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7、第2回 無礼講ですよ <上>

無礼講シリーズはこの上下回で終了です。

 良かった、ハズレではなかった。

 お店の希望を出しておいてハズレのお店だったらいたたまれない。

 小さくて、妙にくすんだ感のある外観なので不安だったが、昔から営業しているお店だけはあった。

「お仕事、大丈夫でした?男の人で定時ダッシュしてる人ってほとんど見た記憶がないんですけど」

 今になって思う。

 本当になんという会社だろう。

「最近ちょっと落ち着いてきた所だったから大丈夫。最近はけっこうみんな早いよ。世間で鬱とか多くなってるから、会社も色々予防に努めてる感じ」

 それを聞いて少し安心した。



「堀ちゃんなんで彼氏いないの?」


 くっ━━


「ズバリと来ますねー。ものすごい決めつけてきましたねー」

 それはもう、日本酒はまわるのが早いんだと言わんばかりにぶっこんできましたね。

 それとも38歳になると遠慮がなくなる物なのかもなぁ。

「彼氏いる子はあの時間にタクシーで帰ったりしないかな、と思って」

 何この洞察力というか、男女かけひきプロフェッショナル的な。

 すごい、すごすぎてちょっと怖いよ。


「たろさんだって人の事、全然言えないじゃないですか。んー、30になる時まではそれなりに焦ってたんですけど・・・最近、妹に二人目が生まれたんですよ。親も孫の顔見られたし、とか思うとなんか安心しちゃって。気が抜けたというか。まぁ、強がりなのかもしれないですけどね」


「堀ちゃんモテてたじゃん」


 はい? どの口が言うか。

 無礼講で行きましょう。

 社交辞令は無用です。


「いや、あの会社、社員300人で女子1割くらいしかいないのに6年いて何にも無かったんですよ」


 うぅ、何度言ってもつらい。

 一人だけ10歳近く上の人に誘われて遊びに行ったものの、ハタチそこそこのわたし相手に結婚願望が強すぎて即お断りしたケースはあったが、その人は今も在籍しているだろうからそれは秘密とさせていただきます。

 女には秘密の一つや二つあるもんだ。


「既婚者の四、五十のおじさんにはモテましたけどね。わたし社内でもセクハラ発言しても許される女子社員トップ2でしたから」

 もう一人は金髪に近いギャルだ。

 あの会社は時々、大型新人を入れて何か方向転換を図ろうとする所があった。

 たろさんは「そう言えば、たしかに」と笑っていた。


「あ、でも一応モテ期はあったんですよ、退職してからですけど。短かったですけど」

 モテ期ってあるんだ、と実感した時期が1年弱。

 まぁ飲み会好きが高じ、友達開催に出席したら次は幹事、の繰り返しで、単に「この子簡単そう」と思われただけかもしれないけど。


「自分を偽っても仕方ないので素のままでいたら大抵デート数回で終わりました」

「え、何それ。すごい聞きたい」

 言いましたね?

 じゃあ言いますよ?


「初デートでヤモリにときめいたり、ボクシングジムに行ってるって言ったらドン引きされたり、まぁ色々ですよ」

 飲食店にいるので爬虫類に関しては声を潜めた。


「爬虫類好きなの? ジムは健康的だと思うけど・・・」

「爬虫類は犬や猫と同列なだけなんですけどね」

 たろさんは「同列なんだ」とつぶやいていた。


「たろさんが考えてるジムはボクササイズじゃないかと。わたしが行ってたのは元プロボクサーとか、アマチュアの選手の方が個人が趣味で教えてくれてる所で、平日の夜1時間しか空いてないんですけど、月2千円なんですよ。安くないですか? そこで縄跳びして、シャドーボクシングして、ミット打ちとサンドバッグ殴ってました。ほんとね、あの頃ものすっごいストレスたまってて」

「もしかしなくてもうちの会社にいた頃なんだ?」

 当時の精神状態を思い出し思わず力が入ったわたしに、たろさんは笑った。


 実は最近また行き始めたんですけどね。

 いやぁ、ウエスト回りが気になって仕方ない、というか危機感を抱くようになりまして。


「ボクシングすごいんですよ、ウエストめちゃくちゃ絞れます。わたし20代前半の頃、腹筋縦に割れるところまで行きました。おススメですよ」

「まじで」

 たろさんは愉快そうに喉を鳴らして日本酒を軽く傾けた。

 なんか大人です! うわ、これが男の色気というものですか。

 まさか生でお目にかかる日が来ようとは!


 あの頃、平気そうな顔して、実はみんな引いてたんだよなぁ。

 合コンで知り合って何度か誘われて遊んだ後、最終的に友達になった男が「あれ、実はひいてたんだよね」と後に告白した。

 そうだったのか、素直に言ってくれてありがとう。

 もうね、そあの時はその男の子に感謝さえ覚えたよ。

 たろさんも笑っているが、その魅力的な仕草には騙されませんよ。

 

「年下キラーって聞いたけど?」


「えぇ? あの頃ですよね? あの年で年下キラーってなんかすごい嫌なんですけど」

 わたしは3人姉弟の一番上だ。

 下に妹と弟がいる。

 新入社員を見ると男女問わず応援したくなっちゃって、経理に来た子にもつい つい一言言っていたからか。


 当時シゲさん達一部の男性の先輩方からは「かあさん」と呼ばれていた。

 ハタチそこそこだったのに。

 そうか、「かあさん」、「年下キラー」、おまけに「男前」って、今思えば私の評価、散々だな。

 そりゃ浮いた話も出ないわけだ。納得した。


「たろさんこそ、どうなんですか」

 先週も話したけれど「最近」の話には至らなかった。

 社員さんの話はいろいろと先週聞いたので、今回は思う存分その辺りが突っ込める。


「実はたろさんの浮いた話を聞いた事がないんですよ。まぁ知らないだけなんだと思うんですけど、興味あります。社内恋愛とかありました?」

 イケメンの女性遍歴とか婚活状況とかめちゃくちゃ気になります!

 すご過ぎて引くような内容だったらどうしよう、という不安も無きにしも非ずだけど。


「いや、もうね。残業と出張で長続きしないしない。社内は女の子少ないし、新入社員は年がもう離れすぎてるし」

「あの会社の人は勤務形態が不規則な看護師さんとは上手くいきやすいって聞きましたけど」

「お互い忙しすぎて、ほとんど会わずに終わった」

 あ、そりゃそうか。


「てかえらくナース押しで来るね」

 たろさんは苦笑した。

 いえいえ、そんな事はないんですけどねー。

 保母さんとナースの印象が強すぎて、もう。

 というか、やっぱりナース彼女いたんじゃないか!

 もうあっぱれとしか言いようがないよ。


「たろさんは会いたがりですか? 会わなくてもいい方ですか?」

「そりゃ人並みには会いたいけど。会社が会社だから会えるだけで嬉しい、なんてすごい謙虚になった」

 力なくうなだれるたろさんの様子に笑ってしまった。

 女の子みたいじゃないですか。


「分かります。まぁもともと毎週会わなくてもいい派だったんですけど、社員さん見てて、あんなに仕事してプライベートの時間がない人もいるんだから、ちょっと会えたらそれだけでありがたいじゃん、って思っちゃって。あの会社で余計にそうなっちゃった気がします。ってわたしがこんなにドライでシビアになっちゃったのはあの会社のせいって事ですかね」

 うわ、ちょっと新たな仮定がここに浮上。

 まじでか。





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