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王女と、覚悟

 お父様が亡くなった。

 そして、国内は内乱が起こりかけている。まだ直接的な争いは起こっていないものの、起こるのも時間の問題であろう。――そして、神子として大神殿に保護されていたアリスは投獄されているそうだ。



 その話は、私一人では集めることが出来なかったものだ。ヴェネ商会の者が私にもたらしてくれた多くの情報を前に、私は混乱しかけていた。



 私の兄の一人である第三王子が、アリスを投獄し、偽物の神子を立てたためにお父様が死んだなどといっている。―――ヴェネ商会によると、おそらくお父様を殺害したのは、第三王子達だろうということ。神子が偽物であるという保証はないだろうに、そうであるということを言い切って王になろうとしているであろうということ。



 ―――そして、王太子と第二王子側に関してはそれを否定している。それはそうだろう。恐らく、アリスが偽物である可能性など考えていなかっただろう。私がアリスは偽物かもしれない、ということを伝えていたら何か変わっていただろうか。お父様が殺されることもなかっただろうか。――そんな風に考えてしまう。考えても仕方のないことを、私はつらつらと考えてしまう。




 考えがまとまらない私の目の前には、ヴェネ商会の者がいる。



「王女殿下。どうなさいますか」

「―――…どう、とは」

「王女殿下には、いくつかの選択肢があります。一つは、今王位継承争いをしているどこかの派閥に属するか。この場合はその派閥が王位継承争いに負けた場合は処刑される可能性が高いでしょう」




 その者は、淡々としている。お父様が亡くなってしまったことに、考えがまとまらない私は、その言葉をただ聞いている。




「一つはこのまま逃亡する道。要するに亡命ですね。このまま国内にいればあなたはいずれにせよ争いに巻き込まれるでしょう。もし亡命を希望し、そのまま平民としてつつましく生きたいというのならば私共で橋渡しをすることは出来ます」



 亡命して、平民と生きる道もあると、その者は告げる。



「一つは亡命して、他国と結びつきを強めてこのフェアリートロフ王国に影響を与えるというのもありますね。その場合はその他国の傀儡になる可能性もありますが」



 亡命して、傀儡になる可能性もあると。




「最後に―――貴方様が、王位を狙う道」




 それは、私が考えたこともなかったような道だった。王位継承争いで、国が荒れる中で、私自身が王になると声を上げる道があるのだと。



「王女殿下の望みをかなえるためには、王になる道が一番良いかもしれません」



 王になる。

 王位継承権の低い、王女の私が。



「もちろん、王を目指したところで貴方が王になれるかどうかはわかりません。だけれども権力を持たなければ、貴方のこの国のために動きたいという願いや神子とされていて処刑されそうなあの少女を助けることは出来ないでしょう」



 声が響く。

 ただその言葉を私は聞いている。




「―――王位継承権争いをしている者達は、権力を欲しているだけの者ばかりです。でも貴方は、王になりたいなどと今の今まで考えた事がないような王女殿下です。国が荒れた時に国民たちのために動きたい、まだ幼い少女に責任を押し付けるのは間違っている、そんな思いを第一に考えている。そんな王女殿下だからこそ、私たちは期待しているのですよ」




 お兄様たちとは、そんなに会話をしたことがない。だって私は側妃の娘で、王位継承権が低く、お兄様たちは母親の地位が高いものばかりだった。

 ―――だけど、お兄様たちがどのように生きてきたか、とかは少なからず知っている。



 ヴェネ商会から聞いているお兄様たちや貴族達の様子を聞く限り、王位継承権というものを第一と考えていてそれ以外のことを頭に留めていないように見える。



 恐らく、神子という存在が本物だろうと偽物だろうとどちらでもよいのではないだろうか。お父様は神子という存在を恐れていた。神子という存在を怒らせることがないようにと気を張っていた。でも恐らくお兄様たちはそこまで神子という存在に対する恐れがないように思える。というか、神子という存在への恐れがあるのならば、幾ら偽物かもしれないとはいえ、神子とされている存在相手に投獄は出来ないだろう。



 そもそも、本当にお父様を殺したのが、第三王子である兄であるならば自身で殺しておきながら、”偽神子を立てたから”という理由をつけるなんて真似をしているだけでも神子や神の怒りを買いかねない行為だ。



 ―――もう、我が国はもしかしたら神子の怒りを買っているかもしれないけれど。



「私は―――」




 私は、どのように動くべきだろうか。私はどんなふうに生きるのがこれから正しいのだろうか。それは分からない。だけど、私はヒックド様に言ったのだ。動かなければどうしようもないと。動かなければどうなるかなんて誰にも分からないと。流されるままに大変な目に合うよりも、自分の意志で動いて大変な目になる方がずっと良いと。

 そう言った私が、悩んで、動かないなんてことをしてはいけないと思った。



 だから、私は覚悟を決めた。



 ――――王女と、覚悟

 (王女は商会から情報を聞いた。聞いた上で選択を迫られる。そして王女は覚悟を決めた)




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