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会社一のイケメン王子は立派な独身貴族になりました。(平成ver.)  作者: 志野まつこ
第2章 おまけのコーナー <その後の二人>
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4、バレンタイン家飲み <後>

「たろさん、ヤバいです」

 相変わらず美味しい堀ちゃんの手料理をいただいていると、突然そう断言される。


「ちょっと酔いました」


 堀ちゃんは照れたように笑った。

 ゆるんだ表情に、言われてみれば少しだけ目がとろんとしている、かな?

 2杯目のグラスがまだなみなみと残っている段階だった。


「そう言えば堀ちゃんが酔っぱらってるとこって見た事ないかも」

 飲むといつもよりかなり陽気になるのは知っているけど。


「自力で家に帰る、が飲み会に行く時のポリシーですから」

 ああ、なるほど。

 幹事肌で、精算時には酔いが一瞬で冷めると言っていた堀ちゃんだ。

 面倒見もいいし、無意識なんだろうけどセーブしてるんだろうな。


 堀ちゃんはふぅ、と息をつきながら両手でパタパタと顔をあおぎ、もう一度照れたように笑った。

「大丈夫?」

「あ、全然大丈夫です。ちょうど気持ちいいです。普段こんな事ないんですけど、家飲みだからですかねー」


 それは相手が俺だから、と思ってもいいのだろうか。

 俺だから甘えてくれてるのなら嬉しい。



 食後、ほろ酔いの堀ちゃんに片付けを買って出たところ、当然頷きはしなかった。

 くすくす笑って楽しそうな堀ちゃんと並んで洗い物をしていたが・・・うーん、座ってた方がいい気がする。

 皿とか滑り落としても危ないし。


「ほら、そろそろ堀ちゃんの大好きなニュースの時間だよ」

 そうコタツでテレビを見るよう促した。

 堀ちゃんは夕方のニュースが大好きだ。

 特にローカルニュースは都合のつく限り毎日チェックしているようだ。

 今日は土曜だから県内のイベントニュースなどがあったらいいんだけど。


 堀ちゃんは「二人でやった方が早いと思いまーす」とご陽気だ。

「ほーら」

 手が泡だらけなので、体を密着させるように押してもう一度促す。

「何か面白いネタあったら教えて」

 出来れば起きていてほしくて、そんな注文をつけた。

 まぁ、寝てしまったらそれはそれで可愛いとは思うけど。


「ではお言葉に甘えて行ってきます」

 素面しらふだったら絶対に応じなかっただろうな。


「新しい道の駅が出来るそうですよ」

「県のゆるキャラが動物園に行って動物にドン引きされてます」

「またどっかの政治家がいらん事言って大騒ぎになってます。任命責任とか、そんな事より他の事を協議して欲しいですよねぇ。その間の時間と税金がもったいない」


 どうやら堀ちゃんは、自分が気になったニュースをピックアップして実況してくれているようだ。

 そのうち立ち上がる気配があった。

 あぁ、コマーシャルか。


 こちらへ来たので何か飲むのかな、と思っていたら突然後ろから抱きつかれた。

 きゅうぅ、っと抱きついてくる彼女は新種の小動物みたいだった。

 それもとびきり可愛い系。


「堀ちゃん?」

「たろさんがさみしいかな、と思って」

 背後に尋ねれば、落ち着いた返事が返って来たのでそのまま洗剤を流す作業を続けたけど━━

 

 ……えと、堀ちゃんさみしかった、とか?

 

 やばい。顔がにやける。

 ニュースが始まると小動物はコタツへと戻って行った。

 思えば堀ちゃんからくっついてきたのは初めてな気がする。

 顔がゆるむのを感じながら、急いで洗い物を片付けた。


 一人暮らし用の正方形のコタツなので、いつもは角を挟んで斜め向かいに座るのだけど━━

「お片付け、ありがとうございました」

 片付けを終えてコタツの傍へ行けば、そう言いながら堀ちゃんは端へと座り直した。

 そして笑顔でリズムよく、トントンと天板を叩く。


 あ、今日はそこへ入れと。

 コタツの一辺に無理やり並んで座った。


 普段、隙が無いほどしっかり者の堀ちゃん。

 そんな彼女が柔らかい表情で、くったり俺にくっついて楽しそうにしている様子は、たまらない。


 今後は定期的に家飲みを開催しよう。

 


◆―――――――◆―――――――◆―――――――◆―――――――◆



 あぁ、昨日はとんだ失態を犯した。

 からみ癖も抱きつき癖も無かったハズなのに、からみ倒してしまった。

 まさかあれくらいでまわるとは。

 家に帰らなくていいという安心感かなぁ。

 うぅ、なかなかの醜態をさらしてしまった気がする。



 「バレンタインだから」、とわたしは保温式のお弁当箱をプレゼントしたいと相談した。

 ちょっと世間一般のプレゼント平均額よりは安いんだけど、こういうのにお金かけだしたら毎年悩む事になるし、なによりお返しが怖い。

 

 あの会社でこのタイプのお弁当箱を持って来る社員さんが多かったので、聞いてみたら「お弁当作ってくれるの?」とそれは嬉しそうにしてくれた。

 あ、期待させて申し訳ありませんが、前日のおかずプラスアルファの物しか作れませんよ?


