少女と、民族 5
「―――俺達をお前たちの住んでいる村に住まわせてくれ」
彼らは交渉として、何を言うのだろうかという不安はあった。その長であるおじさんが口にしたのは、私たちの村に住まわせてほしいという言葉だった。
私たちが何不自由なくこの森の中に住んでいるからこそ、その恩恵を受けたいということなのかもしれない。私たちに彼らは接触したがっていた。彼らも必死だ。彼らも、生きるために必死なのだ。
―――だからこその要望。だけど、その要望にはすぐに頷けるものではない。
でも、断ればロマさんがどうなるか分からない。これは交渉という名の脅しである。それを実感する。だけど、私たちにそう告げるおじさんの表情は厳しい。私は即答は出来ない。此処で何と答えるのが一番良いのだろうか、それが私には分からない。――おじさんは、私に向かって話しかけている。他でもない私に向かって。
「人質を取っておいて、一番弱そうなレルンダと交渉をしようなんて卑怯」
フレネが隣で怒りを露にしている。その声は、この場で私にしか聞こえていない。他の者は反応を示さない。確かに卑怯なのかもしれない、私を含む数名でグリフォンたちも連れてこないようにってそういう条件で交渉の場を設けて、しかも人質まで取っている。でもそれは彼らが疲弊している証拠なのだ。
私がなんて答えようか悩んで、少し言葉に詰まっていたら、
「こんな女子供三人捕まえるか殺してしまえばいい!!」
そんな風に声を上げられた。
そう叫んだのは、彼らの中でもまだ年若い男の人たちだ。彼らは「やめて! 助けてくれた人にそんなことするなんて」と必死に止められていた。あ、あの子私が助けた子だ。止めている側に私が助けた子もいた。
「そんなきれいごとをいって、こちらは人質を取っているんだ! 何人捕まえようと一緒だろうが!!」
「そうだぞ! 俺たちは他人の事を心配してなんていられないのに―――」
止められている側の人たちはそんなことを叫んでいる。
余裕がない。もう人質を取っているから何人人質にしていても変わらないと。私と直接的に話していたおじさんは難しい顔をしている。人質を取る、という選択肢は彼らにとっても本意ではない。
私たちの村は彼らに関わらないのが一番だという選択をした。それは極端な選択だ。彼らを遠ざけることを望んでいた。かかわらないのが一番だった。でも私が関わってしまった。その結果がこれだ。
でも助けなかった方が良かったとは、思えない。
「……捕まえる、殺す、無理。私、反撃する」
捕まえられるのも、殺されるのもしない。獣人の村にいった最初の頃なら私はその選択肢をしたかもしれない。自分が大変な目になってもいいからって。――でもその選択肢はもうない。
私は私自身も含めて皆が無事な選択をしたい。
「反撃って女子供に何が」
「フレネ」
引き留める者達を薙ぎ払ってでも、私たちにとびかかってこようとしている彼らを見てフレネに声をかけた。ガイアスとウェタニさんも身構えていたけれど、それよりも早く彼らにわかってもらうのが一番だと思った。
それにフレネなら、相手にそこまで傷をつけずにどうにでもできそうだと思った。フレネに声をかければ、フレネはすぐに動いた。
魔力が蠢く。それと共に風がその場にふいた。風が、ピンポイントに私たちを襲おうとしていた面々に直撃する。フレネ、魔力操作凄い。私がやったら周りの人にもあててしまいそうなのに。精霊って、本当に凄いなと思った。
「私、やろうと思えばいつでも貴方たち、どうにも出来る」
――だから、もう向かってこようとしないで。そんな気持ちを込めて私は言葉を告げる。
「私、貴方たちと敵対したいわけ違う。貴方たちのお願い、全面的には聞けない。でも貴方たちとずっとかかわらないでいるの無理なの、わかる。だから貴方たち一緒に歩めるように頑張る。私の答え、それでは駄目?」
一生懸命考えて言葉を紡ぐ。
ロマさんが人質に取られているのは確かだ。でも、だからといってお願いを全部聞くという態度ではいけない。
それにこれだけ私たちに襲い掛かろうとした人たちを止めようとする人が多く居るのもあって根から悪い人ではない、とそう思うからこその言葉だ。それに私たちを捕まえようとしている人たちだって、切羽詰まっているからこそそのような選択肢をしようとしているのだと思う。
「それは……どういう風にだ?」
「まだ、分からない。私一人で決められることでもない。だけど、決して貴方たちの悪いようにはしない。……もちろん、貴方たちがロマさんの無事を約束するなら、になるけど。私たち、貴方たちをかかわらせないようにしよう考えてた。でも、一緒に歩める道探すから」
妥協点を探す。もうかかわらない選択肢はないから。それでいて皆この人たちを見捨てたいと思っているわけでもなく、排除しようと考えようともしていない。―――ならば、私たちと、彼ら両方が妥協できる選択肢を探したいと思った。探せるかは分からない、だけど、探したい。
村に住まわせるということは出来ない。だけど、妥協する事は出来る。私の言葉に、おじさんは答えた。
――――少女と、民族 5
(多分、神子な少女は彼らの現状を見て、そう交渉する。妥協する道を、一緒に歩める道を探そうとそう口にする)