ミキ先輩と夏樹兄②
まだまだミキ先輩視点です
泉夏樹は高校時代、いろいろな意味で有名人であった。
まず、容姿が驚くほど整っていた。同じ男の自分が見てもイケメン、もっと言えば人離れしているといっても過言ではないほどの顔の作りをしていた。どちらかと言えば、美しい、と形容した方が適切かもしれない。更に身長も高く、スタイルも良いなんてなれば、それだけで人の目を引く。新入生代表で挨拶をするため、登壇したときに、女子生徒が数人ぶっ倒れたのは伝説である。
次に、勉強も運動も人並み以上にこなす能力を持っていた。勉強面に限らず、頭の回転も早い彼は、いろんな場面でいろんな人に重宝される存在だった。しかし、当の本人は生徒会長に推薦する声、部活動からの勧誘をことごとく無視して、三年間帰宅部であり続けた。
そして最後。
泉夏樹は、人並み以上の成果を出す代わりに、キャパオーバーで定期的にぶっ倒れるのだった。
「で、なんでミキちゃんだったんだっけ」
「あんたが倒れたその時の体育で、ペアで柔軟してたからよ」
それからずっと、何故かお世話係になってしまった。
忘れもしない、高校一年の体育だ。ゴールデンウィークが明けたくらいの時期だったと思う。学年が始まってまだひと月程度しか経っていないにも関わらず、夏樹は既に有名人だった。その時はまだ、とんでもないイケメンがいる、というくらいの認識だったはずだ。
かくいう俺も顔が綺麗なやつだな、という認識しかなかった。まあそれも、柔軟しながら「多分今日のサッカー終わったら倒れるから、保健室連れてって」等という頭のおかしい発言を聞くまでの話ではあるが。
いったいこいつは何を言い出すんだ、と思う間もなくサッカーの試合が始まり、そして宣言通り、夏樹は派手に倒れたのだった。
自分と大差ない体格の夏樹を保健室まで運ぶ間に、何度捨て置いてやろうかと思ったか数えきれない。
「それ、ヤバイですね」
と、この話題をふったはずのユキちゃんがドン引きしている。気持ちはわかる。本当に夏樹が倒れたときに俺も正直引いた。
「そうでしょ……、だから、ある程度クラスが落ち着いてきて、人となりがわかるようになってきたら、触らぬ神に祟りなしって感じで、最初あんなにも騒いでたクラスの女子たちが、夏樹のこと、遠巻きにしか見てこなくなったもの」
そのあともことあるごとに、夏樹を引きずって保健室に連れていった。
「倒れるってわかってても、止められないんだよねぇ」と、夏樹。本人がこの調子なので、こちらとしてもどうしようもない。
普通、体力が尽きれば息もきれるし、筋肉も悲鳴をあげる。大抵の人は本当の意味で限界まで己を酷使することは出来ない。
集中している状態も長く続けば疲労が溜まるし、どこかで限度がくる。これ以上は“ダメだ”というポイントが、生命活動を続ける上で確実にあるはずなのだ。
しかし、夏樹にはそれがない。自分が疲労していることがわからない。自分が、どこまで自分を酷使しているのかを把握できない。結果として、倒れるまで全力を尽くし続ける。倒れるまで止まれない。手を抜くことが叶わない。
体力も精神力も、使いきるまで限度がわからないのだ。
「“欠陥”だと、ぼくは思っているんだけど」
いつぞやに夏樹自身がそう言った。人として、生体的な欠陥だと。こんな平和な世の中だからいいけれど、どこで倒れるかわからないなんて、社会的に致命傷でしょ、と。
「絶対早死にするから、おすすめは出来ない生き方かな」
「夏さん、それはおすすめされても真似できないので安心してください」
「なるほど?」
「あんた、わかってて言うのやめなさいよ」
そうだねえ、と呟いて夏樹はビールを飲み干した。
「ユキちゃん、ビールもう一杯ちょうだい」
「あっ、わかりました。面白い話聞けてよかったです」
そろそろ戻らないと怒られちゃうので、といってユキちゃんは個室を出ていった。いくら空いているとはいえ、大分長居していたように思う。
「それから何年つるんでるんだ、もう7年目?」
「よく考えなくても恐ろしいわね」
ため息を一つついて、俺も自分のグラスを傾けた。




