いと考えている人たちらしい。あの人たちも、一つでまとまっているわけではない。人がそれだけいれば色々な考え方を持つ人が出てくる。
そういうものなのだ。……一番は皆で仲良くできるのが良いと思う。でもそんな簡単に皆で仲良くするなんて出来ないのだ。私たちが私たちの大切な場所を守るためには、全部を抱え込むことは出来ないのだ。そう考えると私は無力なのだと思えた。
「―――ロマがまたこういう事を起こすようならば、村のためにも捨て置かなければならなくなるかもしれない。もちろん、皆で俺たちは俺たちの目標を叶えたい。だけど―――自らの意志に反してとらえられているのならば助けるが、自分からそういう厄介事を起こしてあの者達の元へ行くのならば俺達だって庇えない」
「それは……」
「限度、というものがある。今度、ああやって行動を起こしたらもうどうしようもない」
「……うん」
私は、オーシャシオさんの言葉に頷いた。横には、おばば様もいる。おばば様は、ロマさんのことも可愛がっている。だけど、おばば様も「ロマがそうするなら、どうしようもない」と悲しそうな顔をしていた。
皆、ロマさんも一緒に未来に進みたい。私だってそうだ。だから私はロマさんに一生懸命話しかけた。でもロマさんは―――あの人たちの事も大切になってしまっていた。あの人たちとも仲良くなって、あの人たちも、大事になった。大事なものが増えて、あの人たちの事も助けたいとその想いでいっぱいになっていた。
私が幾らいっても、ロマさんはあの人たちへの思いを口にした。
そして、私に言うのだ。
「レルンダは、餓死しそうになったこともないから分からないんだ!」
「……それは」
「レルンダは、神子だとかで危険な目にもあまりあったことがないだろう。それじゃあ俺の気持ちもあいつらの気持ちも分からないだろうさ。俺だってわかってるよ、あいつらを助けようとするのはここが大変なことになるかもって。でも俺は――同じように苦労した身としてあいつらのことを助けたい」
ああ、と思った。
私は餓死―――要するに死にそうなほど空腹になったことがない。私はいつも偶発的に食べれるものに遭遇した。空腹で死にそうになる、といったことになったことはない。
私は本当の意味で命の危険に晒されていない。―――何時だって、なんだかんだで私は無事だ。私に手を上げようとしても皆、手を上げることは出来ない。誰かから殴られたり、誰かから蹴られたり―――そういった肉体的な苦痛も与えられたことがない。
それは、獣人の村の人たちは飢饉だった時は本当に空腹になっていただろう。何かしら危険な目に晒されてきたこともあるだろう。魔物との戦闘で怪我をしたりもしたことがあるだろう。―――でも私は何一つ経験していない。
飢饉、なんて遭遇したことはない。戦闘をしたとしても相手が私に怪我をさせることは出来ない。空腹になるという感覚を私は知らない。
ああ、だからこそ。
だからこそ、私の言葉はロマさんには届かないことがわかってしまった。私が幾ら何かを言い募ったとしても、私は結局あの人たちがどんなふうに大変なのか理解できていない。どういう状態か頭ではわかってもきちんとわかることは出来ない。経験しなければ、その痛みは分からない。
―――私は、他と違うからこそ今まで生きてこられたのだと思う。でも、他と違うからこそ苦しい。私はその苦しみを共有出来ない。
結局ロマさんは、あの人たちの元へ行ってしまった。そしてあの人たちの住まう場所で流血沙汰が起きた。
―――少女と、民族 6
(多分、神子な少女は特別であるが故に苦しみを共有する事は出来ない。少女は彼を説得できない。そして彼は彼らの元へと向かった)
難産です。もしかしたら書きなおすかもです。