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黒龍紀 零ーゼロー  作者: 逢川 七緒
第1章 目覚め
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2

「はは、あの朴念仁にそんなこと言うやつ初めて聞いたわ」

「怒ったってことはつまんねえってちゃんと理解してんの。変えようとしないのは単に面倒くさがってるだけ。平たく言えば職務怠慢以外の何者でもない」

 昼休みになり、母親が作った弁当を囲みながら幼馴染のくれないいつきに愚痴を垂れた。

 樹とは特に約束をしている訳ではないのだが、事情を知っているもの同士気楽に話せるため、昼休みは息抜きを兼ねて一緒に弁当を食べるのが通例になっている。

 今日は結局昼休み開始と同時にあの教師に呼び出され、延々とまたつまらない話(というか説教)をされ、結果として待ち合わせに遅れてしまった。

 おかげでゆっくり食べるはずの弁当を掻き込む羽目になっている。

 天気も良く、屋上で食べるには最高のシチュエーションだったはずなのに全部台無しだ。

「で、本題はそこじゃないだろ?」

「ああ、そうそう。そん時の夢で黒い龍を見たんだ」

 樹が目を見開く。

 元々糸目のため、あまり目を見ることはないのだが、彼の瞳には月が宿っている。

 驚いたりしたときぐらいしかその月を見ることは出来ないが、その月が樹の力の根源だ。

「……篤臣あつおみさんには言ったか?」

「お前の話を聞いてからにしようと思って」

「話ねぇ……俺なんかが今をときめく青葉家の次期当主に意見してもいいものなんだか、悩ましいところだけど」

「何言ってんだ。三大老さんたいろうのクセに」

 日ノ本では国が平定されてからずっと、青葉家を筆頭にした階級制度がひっそりと存在している。

 階級制度と言っても一般的には廃れた古い慣習も同然で、普通に生活する分には全く影響がないのだが、その階級制度がいまだに効力を発揮する唯一の場所――青皇せいおう御所では、家柄に基づいた職務が決められていた。

 例えば青葉の分家筋にあたる金宮かなみや家かしろがね家は青葉家近衛役、三大老と言われる執政役にはそれぞれ雨地あまち家、白鳥しらとり家、くれない家。

 ちなみに青皇御所にはこの家の者以外の出入りが禁止されているため、国民でもそう簡単に近寄ることは許されない。せいぜい半径2kmがいいところだ。

 そして樹の実家である紅家は陰陽五行・占星占術・天文・物理学を主体としており、三大老の中でも異色のポジションである。

 だが異色といえど紅家初代当主の朱音あかねがいなければ、約400年の間、一切の争いなく今日まで過ごせたかは怪しいと言われるほど、その力は絶大だ。

 しかし残念ながら社会的に『目に見えないもの』への反感が根強く残っており、紅家の待遇そのものに異論を唱えるジャーナリストや国民も少なくない。仕方ないといえば仕方ないのかもしれないが、親友を否定されるのはどうにも辛い。

「篤臣さんには『もう一つの卵がかえる』と伝えておけ」

「卵?」

 樹は俺の疑問に答えることなく、あっさり屋上から出ていってしまう。

 取り残された俺は、僅かな時間で自分の腹を満たすことに集中するしかない。

「もう一つの卵、ねえ……」

 卵焼きでも食い損ねたのかな、なんて悠長なことを考えていると携帯が振動した。

 相手は他でもない、篤臣だった。

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