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紫荘の人々  作者: 中野あお
201号室:桐谷樹
9/20

1-8(201号室 Chapter end)

「桐谷、青葉会に入ったんだって。」

「情報が早いな。佐野先輩から聞いたのか?」

「そうそう。勧誘に協力ありがとうってメールが届いたわ。他は何か入ったのか?」

「いや、とりあえず、そこだけでいこうかなって考えてる。」

「へぇ。なら、なんで青葉に決めたんだ。結構迷ってたし、最初はあまり美術に興味なさそうにしてたけど。あれか、佐野先輩狙いか?」

「馬鹿かよ。そんなのでサークル決める奴がどこにいる。もう一回、高校でやり残したことやってみようかなって思っただけだよ。」

「本当かよ。そんな素振り見せなかったじゃん。」


 嘘ではない。佐野先輩に伝えたことが入部の理由である。

 しかし、本当でもない。それはきっかけであって決め手ではないから。


 青葉会に決めた理由は、こんな人がいるサークルなら俺でも仲良くやっていけそうな気がすると先輩を見て思ったからだ。

 でも、そんなことは本人には口が裂けても言いたくないし、言わないほうが良いことを承知している。だから、伝わる可能性を徹底的に断ちたい。


「本当だって。これでも悩んだ末に決めたんだ。半端な気持ちやノリではないことは確かだろ。」

「まあ、桐谷がいいならそれいいんじゃないかな。でも、サークルばかりにかまわずにたまには俺とも遊びに行ってくれよな。というか、今からカラオケ行こうぜ。」

「急だな。まあ、いいけどさ。」


 どのサークルを選ぼうが金井とはこういう関係が続いたのだろう。そういう仲間は大事にしていくべきなのかもしれない。


 それにしても、金井と知り会わなかったら青葉会には巡り合えてないと考えると、こいつに会えたのもなんだかんだで良縁なのだろう。


「金井って面白いやつだな。」

「桐谷はわかってるな。生粋の関西人である俺が面白くないはずないだろ。」


 こんなバカげた会話をこれから少なくとも四年間は続けていくことになる。

 そんなことを思うと楽しくて仕方のない大学生活が待っている気がした。

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