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紫荘の人々  作者: 中野あお
201号室:桐谷樹
3/20

1-2


 十二時を少し回ったころ、ようやく三分の二ほどの荷物を開封して並べることができた。荷造り段階で必要性が高いものに目印をつけて段ボールにまとめていたことと、途中で頼んでいた家電とベッドが来たこともあって、すべてを開けなくてもこの段階である程度の生活ができる程度にはなった。


 さもきれいに並べたかのように語ったが実際は本当に箱から出しただけで、収納的なことは一切できていいないためかろうじてという程度である。


 この状態でもなんとか生活ができるとはいえ、炊事ができるようにはなっていないのと、そもそも食材があらかじめ持ってきた米しかないため、休憩もかねて昼食を食べるために出かけることにした。


 昼食を食べに出ようと思ったはいいが物件決めと入学手続きの二回しか訪れたこともなく、土地勘が全くない。

 財布をポケットに突っ込み部屋を出て鍵をかけてた後にそのことに気がついた。

 ぱっと携帯で調べてもよかったが、地元の人に聴いた方が早そうだったので、何かあったら来いと言われた101号室に聞きに行く。


 俺の部屋の真下に位置する部屋、管理人室。部屋を出て階段を下りてアパートの入り口に向かうとその横にある部屋。

 表札に「鹿深野かふかの」とあることを確認してインターフォンを押す。


 何の返事もない。

 留守かと思い去ろうとしたとき、玄関の扉が開き、鹿深野さんが現れた。


「桐谷君じゃん。何か用?部屋で何か困りごと?」

「いえ、そういうわけではないです。引っ越してきたばかりでわからないので教えてほしいんですが、この辺りだと、どこまで行けば飯屋ってありますか?」

「それなら、アパート出たら右にしばらく歩いて行けばいいさ。そしたら、地下鉄の駅前につくから。そこらへんならいろいろあるし。」


 お礼を言うと扉を閉めて中に戻って言ってしまった。会話時間二十八秒。


 言われたとおりに、アパートから右に進み始めて、六分ほどでそれらしき場所についた。アパートから大学までと等距離くらいにあるようだ。


 どんな店でもよかったのだが、目についた牛丼屋で食事を済ませることにした。

 この牛丼屋はチェーン店で名前は知っていたが、地元にはなかったため、実際に入るのは初めてだった。ただ、牛丼屋ごとの味の違いがわからない僕には注文のシステム以外には大した差を感じられなかった。

 きっとこれからも自炊がめんどくさいくなるとこういうところに通うようになるのだろうなと思いながらも、初日からチェーン店で外食しているあたり楽さになれてしまいそうだ。


 昼食を済ませ食後の散歩がてら、その駅前周辺を探索してみる。

 確かに、この辺りにはいろいろな店があるようだ。スーパーにコンビニ、郵便局や交番、個別指導塾や司法書士事務所など多種多様なものが一通りそろっている。

 大学の最寄り駅という事もあるが、住宅地の近くにある駅なので日用品はだいたいここで揃えられるだけの店がある。


 ここにない物は電車で五駅、十分ほど離れたところにある市の中心地にいけばだいたい揃うだろうと事前にネットで集めた情報だ。

 それだけでも確認できたので、帰ってまた片づけの続きをすることにする。



「一応、紹介しておきたい子がいるんだけど。」


 アパートに着き、二階へと続く階段を上がろうとしていると、後ろから鹿深野さんに声をかけられる。振り向くと、鹿深野さんの横に小柄な女の子が立っていた。おそらく年齢は俺と同じか少し下。


「娘さんとかですか?」

「私がこんな大きい娘いるような年に見えるのか。」


 怒られてしまった。冗談だったのだが、やはり女性の年齢には気軽に触れない方がいいらしい。


「いえいえ、僕と同い年だって言われても信じてしまうくらいにお若いですよ。大学の構内で見かけても不思議じゃないですし。」


「若く見えるも何も私は若いんだがな。まあ、いい。この子は、奈良優ならゆうちゃんといって、桐谷君と同じ大学の新入生だ。部屋数が少ないアパートだから、今年は二人しか入ってきてないし、もしなんかあったらと思って紹介しておく。苗字と違って三重県出身らしい。」


 紹介された当人は、若干戸惑いながら、こちらにお辞儀をしてくれた。それを無視するのは悪いので、僕の方も挨拶を行う。


桐谷樹きりたにいつきです。よろしくお願いします。」

「よし、行ってよし。」


 奈良さんに一言も話させないままに、鹿深野さんによって初めての対面は終わらされた。どこの部屋に住んでいるかも聞いていないので、もう二度と話すことはないかもしれない、いや、今のところ一度も話していないか。


 そんなことよりは今は部屋の片づけに専念しなければならない。義務ではないが散らかった部屋で寝たくなければ日が暮れるまでには終わらせなければならない。

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