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短編小説

古典風新作落語『甚だしい(はなはだしい)』

♪~チャカチャンチャンチャンチャカチャン~♪


 えー、どうも。マズいですね、こりゃ。世界的にキナ臭くなってきましたよ~。ここんところテレビをポチッとつけてニュースなんぞをボケーと見ているってーと

おやおや、第三次世界大戦がおっぱじまるんじゃねーか、これは大惨事だ、なんてくだらねーことを妄想しちまいます。

 もし日本が参戦して徴兵なんてえ恐ろしい案が国会を通っちまってアタシのとこに赤紙なんぞが来たらね、アタシはそいつでもってね、鼻をかんでやりますよ。チーン、チーンってね。おいおい、誰だい? 「それはご焼香のお(リン)の音か」なんていうやつは。縁起でもねえw


 コンコン。コンコン。

「ジェームス、おいジェームス。なんだよ、こいつは。頭を小突いても気にもしやがらねえ」

 コンコン。コンコン。

「オー、親方、ワタシの頭は木魚じゃアリマセン」

「そんなに上等なもんかよ。いや、頭の付いてる位置ばかりは上等だな、おい。でけえ図体でボケっとしやがって」

「オー、スミマセン。ボンヤリしてました」

「ボンヤリが(はなは)だしいな、おい。あーあー、柱にそんなに釘を打っちまってどうする気だ」

「ネズミが柱をのぼりやすいデス」

「人様の家を建ててるってえのにネズミのことを考えるなんざ呆れた野郎だね」

「ネズミがワタシに感謝して恩返しするはずデス」

「ますます呆れた野郎だね。同じ長屋の三軒隣に越して来たオメエの面倒を見てやってる俺に、まずオメエが恩返しをするべきじゃねーのか、おい」

「オー、三軒も隣なら他人です」

「うるさいね、まったく。大工の腕前はちっとも上達しやがらねえのに、口は減らねーな。甚だしいな、まったく。あーあー、(ヒノキ)の良いのを駄目にしちまって」

「ヒノキって何デスカ? ピノキオの仲間デスカ?」

「そんなことも知らねえでやってたのか。檜ってのはこの柱に使ってる木のことだ。ピノキオってのは何だ?」

「オー、親方、そんなコトもシラネエでやってやがったノカ?」

「口が悪いな、オメエは。あー、いい、いい、こっちがピノキオを知らねえことは確かだ。それで何だ? ピノキオってのは」

「ウソをつくと鼻が伸びマス」

「オメエもずいぶん嘘をついてんな。鼻がバカ高いじゃねーか」

「オー、親方、外国人はもともと鼻が高いのデス。親方の鼻はペチャンコ」

「減らない口だね。甚だしいな」

「甚だしいは、だめデスか?」

「あー、ダメだダメだ。もうそこはいいから、オメエはあっちでカンナ掛けて来い」

「それ以上カンナ掛けたら親方の鼻が無くなりマス」

「あっちの材木に掛けるんだよ。ついでにオメエの口にもカンナ掛けて来い」

「いやデス」

 と、そこへ大工のうちの一人がやって来て親方に言った…。

「親方、釘が足りねえようです」

「そうか。ジェームス、オメエ、ひとっ走りして釘を買ってきな」

「いやデス。もうすぐ雨になりそうデス」

「おお、おお、黒い雲だな……じゃねー。イヤじゃねーんだ、お使いは一番下っ端のオメエが行くんだよ」

「オー、はい。分かりマスた。親方、一緒に行きマシょう」

「なんでだよ。あー、もうしょうがねえ。行くぞ行くぞ」

と、まあ、口の減らないジェームスと振り回される親方ですが…。


 その日の夜になりますってえと、ジェームスの言った通りに雨が降り出した。次第に大粒の雨になって、ごおごおと風が吹き荒れる。一時ばかし経つと、ひどい嵐になりまして。

「いや、こりゃ、ひどい雨風だ。作りかけの家がぶっ飛んで行っちまわねーか心配だ。ちょいとジェームスと行って見てくる」

親方がおかみさんに一言いってオモテへ出るってえと、目の前に破れた提灯(チョウチン)やら板戸なんかが飛んでくる。

「危ねえな、おい。頭に当たったりしたら大変だ」

 そんなことを言いながら三軒隣のジェームスの戸を叩く親方。トントン。トントン。

「返事がねーな、あの野郎。もう寝てるんじゃねえだろうな」

 親方が戸をガラガラーっと開けますとジェームスは大きなイビキをかいて寝ている。

「おうおう、ジェームス。起きろ」

 ジェームスをこう強く親方が揺するってえと、ようやく目を覚ましまして…。

「……オー、親方……夜這いデスか? 心の準備ガまだ……」

「んな訳あるかよ。気持ちわりいな。起きろ。オメエは自分の建ててる家が心配じゃねーのか」

「……オー、ワタシ、家なんて建ててマセん」

「そうかも知れねーな。オメエは何にもしていねえ……。いいや、作ってるんだよ、この野郎。まったく…」

「作ってるとシテ、何デスか?」

「いいから、起きろ。こんな嵐だってのによく寝てられるな。いいか、建て掛けの家が飛ばされちまわねえように見に行くんだよ。いいから、さっさと来い」

「オー、後から行きマス。先に親方が行っとけ」

「甚だしいね、おい」

 何だかんだで、ぐずっておりますジェームスを親方が叩き起こしまして、ようやくオモテへ出て、嵐の中を並んで歩き始めるってえと、風で、いろんなものが飛んでくる。それに当たらねえように気を付けながら、建てかけの家へ着いてみますと、大工の連中が皆、集まっている。こいつは感心だと親方が思っているってえと、大工の連中は

ジェームスを見るなり大笑いを始めた。何だろうってんで親方もジェームスの顔を見上げますと、風で飛んで来たんでしょう、その高い鼻にベッタリと子供の草履(ぞうり)を引っ付けている。だもんだから皆にバカにされたジェームス。

「ジェームスよぉ、草履(ぞうり)がオメエの高い鼻に引っ掛かってるぞ」

 だけれどジェームス、相も変わらず口は減らない。

「オー、親方がダメだと言ったから、親方の言い付け通りに鼻にゾウリを履いて来マスた」

「俺が? 何て言ったって?」


「ハナ、ハダシーは、ダメだ」


♪~チャカチャンチャンチャンチャカチャン~♪






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