表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/32

8、第2回 無礼講ですよ <下>

「堀ちゃん、明日の昼間って何か用事あった?」


 いきなり恋バナ終了!?

 先輩、まだ足りないっす!

 これからっす!

 後で絶対に蒸し返してやりますから。覚えといてください。


「いえ、特には」

 あの時点では予定は空いていた。

 もう予定は入れたけど。

 なぜ夜になったのか、ですか。

 そこ突っ込みますか。


「なんで飲みを希望したかと言うとですね、ここまで来たらもう言っちゃいますけど、わたしの知ってる会社のたろさん、ちょっと怖かったんですよ。男性社員さん同士ではそんな風には見えなかったんですけど、わたしとか話しかけるなオーラというか感じちゃって。でも飲むと話しやすいっていうのが女子の共通認識でして。素面で会って会話が続く自信が全くなかったんですよ」


「たろちゃんは飲むと面白いねー」と社内恋愛でゴールインし、現在もお勤め中の明子姉さんも言っていたから、間違いない。


「俺そんなだった?」

 たろさんは信じがたいという顔をしていた。

 無自覚だったか。

 そりゃホントに社内恋愛とか無かったのかも。

「もともとこのお店気になってたのでご近所のよしみで誘ってみました。ここからなら簡単に帰れますしね」

「俺、ほんとそんなだった?」


 たろさん、アイデンティティ崩壊ですか、大丈夫ですか。

 この際だ、わだかまりも解いておこう。


「しかもですよ。お互い始めの頃の印象って悪かったじゃないですか。わたしはなんで経理に来てこの人しゃべらないんだろ、って思ってたし、たろさんも高田兄さんに『誰にでも笑って気持ち悪い』って言ってたでしょ?」


 あれはちょっとショックだったけど、先にたろさんを悪く言ったのはわたしだ。

 今なら自業自得だと思える。

 大人になった。


「ちょ、ちょっと待って、俺そんな事言ってないけど」

「まぁ10年も昔の話ですから。わたしが同期の飲みでたろさんの愚痴を言ってたから高田兄さんが気を遣ってと言うか、それか気分を害して言い返したのかもしれませんね。たろさん、高田兄さんと仲いいから。まぁ、みんな若かったですし、そう言われたらわたしも仕事中、笑ってごまかしたりとか思い当たる事ありましたし」


「ごめん、俺ほんと覚えてなくて」

 真剣にたろさんが困惑しているのでわたしも慌てた。 


「あ、文句言ってるんじゃないですよ。なんか誤解が解けたじゃないけど、言えてすっきりしました。ほんと、根に持ってるわけじゃないですからね。て言うか、たろさんが言ったかどうか怪しくなってきましたし。言ってなかったら完全にわたしの逆恨みですよ。こちらこそ古い話してすみませんでした。はい、乾杯」

 カウンターに並んで座っているので、置かれたままのたろさんのグラスに梅酒のロックを軽く当てた。


「わたし変な事ばっかり恐ろしく覚えてるんですよ。高校の時の生物で『オーストラリアにしかいない生物は』って先生に聞かれて『バンビ』って答えた男子生徒いたなぁ、とか」


 たろさんはグッと何かをこらえた。


「『それは小鹿の名前ですねー』って言われてましたけど。中学校の時で友達が俳句で大臣賞か何か取ったんですけど、その俳句も覚えてたり。俳句と言えば、若い頃、会社に不満があった友達が社内の仕事に関する真面目な俳句募集で『早くしろ。そういう事は早く言え』って提出したんですけど、すごくないですか」

 

「ごめ、堀ちゃん、もう勘弁して」

 口元を覆って向こう側を向いたたろさんの声も、肩も震えていた。

 よし、勝った。


「若い時って妙に難癖つけというか、けっこうな毒舌家だったんですよ、わたし。ほんとにあの頃はすみませんでした。まぁ今日もひどい事ばっかり言っちゃった気がしますけど」

「いや、なんか、こちらこそ、すんません、みたいな」

 たろさんも少し、浮上してくれた。


「お互い、この年で会えたから言えるんですよねー」

 うん、お誘いメールが来た時は動揺しまくりの、途方に暮れまくりだったが話せて良かった。

 自然と顔が緩んだのが自分でも分かる。

 こんなに素敵な飲みは久し振りだ。

 ほろ酔いでいい気分になっていると、前を向いて座っていたたろさんが首をかしげるようにこちらを見た。 


「堀ちゃん明日空いてる? 遊びに行かない?」


 本当に、この人は━━なんでそういう事をそんなにナチュラルに言えるのかなぁ!



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