未来人からのメール
君は今、このメールを読んでいる。
君が今、どこにいて何をしているか、ぼくは知らない。だが間違いなく、これはぼくから君宛に送信されたメールなのだ。
まず自己紹介しよう。ぼくは君がいる時間を基準にすると未来人ということになる。
二十四世紀がぼくがいる世界だ。
この時代には時間を移動する技術が確立されている。だから三百年前の時代にいる君にもメールを通信できるのだ。
厳密に言えば、君のいる時代にもすでに旧式の時間移動装置は開発されている。ただ各国政府が最高軍事機密として、一般庶民にその存在自体を隠している。
もっとも君の時代のタイムマシンはぼくの時代のそれにくらべれば、そろばんとコンピュータくらいの差があり、とてもタイムマシンと呼べる代物ではない。だが一応、物質の簡単な時間移動は可能だ。
ぼくがいる時代は、世界中の政府が壊滅し、無法状態に近い。国という概念さえないかもしれない。それというのも歴史改竄者と呼ばれる無数のテロリストたちが出現したからだ。
彼らはタイムマシンを悪用して過去の歴史を変える。自分たちが政権を乗っ取るのだ。タイムマシンは開発当初からその利用について、各国の政府が厳重に規制した。ところが彼らは過去を書き換え、その規制自体をなかったことにする。
タイムハッカーは当初、右翼や左翼の集団だったが、そのうちに個人のタイムハッカーが現れた。パーソナル・タイムマシンと呼ばれる個人向け低価格タイムマシンが普及するにつれ、こうした現象が起きた。
歴史を書き換え、皇帝になる者、国王になる者、大統領になる者、宗教の法王になる者・・・・。政府はタイムハッカーたちを厳しく取り締まったが、そのうちに誰がテロリストで誰が政府なのか曖昧になってきた。
何度も歴史が改竄されるに従い、どの歴史が正統でどの歴史が偽物なのか、わからなくなってきたのだ。
歴史学者たちはぼくたちの時代を歴史崩壊期と呼んでいる。
実は君が住んでいる国は本当は日本ではない。朝鮮半島と日本の領土を一つにしたファーイースト共和国という独立国家が、君の住んでいる場所にあったはずなのだ。
いや、本当のことを言おう。君はファーイースト共和国の初代大統領なのだ。
ところがタイムハッカーたちが歴史を書き換えた。
そろそろ君もぼくが君にメールを送信した目的がわかってきたのではないだろうか。
ぼくの仲間の一人が君の時代にタイムリープしている。君は彼／彼女に会い、そこで詳しい情報を得るだろう。君はもう一度、君のいる時代にファーイースト共和国を建国するのだ。そしてもう一度、大統領に就任してほしい。そのためのプロジェクトがすでに始動している。
是非、このメールを返信して、君の情報を送ってほしい。君の住所、電話番号、携帯電話またはスマホの番号、そして君の名前だ。実は、君の時代における君の名前をぼくは知らない。後日、ぼくらのエージェントである彼／彼女から連絡が来るだろう。彼／彼女の名前と性別は、このメールではある理由から明かせない。エージェントがすべてを教えてくれるだろう。
なお、ぼくらが敵対しているグループのタイムハッカーも、君の時代に多数、タイムリープしている。特に草間秀勝という男に注意してほしい。彼は君の暗殺を企むタイムハッカーだ。
最後にぼくの正体を明らかにしておこう。ぼくは君自身だ。こう書くと君は混乱するかもしれない。しかし、ぼくは君なのだ。厳密に言えば、君がぼくの時代にタイムリープしたときに、まだ何も知らない二十一世紀の自分自身に向けて送信したメール。それが今、君が読んでいるメールなのだ。
今の君にはよくわからないかもしれない。詳しい情報はエージェントから聞いてほしい。
健闘を祈る。
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株式会社ブロークンエラ
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草間秀勝
