5、うちの末っ子長男は。
残念ながら今回は堀川家の次女と長男のメールのやり取りがメインです。
堀ちゃんを出したかったけど、力量が及ばず「堀ちゃんの生態」しか出せなかった・・・!
読まなくても「堀ちゃん・たろさん」には影響しませんので興味のない方はスルーで大丈夫です。
苦肉の策で「堀川家の家庭事情」も盛り込みました。たまたまなのですが、あまりにもうまく行きすぎて、今回よりご都合主義感が強くなってしまいました。
堀川家の次女は香さん30歳 2児の母です。
香さん目線からスタートします。
我が家の末っ子長男はご多分にもれずシスコンである。
兄弟間の関係性についての本で「長女と一番下の男の子の相性が一番いい」というのを読んだことがあるが、あれは間違いない。
うちは仲良し3姉弟で、もちろん次女であるわたしとも仲は良い。
が、姉との相思相愛ぶりときたら、見ていてこちらが心配になるくらいだった。
姉弟と知らなければ仲良しカップルにしか見えないのだから。
弟は誠と言って3つ年下の27歳で、県外に就職して営業をしている。
お母さん本人が「誠は半分、千佳に育てられたようなもの」と言ってるくらいだ。
おかげで良識のある、フェミニストで誠実な好青年に育った。
さくらと会えば肉弾戦で全力で遊んでくれる、子供好き。
それなのに長らく彼女の影はない。
県外に行っているから知らないだけじゃないかと言われるが、あれはいない。
ちょっとガタイがよくて、どちらかというと愛嬌のある顔立ちだけど、彼女を作ろうと思えば作れるタイプだと思う。
家族の贔屓目を抜きにしても。
それなのになぜいないかと言うと━━だって、理想がお姉ちゃんなんだもん。
誠君、もう済んでるわ。
優しくて気遣い上手。
超がつくほどの常識人。
中学校の卒業文集で「いいお母さんになりそうですね」とクラスの男の子からメッセージを寄せられるような姉だ。
朗らかで清楚に見えるけど、下ネタにも対応可能。
下品になり過ぎない程度に上手く乗っかる術を持っている。
なかなかいないだろう。
誠君本人は否定するけど、あんな姉を長く見て来たらそりゃ女に求める条件が厳しくなるのは当然で。
帰省しても毎回必ず姉の所にご飯を食べに行き、泊まって帰る男だ。
一応連絡しておくか。
『お姉ちゃんに彼氏が出来た事をご報告申し上げます』
『マジで。いくつ?どんな人?』
『38歳の超絶イケメン。あの会社の元先輩だって。さくらは陥落済み。お母さんもにやにやしてた』
◆―――――――◆―――――――◆―――――――◆―――――――◆
もう家に来て、親にも会わせる仲なのか。
まぁ、千佳ちゃんももう32だしな。
『PCにわたしの秘蔵写真を送ってあげよう。しかと見るがいい』
見ないと面倒な事を言われるのは分かっている。
どうしてスマホに送って来ないのかと思いながらも、しぶしぶノートパソコンを開いて香ちゃんからのメールを確かめた。
ちーちゃんと一緒に映ってるラブラブ写真とかキッツイな。
身内のそんな写真なんて見たくないんだが。
クリックすれば━━
あぁ、かおちゃん、2枚も送って来なくていいって。
1枚目。
さくらとカワウソを見ている笑顔のイケメン。
は? これが38歳?
想像以上のハイスペックに、思わず画面に顔を寄せてしまった。
2枚目。
寝ているさくらを抱っこしている、穏やかな表情のイケメン。
ああ、うん。
写真コンクールとか、テレビの『微笑ましい写真』とかで出そうなくらい、いい写真だけど。
え? どういう状況?
ちーちゃん写ってないし。
『私が体調不良で寝込んだ時、二人が動物園連れてってくれた。ものすごくいい人だったよ。どうよ。このルックス。すごくない?』
付き合いがいいのか、ちーちゃんに言われて断れなかったか。
いや、でもちーちゃんはそんな無理言う人じゃないしな。
このイケメンがついて来たって言うのが正解か?
