02.真神尚人の過去
真神尚人は孤児である。
10歳の時に事故で両親、妹と死別。
それから父の弟である叔父夫婦に引き取られたがそいつらはクズだった。
両親は、多額の遺産を残していたがそれを狙って尚人を引き取ったのである。だが遺産は父の友人であった弁護士が管理しており叔父夫婦には養育費が支払われる程度であった。
当てを失った叔父夫婦の態度が変わったのはすぐだった。体罰と言う名の虐待や罵倒や人格否定。狭い世界しか知らなかった尚人の心を歪めるには十分すぎることだった。また叔父夫婦の娘も両親と一緒になって尚人を貶めた。
昼間は、学校で娘にいじめられ、夜は家で叔父夫婦にいじめられる。そんな生活が続いたが、何かに頼るすべを知らない尚人はひたすら耐えた。尚人の心が壊れるギリギリのラインでフォローをし持ち直すとまた壊すをという遊びを楽しんでいた叔父夫婦の娘、真神玲子のせいで尚人の心はどんどん歪み消耗していた。
転機が訪れたのは12歳の時である。
どんどん様子のおかしくなる尚人を見かねて調査に入った父の友人の大芦弁護士が手を回したことによって児童相談所が乗りだし尚人は保護されることになった。
カウンセリングなどを受けたのちに大芦弁護士に引き取られることになった。
中学時代は平和であった。
大芦夫婦は、優しく理性的であり、その娘の大芦美雪も尚人に好意的であった。
しかし、一度歪んでしまった尚人の心はまっすぐに叩き直されても歪な形にしか戻らなかった。
この時尚人は、大芦夫婦のことは信用していなかった。弁護士として報酬を受け取っているから親切にしているのだと。美雪も同情心から好意を持っているのだと。
尚人は2つの目標を立てた。
まずは一人で生きていくこと。血縁ですら信用できないのならば誰かに頼ることはできない。大芦弁護士のような人間に頼るとしても、ある程度の地位や金が必要だ。
もう一つは大学進学。生前両親は大学の進学のための資金をためていたそうだ。大芦弁護士からそう聞いた尚人はそれを遺言だと思い、大学進学が生きる意味となった。
生きるため目標のため必死に勉強した。
幸い読書が好きだった。叔父夫婦や娘を避けるために学校の図書室や図書館に入り浸っていた影響でだ。
学校が終われば図書室や図書館で勉強を、夜は頭の良かった美雪に勉強を教えてもらった。成績は常に上位になっていた。
またこの時に物作りの喜びを知った。日曜大工を手伝った時にその完成品を大芦夫婦や美雪に褒められたからである。
叔父夫婦にずっと自分は価値のない人間だと言われ続けた尚人にとって褒めてもらえる、認めてもらえるということは衝撃的なことであった。
平和な中学時代を過ごしたと言える。
また状況が変わったのは高校時代である。
大芦弁護士を説得して高校からは一人暮らしをすることになった。まだ遺産は残っていたが将来のことを考えアルバイトも始めた。
学校に勉強、アルバイト、趣味で読書と物作り。それ以外はいらなかった。
学校での状況も変わった。まずクラスメイトに美雪と真神玲子がいた。学校では極力他の生徒とはかかわらないようにしていたが美雪が積極的に絡んできた。
大芦美雪は美人である。可愛い系で性格も穏やか、誰にでも優しく男女ともに人気が高い。また断れない性格で優しいことから勘違いする男が多い。
クラスメイトのイケメンモテ男こと小池颯太や無駄な正義感漏れ男な遠藤勇などがその代表で美雪の自称彼氏である。
なので美雪にスキンシップと称してベタベタされる僕は目の敵にされていた。凄くどうでもいい。
玲子は相変わらずだった。美雪と別の意味でよく絡んできた。
真神玲子は美人である。クール系で性格も冷たいが主に男に人気がある。取り巻きに、今時ヤンキー男な堂島郁夫とその手下の有象無象達がいてそいつらにもよく絡まれた。
クラスの二大美女に接点のある僕は浮いていたのである。
そもそもクラスの連中とかかわらないようにしている僕にも問題はあったが無駄なことだと思い無視していた。
そんな高校生活が続くと思っていた矢先、2年の夏休み前に事件が起こった。
そう異世界召喚である。
真神尚人は誓った。絶対に日本に戻る。そして大学に行くのだ。
だから慎重に行動しなくてはならない。他人に利用され消耗品にされるのはもってのほかだ。誰も信用できない。信用できるのは自分の力のみ。
僕のスキルがあれば日本に戻れる何かが作れるはずだ。だが、まだそこまでの力はない。
だから今は隠れて力を付けるべきだ。
生きて力をつけて日本に戻る。それが異世界での目標だ。