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記憶喪失の男

 気がつくとあなたは病院のベットに寝かされていた。

「気がつきましたか」

 看護師の若い女性がやさしく声をかける。

「ここは・・・」あなたは周囲を見回す。「どこですか?」

「T病院です。あなたはトラックに跳ねられて意識を失いましたが、奇跡的に怪我は軽傷で済みました」

「T病院ってどこの病院ですか。それに私は誰なんですか?」

「えっ?記憶がないんですか?」

 あなたは上半身を起こす。体の節々が痛い。手足に包帯が巻いてある。

「ご自分の名前、わかります」看護師が訊く。「覚えてないですか」

 あなたは自分の名前を思い出そうとする。だがひどい頭痛がして頭を押さえる。

 あなた自分の名前を覚えていない。そればかりか、今、ベットで意識を取り戻す前の記憶が何もない。

 あなたが何も答えない様子なので、看護師は医師を呼びに行った。

 大部屋の病室にはベットが四床あり、患者は自分を含めて三人、空いているベットは一床だけだった。

 あなたは衝動的にベットから起き上がる。体に激痛が走ったが、どうにか歩くことはできた。

 あなたは病室を出る。階段を下り、病院の入口から外へ出るとき、守衛に呼び止められるが、思わず駆け逃げる。走れるとは思わなかった。

「待ちなさい」

 守衛の声が背後で聞こえる。だがあなたは路地に入り、曲がり角を何度も曲がる。こうすれば、追っ手につかまらないだろう。瞬時にそう思ったからだ。

 どれだけ走ったかわからない。あたりはもう薄暗かった。

 大通りに出る。

 信号は赤だったが、あなたは横断しようとする。

 トラックのクラクションが背後に響く。

 体全身が宙に浮かび上がる。

 そのとき、あなたは過去を思い出す。

 あなたは別の病院に”ある病気”で入院していた。ところが病院を抜け出して半日ほど彷徨したところ、交通事故にあって意識を失った。

 あなたが患っていた”ある病気”とは、記憶喪失症・・・・。


「気がつきましたか」

 看護師の声がする。

 あなたは病院のベットに寝かされている。

 あなたには一切の記憶がない。自分が誰なのか。自分の名前は何なのか。これまで何をしてきたのか。

 だが以前にもこんなところでこんなことをしてきたような既視感が、名状しがたい妙な郷愁を醸し出している。

「看護師さん。教えてください」あなたが言う。「私は一体、誰なんですか?」

 


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