っていうか、この人、すげぇ楽しんでるよな。
『これで38で独身とか怪しいだろ。バツイチとか不倫とか大丈夫?』
『お母さんも言ってた(笑) あの会社で働き過ぎただけの、ちゃんとした独身みたいよ。お姉ちゃんが選んだんだから大丈夫でしょ』
あぁ、うん。
色々とものすごい説得力があるわ。
ちーちゃんは座右の銘が『自己責任』とか言う人だ。
ちゃんとした人を選ぶだろう。
小さい時はいつも3人姉弟のリーダーだった。
県外に進学した時、フェリーで帰省すればいつも港まで送迎してくれた。
就職活動中、『面接官を笑わせた者勝ちよ。似たり寄ったりの成績だったら一緒に働きたいと思う人を選ぶんだから』そう言って緊張をほぐしてくれた。
常識的で口やかましい事もあったけど、社会に出た時、ちーちゃんに教えられた色々な事に助けられ、本当に感謝した。
イケメンさんとは年齢は少し離れているかもしれないけど、そのくらいの落ち着いた人が一番合っているような気もする。
ちーちゃんは基本的に男を甘えさせてしまうタイプだと思うから、ちーちゃんが甘えられるような人ならいいんだけど。
でもって、ちーちゃんはなかなかコアな趣味の持ち主だから、そういうのを気にしない包容力のある人だとなお良い。
海岸の岩場に出来た潮だまりで喜々としてイソギンチャクに片っ端から指を突っ込み、素手で子供の拳サイズのカニを捕まえ、その後、真剣にアメフラシを探していたのは20代前半だったはず。
後でふと「イソギンチャクって毒あるんだっけ?」と調べていた。
アホだ。
ちーちゃんは頭はいいのに、時々恐ろしくアホだと思う。
高校ではトップクラスの成績を修め、その努力の甲斐あって地元でも人気の優良企業に就職した自慢の姉のはずなのに。
残念すぎる。
グループ交際かバーベキュー合コンなのか、なぜか男グループに女一人混じって火をおこしている写真を見たのもその頃だったと思う。
我が家の可愛いアホの子ちゃんは「着火剤を忘れて困ってたからつけてあげた」と言っていた。
田舎のばあちゃんちは昔、五右衛門風呂でよく姉弟で火遊びしたもんな。
火をおこすのもお手の物だよな。
ちーちゃん、そこは女子グループで食材をいじってるのが望ましいと思うぞ。
そんなちーちゃんは、見てる分にはすごく面白いんだけどさ。
もうそんな事言ってられる年じゃなくなってる。
あの頃もう少しちゃんと指導しておけば、もっと早く嫁に行っていたのかもしれない。
まぁ、確固たる自分を持っているちーちゃんには、言っても無駄だっただろうけど。
『親父もイケメンに会ったの?』
『まだ。でもこの間お姉ちゃんがちゃんと報告してた。お父さんはなんか意外と喜んでたよ。千佳はこんなにいい子なのにどうして彼氏が出来ないのか、って思ってたんだって』
ちーちゃんは確かにぱっと見は優良物件だけど、あとは男がついて行けるかどうかなんだよな。
親父はその辺知らないんだろうけど。
あれほど溺愛してたのに、娘が30代になると父親の反応もそんな物か。
まぁ、かおちゃんも結婚したし、何より今は可愛い孫娘が2人もいるしな。
親父の事だから、あわよくば男の子見たいとか思ってんだろうな。
親父は次男だし、うちは後継ぎ云々を言うような大層な家でもない。
俺が県外の企業に就職する事になった時も何も言われなかった。
母さんには今のご時世、就職して働くだけで万々歳と言われた。
ちーちゃんも揉める事はないだろう。
親父はよく言えばフリーダム。
辛辣に言えば酒癖が悪くて正直面倒な人間だった。
かおちゃんの結婚式で、感動的な『花嫁の手紙』の最中、酔っぱらって合いの手を入れるような人間だ。
あんたへの謝辞の途中だろうが。
ご列席の皆さんが微笑ましく受け取ってくれたのは幸いだったが、あの時ちーちゃんは恐ろしく冷徹な目で、視線だけで親父を黙らせた。
俺達姉弟をそれは大事にしてくれるちーちゃんだ、仕方ない。
あんなちーちゃんを見るのは後にも先にもないだろうと思う。
我が3姉弟がシビアなまでにペースを考えて飲むのは、父という反面教師がいたからだと思う。
人生分からないもので、営業となった今ではとても重宝しているが。
そんな親父もさすがに年を取り、酒量が減って落ち着いたと母が言っていた。
うちの家族はみんなちーちゃんの味方だ。
もし親父が理不尽な事で何かごねるような事態になれば、家族会議と言う名の壮絶説教タイムになるのは目に見えているが、どうやらその心配もなさそうだ。
『同棲はしないんだって。まぁ同棲するなら結婚しろって話だしね。時々おうちご飯してるみたいだけど、お姉ちゃんがご飯作ってる間に、バンテージ巻いてくれるんだってさ。あの人達シュール過ぎ』
かおちゃんのメールを二度見した。
うわぁ、ちーちゃん・・・
その人逃がしたら後ないわ。
すごい逸材を見つけたもんだ。
『イケメンgetおめでとう』
久々にちーちゃんにメールした。
ゴールデンウイークは帰省しないつもりだったけど、帰るか。
色々と愉快なネタが聞けそうだし、出来る事ならイケメンなお兄さんの口からも本心を聞いてみたい。
それから最近何かしでかしてないか、困っている事や、相談があれば乗ってさしあげたい。
今後ともぜひ姉をお願いしたいと思うので。
重度のシスコンだけど「ちーちゃんが幸せなのが一番」というタイプの健全シスコン君でした。
彼はたろさんに嫉妬はしないでしょう。
でも堀ちゃんと弟くんは人目をはばからずラブラブなので、たろさんはちょっとうらやましいかも。
ただ、弟くんも彼女が出来る日は遠いかもしれない。
千佳姉ちゃんに育てられただけあって、同じく「晩婚だけどいい人を見つけるタイプ」な気がします。
自分自身が他の方の作品を読んでいて、面白いのは主人公サイドで、回りの人物の話になるとちょっとテンションが落ちてしまうので、「これからは主人公達だけ書こう!」と思うのにやってしまいました。