 その後、ホワイトデーが近付いた頃に「何かリクエストある?」と聞いていただいた。

 相手に聞く。

 うん、やっぱこれが間違いないですよね。

 サプライズとか求めません。


 熟考させてもらった結果、今使っている物より大きめの鍋を買っていただいた。

 鍋とかどうなんだ、と我ながら自分にツッコんだけど、アクセサリーとかバッグは服に合わせるので使わない日もある。

 せっかくいただくのに、それはものすごく申し訳なく、またこちらも色々と気を遣うので。

 実用的で、長期に渡り頻繁に活用出来るのが決め手だった。


 さすがにリクエストする時は気が引けたけど、驚いた事にたろさんは「堀ちゃんらしいね」と快諾してくれた。

 へ? ホントに?

 思わず「ほんとにいいんですか」と聞き返したくらいだった。

 他にないか聞かれる覚悟はしていたんだけど……


 うわぁ、なんだろう、この受け入れられた感。

 思わず幸せを感じてしまった。

 しかも「どうせなら長く使える方がいいよね」と、ちょっといいやつを買ってもらっちゃいましたっ。


 でもって、サプライズは要らないとか思ってたんだけど━━赤いバラの花束もいただきましたっ。

 たろさんレベルのご容姿の男性が赤いバラの花束って、ドラマか映画かマンガですかっ!

 似合い過ぎて衝撃的でした。

 はにかむように笑った口元から八重歯が見えて、ギャップに悩殺されかけたんですけどっ。


 以前、スーパーの生花コーナーでミニバラを見てたのを覚えていてくれたんだと思う。

 ポット植え180円と破格で、すごく悩んだんだけど……なぜか鉢植えは必ず枯らせちゃうので断念した。

 そういう話もしたからだと思う。

 バラの花束なんてもらった事なかった。

 いい大人が思わず涙が出そうになって、慌てて取り繕った言葉が「これでおでんも出来ます、ありがとうございます」だったんだからもう、ほんと救いようがないとは思うんだけど━━


 たろさんは例の甘い顔で笑ってくれた。


 その表情、そんなに優しい目で見られると正視できませんから。

「じゃあ今度はおでん飲み会にしようか」

 そう言ったたろさんは本当に楽しみにしている様子だったので、わたしも自然と笑顔になった。

 え、しかもまた飲酒してもいいのですか?

 飲んで話すのは好きなのでものすごく嬉しい。

 次は酔っぱらわないよう気をつけますので。

 

「あ、ちなみに冬は鍋が多くなりますけど、後悔しないでくださいね」

 食材を切って入れるだけの鍋は、冬の救世主だと思う。

 確実に頻度が上がる事を予め宣言すれば。

「あー、鍋もいいね。冬って意外と飲む機会多いよね」と言われた。


 なるほど。

 一人暮らしだとシンプルに白菜と豚肉の鍋ばかりになってしまうから、たまにはカニとか豪華な鍋もいいなぁ。

 カニ。カニしゃぶしたい。

 とりあえずカセットコンロは実家に借りよう。

 外で食べるより確実に安いハズ。

 あぁ、顔がにやける。


 第2回はとりあえず「おでん飲み」が開催されたけど、やっぱり顔がほてって重度のほろ酔い状態に。

 うーん、年のせいかなぁ。

 まぁ、たろさんは優しく笑って相手をしてくれるからわたしは楽しいんだけど、わたしに後片付けをさせてくれないのがたいへん心苦しい。


「わたし、家飲みだと甘えちゃってダメダメですねぇ」

 正直に言ってみたら「俺は家で飲んでる堀ちゃんの方が好きだよ」と言われてしまった。


 くっ、この美形なお兄さんはまたナチュラルにそんな甘い言葉を吐いてっ。

 顔がっ、顔がますますほてるんですけどっ!





 次回、ついに堀川家の末っ子長男が動く━━━!

 この強敵にどうするたろさん。


 ━━━嘘です。

 先日までアカデミー賞が盛り上がる時期だったので言ってみたかっただけです。

 平和にのほほんです。

 ただし堀川家の下の子達の目線です。

 深くお詫び申し上げます。


※重度のほろ酔い・・・まぁまぁまわってる状態の事だと思われます。

 波平さんの影響でおでんイコール飲み、にしてみたけど我が家ではおでんの時は飲まないなぁ。



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