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会社一のイケメン王子は立派な独身貴族になりました。(平成ver.)  作者: 志野まつこ
第2章 おまけのコーナー <その後の二人>
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6、 美術館とお茶椀 <前>

 結婚式のスタイルについての記述がありますが、批判ではありませんのでなにとぞご了承ください。

 目が覚めると目の前にはスリーピングビューティー、首の下には腕。

 うーん、こんなきれいな人が目の前で眠っている事が、いまだにちょっと信じられないなぁ。

 わたし、もう宝くじ当たらないと思う。

 運を全部使い果たした気がする。

 いや、もともと買う方ではないんだけど。


 そしていつの間に腕枕してくれたのか。

 寝る前に外したはずなのに。

 口元が緩んだ。


 ホントに嬉しい。嬉しいけども。

 枕と首の隙間に腕を入れているから負担はないと言うけど、もしそのまま向こう側へ寝返りをうったら肩、ゴキッって言うんじゃ……とか、考えただけでも痛いんですけど。

 わたしも負担をかけまいと無意識に首に力が入っちゃうので、起こさないようにそっと腕を外した。


 こちらの方が布団に余裕があるような気がする。

 たろさんの方を向いて腕を伸ばしてちゃんと布団が掛かっているか確認した。

 少しだけたろさんの方へ布団を寄せると、腕が回される。

 ああ、男の人の腕だなぁ、当然の事なんだけど。

 抱き寄せられつつ、すり寄りつつ、ぎゅーっと、お互いじゃれるように強く抱き締めあって何度か軽く口づけた。


「布団、ギリギリですよね。大きいのに買い替えようかなぁ」

 幸いな事に二人とも寝相がいいし、くっついて寝るので寒いという事もないんだけど。

「堀ちゃん小さいからけっこう平気。もうすぐあったかくなるし、このままでいいんじゃない?」

 シングル布団に大人が二人。

 なんかの歌詞っぽい。

 でもそんな年でもないような気がして。


 年明けに結婚式でブーケを分かち合った彼氏持ちの友達に、機会があってふと聞いてみたら「小さい布団に大の大人が二人ってなんか可愛くない? 今しか出来ないし」と言われた。

 やっぱり?

