2-10
「大丈夫だけど…。」
断定しきらないのは癖だ。
あまりに唐突な切り出しに戸惑いながら答える。キティを一口飲む。
「あのさ。俺たちって今どういう関係なのかな?」
言いづらそうに、そしてどこか照れたように言う稜也。見ているのは私の目ではなく胸元。目線をそらすにしても他の場所があると思う。
言いづらい気持ちはわからなくもないが男ならこういう時くらいはっきりしてほしい。と思わないから彼と付き合えていたのだろう。
「質問に質問で返して悪いけど、稜也はどう考えてるの?」
ここ二日ほど考えていたことを聞かれて、すぐに答えるというのができなかった。答えは自分の中では出ているのだが稜也の考えを聞きたかったのだ。
「俺の中では元カノとして一応結論がついているんだけど。ここ数ヶ月連絡も取ってなかったし、お互いに話さないようにしてたから。」
「そっか。私も同じ感じ。元カレとして割り切っていたつもり。」
そう、そのつもり。未練なんてないはず。
「じゃあ、今回は友達として俺を頼ってくれたってことか。」
「そういうこと。なんだかんだ言っても私の周りで一番頼れる人だったから。」
「響、友達少ないもんな。」
「稜也に言われたくない。」
「似たようなもんだろ。」
今回の本題はなんだ。別れていることの確認なのか。
「それでさ、今後どうする?」
「今後って何?」
できるだけ冷静に装う。サラダを食べる。淡々と答える。
「こうやって普通に話せるってことは友達としてこれからもやっていったらいいのかなって思ってさ。そうすれば、お互い少ない友達を減らさずに済むし。」
「だから友達少ないのは稜也だけだって。」
少しイライラしながら答える。言い方が荒っぽくなってしまった。
今の言い方からすると彼は復縁を望んではいないということだろうか。
「そう怒るなって。それともあれか。あまり仲良くしたくない感じか?」
「そういうわけじゃない。むしろ、今後も仲良くできたらとは思うけどさ。思うけどさ。なんで稜也はそんなに平然としていられるわけ?」
語調が強まって言っている。それにつられて感情も昂る。
何に対して怒っているのかもわからないけど、どこか気に入らない。
「何か気に障ることでも言った?」
「言ってない。」
「じゃあ何で急に怒ってるんだよ。」
彼の言葉を無視する。
まるで拗ねた彼女みたいな態度だなと思いながら感情に任せる。
「私の今日の服装見て何も思わない?」
「前にも何回か見たことある服装だなとは思うけど。」
「そう。」
かがんでおもむろに胸下でも見せてやろうかと思ったが、それではただ誘ってるみたいで真意が伝わらない。
私がこの二日間ひそかに入れてきた気合に気づかないというのは失礼ではないか。わざとらしくない程度に抑えていたとはいえ、元々付き合っていた人と勉強のために会う時に、デート時と同じような服装で会おうという事の意味を考えてほしかったのだ。
「もしかして、何か伝えたかった?」
「考えて。」
少しの沈黙。
「わからない。」
根をあげる稜也。
それに対してわざとらしいため息で返事する。
「勉強するためだけに会うんだったらこんな服装で来ると思う?」
しびれを切らしてヒントを言う。いや、ここまで来たらもはや答えだ。
「響って付き合う前も付き合ってた頃も、俺と会う時はいつもそんな感じだったじゃん。」
「当たり前でしょ。好きな人と会うのに腑抜けた格好してくる人がいると思う?付き合う前からそうだったのは普通でしょ。」
「えっと…今は?」
「この流れでそれ聞くわけ?」
今日一番の声が出る。
言われた側も言った側もびっくりして少し黙る。
恥とか外聞とかそういうものを捨てて、お酒の勢いで話してしまうのが個室居酒屋の恐ろしさかもしれない。
「どうしたらいいのかな?」
この期に及んでそんなことを言い出す稜也。
思わず大きなため息が漏れる。
「私が聞きたいことは一つ。」
思いっきり息を吸って、吐いて。もう一度吸って。真っ直ぐ向き直り相手の目を見て、小声で、でもしっかりと言う。
「稜也は今でも私のことが好き?」
私が二日間、考えに考えて出した台詞。
私から何か言うのではなく、それでいて鈍感な彼に私の気持ちを伝える方法。私が切り出したように見えなくて、相手に決めさせる方法。
振り絞った言葉に一瞬ではあるが目を大きく開く稜也。
伝わった。成功だ。
彼も一息吸って、あの告白の時のように私の目を見て。いや、あの時よりも力も籠った目で私を見る。
ゆっくりと唇が動き、答えが告げれる。
「俺は…。」




