ミキ先輩と夏樹兄③
俺も追加でレモンサワーを注文し、つまみにもぼちぼち手を伸ばしながら、夏樹に問う。
「それで?」
「何が?」
「否、だから俺が今日呼び出された理由を聞いてるんだけど?」
「あぁ、」と、ここで一度言葉を切ると、手元の肉を口にいれて咀嚼した。たったこれだけのことが画になる人間がこの世に一体どれだけいるとだろうか「アキのことなんだけどね」
この芸術家の最高傑作のような男が脇目を振らないことが二つだけある。一つ目は、彼女のこと。二つ目が弟のことである。
彼女、にちゃんと落ちいたのはわりと最近の話で、それまでは超一方的な好意の暴力みたいな感じだった。あれだけされて付き合おうと思えるのは、単に夏樹の彼女、郁がいい子だからなのだろう。
そして二つ目。郁が現れるまではバロメーターはすべてアキに向いていた。分散してもまだ重たいを通り越して重力の一点集中みたいな好意なのに、それをすべて受けていたことを考えるとアキも相当な苦労人だと言える。
だいたい突然呼び出されるようなときは、どちらかの話だが、今日は後者らしい。
「で、アキがどうしたのよ」
「否、アキっていうか、アキもだけど、どっちかっていうとお前の話?」
「俺の?」
「そう、ミキの」
さっき頼んだばかりのビールが既に半分以上なくなっている。水を飲むかのように酒を摂取するこいつが、それでも酔っ払ったところは見たことがない。ザルなのか、それとも寿命を縮めながら飲んでいるのかは定かではない。
「アキとヤった?」
「っ……、!? バカ野郎なに言い出してんだお前!」
口に何も入ってなくてよかった。飲み物とか絶対吹き出した。
「否だから、アキとセ「そういうこといってんじゃないわよ!」
不満そうな顔をしないでほしい。その顔をしたいのは俺の方だ、と言いたい。
夏樹と郁の邂逅は書きたい話です。