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現代版昔話シリーズ1 浦島太郎

作者: すみやん

その日の朝、漁師である浦島太郎(34)は日課である浜辺でのランニングを行っていた。

元々この男は、父親が漁師ということもあって

子供の頃から父親の姿ばかりをみてきたせいもあり

気がつけば高校を卒業すると自分も漁師という職業についていた。


別段漁師という仕事に不満があるわけではない。

しかし約人生の半分を漁師として過ごし、それ以外のことは殆ど知らなかった。

故に他にはどういう世界や知らないことがあるんだろうと偶に考えていた。




その日は少しばかりいつもより距離を伸ばして走ることにした。

浦島の体力は34にしては目を見張るものがある。

中学生の時から今まで毎日この浜辺を走っていたのだ。

嫌でも体力だけはついたし、仕事柄体力は必要不可欠だ。


―――遠くで声が聴こえる。おぼろげだが助けを呼ぶ声だ。

高校までの勉強の成績は下の中。漁師をするのに理科だ英語だなんて必要はないと思ったからだ。

普段は回らない頭だが、こんなときだけ浦島の頭は超スピードでフル回転し打算を働かせていた。

(身なりの良い若い女!―――いや若い女!―――この際、女であれば多少年齢は許す!)


田舎の漁師という職業柄、女性と接する機会があまりない浦島の頭は

「どうか悲鳴の主が女であってくれ!」と悲鳴にも似た願望がグルグルと渦巻いていた。





悲鳴の元にたどり着くと小汚いオッサンが小学生であろう3人に囲まれて石を投げられていた。

性別からしてまるっきり逆の想像をしていた浦島の落胆は凄まじい物であったが

一応助けてあげることにした。

浦島は鍛え上げられた一人前の漁師である。

その小麦色の肌に筋肉質の体、キラリと光る白い歯。

昔はシゲルシゲルと馬鹿にされ笑われたが今は怖いものなしだ。





浦島が野太い声で怒ると子どもたちは一目散に逃げ出した。

「大丈夫かい?」

浦島は元からボロボロだったのか分からない身なりのオッサンに尋ねた。

「見りゃわかるとちゃうんか?」

オッサンは苛立ちながら懐からシケモクを取り出し、紫煙をくゆらせ

「だいたい助けるんならはよ助けにこいや」

そう言うやいなやカーッと痰を吐きながらダルそうにした。


浦島は海の男である。海の男とは血気盛んなものである。

気がつけばオッサンの襟をつかみあげていた。

「待、待ちーや!待ちーや!スマン謝るから許してや!」

オッサンがそういうので取り敢えず浦島は地面に降ろしてやることにした。

「いやー…兄ちゃんがそんなに強いとは思わへんかったで。

んー…せやな…兄ちゃん女は好きか?」「大好きだ」

浦島は食い気味に答えた。


「ほぉーそれは良え事聞いたわ。助けてくれたお詫びと言っちゃなんやが…。」

そういうとオッサンはヨレヨレの紙を手渡してきた。

その紙には半額チケットとかかれ、両サイドには胸元の開けた絵が描いていた。

何やらサービス内容やらが書かれており、

それを一つ一つ食い入るように見る浦島の目は血走っていた。

「おっちゃんな、お金ないから行かれへんのや。だから代わりに楽しんできてや。」

オッサンは笑顔でそう言うと立ち去ろうとした。

童貞の浦島にはそのチケットは何にも代えがたい素晴らしいものであった。

「凄い…!世の中にはこんなお店があるのかッ!」

去り行く背に浦島は大きな声を投げかける。

「おっちゃん!名前は何ていうの?」

オッサンは背を向けたまま、グッと親指を立て

「亀山…亀山三太郎や!」

浦島は早朝のコンビニに向かっていくオッサンをいつまでも見送った。





仕事は手につかず。浮足立つ浦島は一刻も早く家に帰りたかった。

その晩の事である。

オッサンに渡されたチケットの裏のURLを殆ど触ったこともないPCに入力する浦島が居た。

キーボードの打鍵に力が入り、血走った眼は必死さを物語っていた。

しかし浦島家のPCはインターネットが繋がって居ないことに気づいたのは明朝になってからだった。



目の下に隈をつくり、寝不足ながら日課のランニングを始めた浦島。

昨日の浜辺に差し掛かると、紫煙を吐き出すオッサンがそこにいた。

浦島はガッチリと肩を掴み、必死でこのチケットの場所はどこなのかを尋ねた。

「よっしゃ!したらおっちゃん案内したるわ、ついてきや」

早朝から汚い格好のオッサンが人の波を割っていく様はまさにモーゼの十戒のようであった。

浦島は神々しいとすら思った。

「着いたで、ここや」

オッサンが指を指す先には、見たこともない豪華な建物が建っていた。

「ありがとう。おっちゃん!」

オッサンは手を伸ばす。

それに答えようと浦島も手を伸ばし握ろうとするが

「いや、案内料や案内料」



オッサンに3000円握らせ別れる浦島。

入口の前には黒いスーツの男が立っている。

そこに浦島は駆け寄った。

「なに?お兄さん朝からやるね~!」

やたらフランクに話しかけてきたので緊張の解けた浦島はチケットを差し出す。

「このチケットつかったら特別コースは無理ですけど、いいです?」

人生で一番の衝撃を受けた浦島は黒スーツにどんなことが違うのか鼻息を荒くして聞いた。




「特別コースで頼む」

そう浦島の口から言葉が出るまでにそう時間はかからなかった。

「了解です!一名様特別コースでご案内~!」

受付の厳ついおじさんは一瞥して呟いた。

「楽しんでってね」と。


そうここは風俗、「竜宮城」

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― 新着の感想 ―
[一言] わっ、たいへん! かめさんがおっきしちゃった!
2016/06/08 14:00 退会済み
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