ミキ先輩と夏兄⑤
「正直になればいいのに、と僕は思うけど。ミキと一緒にいるときのアキ、すごく楽しそうだよ」
「それで、それだけじゃ済まないのを、夏樹はよく知っているでしょう」
幹尚が、どんなことになったのか。そして今、どうやって生活をしているのかを、夏樹はそばで見てきた筈だ。自分が受けて来たものと、同じものをアキが全て引き受ける訳ではないことは頭では理解している。何より、アキは家族にとても大事にされている。あんな心無い言葉は言われないとは思うが、それでも彼が少しでも傷つく様なことを、幹尚は望まない。
自分がそれを自覚したときよりも、世間は優しくなってきてはいるものの、それでも偏見が全くない訳ではない。同性にしか好意を寄せられない自分と、暁良は違う。勘違いだったらどうする。彼の一番輝かしい時間を、自分のために消費させるわけにはいかない。そう、こんな生産性のない、不毛な恋に付き合わせるわけには。
幹尚の言わんとすることを夏樹はおそらく理解しているだろう。それでも、と言いたげな視線から逃げたくて幹尚の方から顔を逸らした。夏樹は一つ大仰にため息をつくだけだった。
正直になれない弱いやつでもいい。本当は、喉から手が出るほどにアキのことが欲しい。でも、それ以上に彼には幸せになって欲しいのだ。恋愛よりも先に彼のことは人として大好きだ。あんなにいい子を、不幸せになんて、出来ないのだ。
「じゃあ、あげない」
「……あんた、また何言って、」
「そんな意気地のないやつに、アキのこと任せられないよ」
「任せるとか、そういう話ではないし、そもそもアキを一人の人間として認識しなさいよ。いつまでも夏樹の言うことを聞いているわけではないでしょう」
「僕は、幹尚ならアキのことを幸せにしてくれるって思ってるのに、本人に意気地がないんなら話が違う。そんなやつに、大切な弟はあげない。勝手にすればいい」
「だから、なんでアキの気持ちを置いて行くのよ。そもそもアキが俺のことを、同じ意味で好きだとは限らないでしょう」
「わかるよ」
夏樹は断言した。そこには迷いも躊躇いも無い。幹尚はそれを見て、ああ、と思った。夏樹は本当に、暁良のことを大切に思っているのだ。
そう、だからダメなのだ。この幸福な家族を、壊してはいけない。




