女史、追放される。
本日二話目
お姉ちゃん側の女史の話
「神子様のご機嫌が麗しくありません。貴方はもっと神子様に気分よく勉強をしていただこうという気がないのですか?」
「神子様が泣いておられました。神子様を泣かせるなんて、そんな真似をしてよいと思っているのですか?」
「勉強など、神子様に必要なのですか? 神子様は存在しているだけでも何をしなくても許される存在だというのに。そんな神子様が泣いているのに勉強を強要しようとするなんて」
「先日は『勉強をしなさい!』と神子様に怒鳴られたそうですね? そんな真似は許されません」
私、ランドーノ・ストッファーはこちらの心境も知らずにそんな言葉を言われ続けうんざりしていた。
神子であるアリス様の家庭教師としてフェアリートロフ王国の王都の隣にある都市、アガッタの大神殿に来ていたわけだが、この神子であるアリス様は全然勉強をして下さらない。村で生活していたのもあって、文字さえ読めない。文字は読むという勉強から始めて、少しずつ他のことにも——と考えていたが、全然進まない。礼儀作法に関しても、全然だ。
そしてアリス様は泣く。泣いたら周りが「かわいそう」だとか、「無理に勉強なんてさせなくていい」と言い出すのを知ってからは余計に泣きわめき、暴れるようになった。誰かから吹き込まれたのか「私にひどいことをすると神様が罰を与えるのよ!!」とか言い出した。
……どうしよう、と思うのは当然である。
上からの圧力もあり、勉強をさせようと必死だったが、これはどうしようもない。無理やり勉強をさせようとして、ちょっとだけ勉強が進んだ日もあったが……すぐに神子つきの神官たちに中断させられた。もしかしたら私に神罰が下るのではないかとびくびくしていたが、目立った事は起こっていない。神子であるアリス様への態度から私の評判が悪くなったり、元々仲良くなかった家族との折り合いが益々悪くなったぐらいである。友人たちには同情されている。
このままアリス様に勉強をさせようとして、ストレスがたまる日々を過ごさなきゃなのかと思っていたある日、王都に雷が落ちたらしい。王都とはいっても、王宮ではなく王都内の一部にという話らしいが、これが神子であるアリス様に無理やり勉強を強要し、神子の機嫌を損ねた結果なのではないかとささやかれ始めた。
雲行きが怪しいな、とは思った。
そのため、最悪の可能性を考えて準備をし始めることにした。私は仮にも貴族の娘だし、何か起こるとしても殺されるまではないと思うが……。何かあった時は命がなければ困るので、逃げれるように手筈を整えていた。
結果として、大神殿や王宮からしてみれば私がアリス様の機嫌を損ねたから神罰が下ったとされた。そのため、私は家庭教師から外されることになった。そしてこの国に神罰を起こすきっかけを作ったなどといわれて王都と大神殿のある都市からの追放だった。二度と足を踏み入れてはいけないという追放である。
準備はしていたから構わない。
私はさっさと出て行った。ついでにこの国からも出ていこうと考えた。
何だか嫌な予感がしていたから。それにこのぐらいで追放などと言い出す国に対する信頼はなくなっていたから。友人たちも同様だったらしく、準備が整ったら国から出ていこうと考えているといっていた。
私は国から出る前に、神子であるアリス様がいたという村に立ち寄ることにした。
正直、アリス様が神子であるというのは信じがたいことだった。接すれば接するほど、アリス様が神子だと信じたくないという思いのほうが強くなっていた。
そのため私は村に向かった。
村まではそれなりに時間がかかった。田舎の村だったからか、道も整備されていなくて大変だった。たどり着いた村に正直驚いた。
村人はどんよりとした顔をしていた。なぜかと聞いたら、どうやら虫害で作物がやられてしまったらしい。それを聞いてやはり、アリス様は神子なのだろうか、と不思議に思った。
神子について調べていく過程の中で、神子に愛されたものは幸福を得るというのがあった。神子が離れた土地でも、神子が愛した土地はすたれることはない。それに神子の影響範囲は大きい。アリス様が神子ならば、神子はまだフェアリートロフ王国に所属している。ならば、この国がすたれていくことは基本的にないはずなのだ。
もっとも神子についての記述が少なすぎて、実際にそうであるかは分からないけれど、勉強していく中でそうであるように私には思えた。
ならば、アリス様はやはり神子ではないのではないか……と、思ってしまう。
私はたまたまここを訪れた旅人を装って、村人たちに話を聞いた。
その中の一人が、驚くべきことをいっていた。
神子の、アリス様の家には、もう一人娘が居たと。
あの神託を聞いた神官たちはまだ臥せっているはずだが、彼らが聞いたのは神子がどこにいるかと、神子の歳などである。少なくとも神子を探しに出かけた神殿のものがきいた特徴はそういう特徴だった。神子が双子である可能性など、誰も考えていなかった。加えて、自分の娘が神子かもしれないのに、もう一人を捨てるなどと……。
一人だけおしゃべりな子供がいたからアリス様の双子の妹の話を聞けたけど、あまりその話はしてはいけないと大人たちに言われてそれ以上は喋ってくれなかった。ただ捨てられて歩いてどこかに消えたと聞かされた。
一人で投げ出された子供が生きているとは限らない。でももしかしたらその方こそ、神子なのではないか。そう思った私は、その神子かもしれない少女の足取りを追うことを決めた。
――――女史、追放される。
(姉の教育係だった女性は追放され、妹の存在を知り、足取りを追う事に決めた)