 わたしもちょっとそう思うんだよね。

 たろさんも問題なさそうだし、それでいいのか。


 今日は市内の小さな美術館で開催中の「地元の工芸作家展」にお出かけ。

 最近では出先で手を繋ぐ事がすっかり当たり前になっていた。

 一人で行こうと思っていたら、たろさんもなぜか興味を示して一緒に行く事に。

 社会に出てから美術館に行った記憶がないそうで、ご相伴にあずかる的な感じらしい。


 本音を言うと美術館は一人で行きたい方なんだけど。

 気に入った物は心行くまで観賞し、気になった作品にまた戻ってうろうろして、と時間をかけてゆっくり見たい。

 そんなわたしを、たろさんは邪魔しなかった。

 わたしの後に付き添い、わたしの先には行かない。

 わたしが次に移れば、一緒に移動する。

 館内に入ってから手は繋いでいないにもかかわらず。

 ふと見終わった作品が気になってちらりと振り返れば、「あれ気になる?」そう言ってくれた。


 やきものは手びねりとろくろの作品。

 県の伝統工芸品である竹細工に、絵画も。

 たろさん自身も楽しんでくれたのか、時間をせかす空気が一切なくて━━ばっちり堪能できました。


 物づくりの会社に入社したくらい、人間が作る物や、作る過程に興味がある。

 現在もその会社に在籍するたろさんも、それは例外ではなかったようで、「作り方」に興味津々だった。

 バリバリの文系なわたしと、理系男子であるたろさんの物の見方は少し違っていて、それも興味深くて。

 美術や工芸に関して専門的な知識もないまま、二人でああだこうだと言いながら館内をそぞろ歩くのは新鮮でとても楽しかった。


「すごいです、たろさん。なんかものすごく堪能出来ちゃいました」

「ああいうのは自分のペースでゆっくり見たいだろうしね。でも俺も思ってた以上に楽しめてびっくりした。堀ちゃんが嫌じゃなかったらまた一緒させて」

 マイナー分野の企画展だと思ったけど、意外と楽しんでいただけたようで何よりです。


 お昼はたろさんの提案で以前「観光客ごっこ」をした温泉地の古民家カフェに。

 コインパークに車停めないといけないから郊外でも良かったんだけど、覚えていてくれたのは嬉しい。


 通りがかった温泉の建物の前で、結婚式の前撮りが行われていた。

 日本最古の温泉で、重要文化財でもある建物。

 そこをバックに撮影できるという事で、和装で撮影したいカップルの人気のスポットなのだ。

「うちの妹も上の神社で神前式だったんですよ。人力車もばっちり乗ってました」

 裏の山の上に神社があって、神前式を行った後、人力車に乗って路面電車まで移動して、復元された蒸気機関車で市内のホテルまで白無垢のまま移動。

 ひそかに人気があるらしい。

 たろさんは意外だったのか少し驚いた顔をした。

「堀川家は神前式?」

「いえいえ、単に妹が白無垢に憧れてたからです」

 父が酔うと面倒なので「二人だけで海外挙式でもいい」と母と弟が言ったくらい、しきたりなどはない。


◆―――――――◆―――――――◆―――――――◆―――――――◆


 以前、堀ちゃんが気になると言っていた古民家カフェは大正末期に作られた建物をリノベーションした物で、それは趣のある店内だった。

 和装の花嫁をずいぶんと落ち着いた様子で見ていたので、「教会でドレス派」かと思ってそれとなく尋ねれば━━


「わたし、無神論者なんですよねぇ」

 オーダーした食事を待っている間、堀ちゃんはしみじみと言った。

 今日の堀ちゃんは朝の天気予報を見て「今日は気温が上がりそうですねぇ」と髪をアップスタイルにしている。

 上着を脱ぐと首筋やうなじについ目が行く。

 妙なところで春めいてきたと実感した。


「普段信仰もしてないのに突然行って誓われても、神様も困るんじゃないかと思うんですよねぇ。あ、もちろん出席する分には全然気にならないんですよ? 神前式は厳かなのがいいですよね。残すべき日本文化って感じで大切だと思うし、最近のチャペルはすっごくきれいで、ちゃんと盛り上がってるんですよ? でも自分が、となるとなんか違うかなぁ、人前式がベストなのかなぁ、と。親兄弟やら友達に誓った方がよっぽど重いと言うか、こう、後にひけない感がありません?」


 ━━うん?

 なんか結婚に対する熱と言うか、ときめき的な盛り上がりが思った以上に堀ちゃん少ないような。

 ていうか、なんかそれものすごい鬼気迫る感じがする気がするんだけど、気のせいか?

 結婚式ってそんなシビアに考える物なのか?

 みんな軽いノリ、と言っては悪いけど「憧れ」とかで決めるもんじゃないのか?

 あとは家のしきたりとか?

 うちも特にしきたりはない家だから兄貴の時も、「嫁さんの希望」でチャペルウェディングだったハズ。

 え、俺間違ってないよな?

 堀ちゃんらしいと言えば、本当に堀ちゃんらしいんだけど。

 でもってそう言われたら、それがものすごく自然な気がしてきたんだけど。


「まあ、ゲストに美味しい物を喜んでもらえたらそれでいいんじゃないかと。わたし、30件以上出席したんですけど、結局覚えてるのって食事が美味しかった所なんですよ」

 ずいぶんと遠い目をして堀ちゃんは言った。

 さ、30件?


「最近は親しい人だけでこじんまり、も増えてますけど10年位前って同僚も招待するのが普通だったじゃないですか。あの会社って女の子少ないから、他部署の先輩とか、回転の速い総務の寿退職にも毎回ご招待いただいてたんで。30件を超えてから回数が分からなくなったんですけど、中小企業の社長かって感じですよねぇ。経理課長には『絶対取り戻せないね』って笑われました」

 何とも悲惨な話に聞こえたが、「中小企業の社長」でツボに入った。

 男性社員はチーム内の人間や、親しい同僚の時に呼ばれるくらいだからそんなに機会はないが、人当たりの良さがあだになった堀ちゃんが気の毒に思えた。


「まぁ、もし人前式というスタイルが発祥して無ければ、わたしもチャペルだったんだろうとは思いますけど。あ、信仰薄いのに神社でお守り買ったり、七福神参りとか言っちゃってましたね。ミーハーですみません」

「いや、まぁ、誰もそこまで考えて初詣もしてないだろうしね」

「それもそうですね」

 堀ちゃんが楽しそうに笑った所でオーダーした食事が来て、その話題は締められてしまった。

 30件も出席して結婚の話題にも動じなくなってしまったのか、堀ちゃんは世間話で終わらせてしまった。

 もうちょっと違う反応が見たかったのだけど。



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