少女、叱られる。
私は助けた人たちを村へと連れていこうと思っていた。だけど、村にはまだたどり着いていない。というのも、村へ向かおうとしている最中に狩りから村へと戻ろうとしていたガイアスやオーシャシオさんたちと鉢合わせたのだ。
そして私が見知らぬ人たちを連れていることに皆は難しい顔をして、しばらくその場にとどまるようにとのことだった。
「レルンダ、誰かを連れてくるときはこちらに相談してからにしてくれ」
まずオーシャシオさんにそう言われてしまった。私は今、先ほど助けた人たちと少し離れた場所にオーシャシオさんといる。
「……レルンダ、作ったばかりの村に何を考えているのか分からない存在を引き込むのは危険なことだというのは分かるか?」
「……でも、困ってた」
「困ってる人を助けたいというのは、レルンダの良いところだ。レルンダのそういう優しい所が俺たちは好きだ。だけど、優しいだけではどうしようもないことがある」
「……うん」
「世の中良い存在だけではない。そういう存在だけだったのならば、アトスは死ななかったし、俺達は村を追われなかったし、シレーバ達だって魔物の生贄になったりしなかっただろう。―――この世界は決してそこまで甘くはない」
「……うん」
世の中は、良い存在だけで溢れているわけではない。そうではないからこそ、アトスさんは亡くなった。この世界が決してやさしい人だけで溢れてないのこと、私は理解しているつもりにはなってた。でもそうだ。
「レルンダが助けたいって思うのは良い感情だ。でも、それで村に連れてきて大変な目に合う可能性だってあるんだ。―――レルンダ、きつい事を言うようだが、はっきり言うぞ」
「うん、お願いします」
オーシャシオさんは、怒っているわけではない。私のために叱ってくれているんだ。それがわかるから、怖くない。私はその意見をちゃんと聞こうと思う。耳を傾けて、叱られるようなことをしないようにしたいと思う。オーシャシオさんと目を合わせる。まっすぐに視線を合わせて、オーシャシオさんの言葉を待つ。
「レルンダは甘い。レルンダは神子かもしれない、っていう特別な存在だ。それもあって今までこんなことを考えなくても生きていけたのかもしれない。だけど、レルンダが本当に俺たちが安心が出来る場所を作りたいって夢を本当に、叶えたいなら―――そのままでは駄目だ。流されるだけの、人生ならそこまで考えなくてもいいかもしれない。だけど、その夢を自分の手で叶えたいと望むのなら、その甘さは駄目だ」
私は甘いと、オーシャシオさんはいう。
「助けたいって気持ちを否定したいわけではない。その気持ちは良いものだ。だけど、その助けた後の結果をもっとレルンダには考えて欲しいと思う。もし、先ほどの連中が悪い存在だったら折角作った村が崩壊する可能性だってあるんだ」
「崩壊…?」
「ああ。あの連中がこちらをどう思っているか、何を考えて村に来たいといっているのかも分からない。あの連中がいっている事が本当に事実かも分からない。もしかしたらレルンダのことをだまして、村に入ろうとしている可能性だってあるだろう? 人の言っている言葉は全て事実であるとは限らない。その裏にどれだけの本心を隠しているかもわからない。あの連中が俺達を殺そうと考えているとか、資源を奪おうとしているとか、そんな事を考えている可能性だってないわけではないだろう?」
「……うん」
私は襲われている人を助けた。そして困っているからって村に入れようとした。助けたいって思った。でも、それで私が本当に大切にしたいものが失われていく可能性だってあるんだ。
私はそこまで考えていなかった。そこまで頭が回ってなかった。―――もし、私があの人たちを受け入れた先で、皆が亡くなったら怖いと思う。一人ぼっちになってしまったらと考えると悲しいと思う。
「―――これから俺たちの目標を叶えるためには、全てを救うなんてことははっきりいって無理だ」
「……うん」
全てを救うなんていうのは無理だ、とはっきりとオーシャシオさんはいう。
「誰かを切り捨てて、誰かを救う。そういう選択をしなければならないことが多くあるだろう。今回だって、村のことを考えればあの連中を村に連れていかないという、切り捨てる選択をしなければならないということだ」
「うん……」
「やってみなければ分からないのは事実で、あの連中を受け入れた結果村で良い事が起こるかもしれない。でも——その前にあらゆる可能性を考えた方がいい」
「うん」
やってみなければわからない。だけど、その前にもしかしたらっていう可能性を考えなければならない。難しい話だ。だけど、これからのために考えなければならないこと。
「とはいえ、そのままあの連中を放っておくというわけではない。あの連中のことをどうするかは、きちんと村で話し合ってから決める」
「うん」
「だからレルンダ、まず、ああいう連中とか見つけた場合はこちらに先に話を通してから決めてくれ。頼む」
「うん……考えなしで、ごめんなさい」
「わかってくれたらいいんだ。じゃあ、あちらにいくか」
「うん」
オーシャシオさんの言葉に私は頷いて、あの逃げていた人たちのいる方へと戻るのだった。
――――少女、叱られる。
(多分、神子な少女は勝手な行動を叱られる。そして少しずつ成長していくのだ)
難産でした。