表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/32

13、3週目 日曜日 <小春日和の動物園>

 本当は車を出したいところだったが、この間タクシーで相乗りした時に降りたコンビニで拾ってもらう事になった。

『お迎えには行くんですけど、他の人を乗せるのが苦手で、緊張するので良ければ運転をお願いしたいです。勝手言ってすみません』

 謝らなくてもいいのに、律儀だなぁ。

 最後の一言は他人行儀感が半端なかったが。

 堀ちゃんの敬語はのんびりとした空気にさせてくれるから気に入っているけれど、時々ものすごく他人行儀に聞こえてしまう。

 特にメールは業務連絡かと思う時がある。


 堀ちゃんの車はクリーム色の軽自動車だった。


 姪御さんを乗せてから来ると言っていたが、それでは怯えてしまう気がする。

 先に合流して二人でお迎えに行くことを提案した。

『うちの実家ですよ?』

 堀ちゃんは電話の向こうでかなり驚いていた。

 それはそうだろうとは思うが、大事な孫と娘を預けるのだからご家族も相手の男が気になるだろうし。


 もし姪御さんが俺を見て嫌がれば、動物園は中止で、と堀ちゃんは言っていた。

 堀ちゃんの実家はまわりに田畑が点在する住宅街の一軒家で、会社からも近かった。

 そう言えば堀ちゃんは時々自転車通勤していた事を思い出す。

 着けばお母さんと妹さんも外に出られていたので「佐々木と言います」と名乗る事が出来た。

 さすが二人とも堀ちゃんと雰囲気が似ていて、思っていたほどは緊張しなかった。

 

 堀ちゃんは出掛ける支度を済ませた小さな女の子の前にしゃがみ込んだ。

さくらさーちゃん、今日はこのお兄さんが動物園連れて行ってくれるんだって。わたしちーちゃんと3人で行く? ママとばぁばはお留守番なんだ」

 目線を合わせるために堀ちゃんと並んで腰を落とすと、始めは俺を見て驚いていたさくらちゃんだったが、「行く」と言ってくれた。


 堀ちゃんは驚いた顔をし、さくらちゃんのお母さんは「やっぱり」と言うように笑いながら言った。

「すみません、ご迷惑をお掛けします。ごねたりしたらすぐ撤収していただいて構いませんので。さくら、ちーちゃんとお兄さんの言う事ちゃんと聞くのよ」

 

 38で「お兄さん」と呼ばれるのは何とも肩身が狭い。

 後部座席に載せたジュニアシートの横に堀ちゃんが乗った。

 そりゃそうか。

 これはこれで新鮮だ。



◆―――――――◆―――――――◆―――――――◆―――――――◆



 結論。

「たろさんに来てもらって本当に良かったです」

 うぅ、申し訳ない。

 動物園に行く途中、パン屋さんに寄った。

 ご機嫌でカメの形をしたメロンパンを食べたさくらだったが━━━なぜご飯が終わるとともに撃沈するのだ。

 食べながら寝るなんて、久し振りに見た。

 3歳はやっぱりまだまだお子ちゃまだったか!


 そしてこれは━━起きないパターンだ。

 やっぱり見知らぬ大人の男性と一緒だったから緊張しちゃったのかな。

 可愛そうなことしたかな。

 ここから歩いて駐車場までとか、わたし無理ですから!

 たろさん、ごめんなさい、本当にごめんなさい。

 小柄とはいえ熟睡した3歳児は重たいですよね。

 

「明日、たぶん腕上がりませんよ? 帰り、わたし運転しますね」

「甥っ子抱っこした事あるから、多分大丈夫」

 たろさんは柔らかく笑ってくれた。

 いや、でもこんな熟睡した3歳児を、日常的に抱っこしていない人が長距離歩くなんて考えただけでわたしの腕が痛い。


「女の子ってなんか……」

 たろさんが戸惑いがちに口を開いた。

「柔らかい、ですか? よく友達とかから男の子はがっしり固いけど、女の子は柔らかくて全然違うって聞くんですけど」

 うちは姪っ子しかいないから分からない。

「うん、こんなに違うもんなんだね。高田が娘を嫁にやらんって言う気持ちが初めて分かった」

 え、分かっちゃったんですか?

 うちの姪っ子ですけど、それ、変じゃないですか?

 そして高田兄さんは立派な娘ラヴパパになったんですね。


「さっきのぬいぐるみ抱っこしたまま寝るとか、もうたまらない」

 全長30cmほどの4足歩行スタイルのカワウソのぬいぐるみ。

 けっこうリアルで可愛い。

あーちゃんいもうとにお土産』と言われれば、そりゃ買ってあげたくなりますとも!

 生まれたばかりの妹にお土産とか言われたら、もう無理でしょ。

 さくら、優しすぎる。

 涙が出そうだよ。

 もし自分が欲しくて言っているのだとしても、そりゃ財布を出したくなるとも!

 だがしかし。

「ママからもうぬいぐるみ要らないって言われてるからなー」

 家にしこたまある、もらって一番困るものだとまで言われている。

 何か他の物で気を引こうとしたら━━


「妹思いのさくらちゃんに俺からプレゼントさせて? 今日の記念に。それならいいでしょ?」

 いや、たろさん、良くないです。

 さくらの入園料は無料だったが、大人二人の入園料とお昼まで出してもらってるのに。

「いえいえいえ」

 慌てて言ったが、たろさんはさくらの隣に腰を下ろして「カワウソ可愛かったもんねぇ。これはあーちゃんの? さくらちゃんの分は要らないの?」と盛り上がっていた。


 大家族でくっついて団子状態になっているカワウソさん。

 日向ぼっこを楽しむカピバラさん一家。

 幸せの象徴すぎる。

 これぞまさしく癒し。


 たろさんは念願のカワウソとカピバラをさくらと堪能していた。

 太陽が温かかったので、「カピバラさんが温泉で打たせ湯」の光景は見られなかったのは残念だけど、温泉に入るより日光の方が温かいのだから仕方ない。

 たろさんも「そりゃそうだよなぁ」と笑っていた。

 田舎なので動物園のニューフェイスや、出産情報がローカルニュースで定期的に知らされるためか、たろさんは意外と詳しかった。

 妙にさくらと盛り上がっている。

 たろさん、意外すぎます。

 そしてこの盛り上がり様は━━だ、だめだ。

 これは止められないパターンだ。

 そして結局、カワウソが2匹になった。


 そのうち姉妹で同じものがないとケンカする時期が来る。

 自分達がそうだったかは覚えていないが、母はそう言うし、子供がいる友達の所に行ってもそうなので、そんな物なんだろうなと思う。

 その時にカワウソ2匹が大活躍するといいな。

 たろさんの肩に頭を乗せて眠るさくらの寝顔を見て、思わず顔が緩む。

 

 それにしても、小さい子を抱っこする男の人の手ってなんでこんなにセクシーなんだろう━━





 


※当初、カピバラさんの温泉風景を楽しめたという記述でしたが、たまたま動物園に行った際、「2月の小春日和の日はお風呂に入らない」という事が判明しまして書き直してみました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