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蜜蜂男爵の館  作者: カキヒト・シラズ


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SNS『世界人民革命』

 取調室では、銀縁の眼鏡をかけた三十過ぎの男が少しうつむいた姿勢でしゃべり始める。

 薄暗い部屋だった。

 警部の田沼信介はテーブルを挟んで青年の向かいに座り、煙草をくゆらしている。


     **********


 そうです。私がSNS『世界人民革命』の管理人です。

 厳密には英語サイト『World People Revolution』の方がメインで、日本語サイトはサブですが。どちらの管理人も私です。

 ドローンを飛ばした犯人も私です。 

 ドローンは首相官邸の他にも、皇居や国会議事堂の上空にも飛ばしました。

 また司法関係では最高裁、東京高等裁、東京地検。さらには地上波キー局と大手広告代理店ビル。

 外国関係では、米国、英国、イスラエルの各大使館。日米合同委員会が開催されるホテル。そして朝鮮総連。

 この他、カルト宗教団体の関連施設や大手経済団体のビルにもドローンを飛ばしました。

 脈略がないように思えるかも知れませんが、ドローンを飛ばしたのはいずれも日本の権力中枢に関係ある組織ばかりです。

 ドローンからは、いずれも人工ウイルスを散布しました。

 なぜウイルスを散布したのか。

 それをお話する前に、まずSNS『世界人民革命』について順を追って説明します。


 私が『世界人民革命』を立ち上げたのが三年ほど前でしょうか。

 当時、私の生活収入源は主に人材派遣会社のバイトだったのですが、立ち上げ当初からアクセス数が高く、広告収入の他、サイトのロゴを作ってTシャツやキーホルダーを通販したら、結構収入になりました。立ち上げから半年後にバイトをすべてやめ、現在までサイトの管理だけで食べています。

 ところでウィキリークスをご存じでしょうか。世界の国家機密、軍事機密を次々に内部告発で暴露するサイトです。

 ネットサーフィンすると、ウィキリークス以外にも陰謀論者といわれるジャーナリストのブログやサイトが、世界中にたくさんあることに気づきます。

 彼らの主張は細かい点で異なりますが、大まかに共通項があります。

 この地球はわずか一パーセントのエリートが支配していて、世界の富の半分を所有し、残りの九十九パーセントの人民を家畜のように支配しているというのです。

 彼らは世界中の政治家やマスコミ、中央銀行、大企業、宗教団体、マフィアを操り、情報操作で人民を洗脳し、人口削減と自分たちの体制維持の目的で、ときどき戦争を起こします。

 彼らはまた地震や津波、台風、洪水、竜巻など気象を自由にコントロールできる技術を密かに持っていて、人民を大量殺戮します。

 民主主義とは名ばかりで、世界中の多くの国で選挙の度に不正選挙工作をしては、自分たちの傀儡を政治家に当選させます。市民団体が行政訴訟を起こしても無駄です。裁判官が彼らに買収されているのです。

 さて、私が主宰する『世界人民革命』の話に戻しましょう。これは、従来の陰謀論者のサイトを一歩進化させたものです。すなわち、国家機密を暴露するだけでなく、われわれ九十九パーセントの人民が一パーセントのエリートから地球を奪取する方法について知恵を出し合うサイトなのです。

 実はこの一パーセントのエリートというのはその国のマイノリティーなのです。

 たとえば米国を実質的に支配しているのは隠れユダヤ人です。多くの米国民はワスプ、つまりアングロサクソンがこの国を支配していると思い込んでいますが、政界、財界、マスコミなどの主要ポストはすべてユダヤ人に独占されています。同じ白人なので見た目では区別がつきませんが、これを逆手にとって大衆には気づかれないようにユダヤ人がこっそり支配しているのです。

 ヨーロッパも同様にユダヤ人が支配しています。

 では日本はどうでしょうか。実は日本は在日朝鮮人が支配しています。見た目には両者は区別がつきません。芸能界、スポーツ界のスターの多くが在日の人たちであることはご存じかと思います。ところが政治、経済、マスコミの分野でも彼らが日本を独占的に支配しているのです。

 この他、私が知っているかぎりでは、中国では客家人、イラクではクルド人が、中国やイラクを支配しています。

 隠れマイノリティーが国を支配するのは社会学または文化人類学の法則のようです。

 こうした世界中の支配層マイノリティーは、ユダヤ人を中心に国際麻薬シンジケートを通じて裏でつながっているのです。

 『世界人民革命』では、ある日、登録ユーザーから、こうした支配層マイノリティーだけが感染する病原菌を人工的に作り、彼らを抹殺すべきだという書込みがありました。サイトのBBSがたちまち炎上したのは言うまでもありません。

 賛否両論がありましたが、反対派の意見は、すべての在米ユダヤ人、在日朝鮮人が支配層ではなく、また悪者とは限らないといったものでした。ただサイト全体では彼らの意見は少数派、つまり文字通り、マイノリティーだったのです。

 

 さて、『世界人民革命』には世界中からバイオテクノロジーに詳しい人たちがアクセスし、コミュニティーが作られました。

 最新のバイオテクノロジーを駆使すれば、特定のDNA保有者だけに感染するウイルスが作れることをご存じですか。マイクロアレイスキャナや質量分析計でゲノムを解析し、DNAシーケンサーで新たな人工ゲノムを作成するのです。

 こうしてたとえばユダヤ人だけに感染し、他の米国人に感染しないウイルスや、朝鮮人だけに感染し、日本人に感染しないウイルスが作れるはずでした。

 ところが研究が進むにつれ、人種という概念が生物学的には曖昧であることがわかってきたのです。

 たとえば私たちは白人、黒人、黄色人種の違いは見た目でわかります。また東南アジアの人は私たち日本人より肌が浅黒いのですぐ区別がつきます。では中国人、朝鮮人、韓国人、台湾人、モンゴル人はどうでしょう。

 彼らは顔だけでは区別できません。一言しゃべった言葉が外国語だと、われわれは初めて彼らが日本人でないこと悟るのです。彼らのDNAは日本人に近いことが推定されます。

 一方、同じ日本人でも個人によってDNAに差異が認められます。また地域によっても差異があります。北海道や沖縄の人のDNAが本州の人のそれと違うのはともかく、同じ本州でも東北地方と関東地方、近畿地方、中国地方で、微妙な差異が観察できます。

 つまり日本人という概念は分子生物学的には無意味で、為政者が国民を支配する目的で、国民に連帯感を持たせるべく作り上げた共同幻想だったというわけです。

 日本は江戸時代以降にできた国で、それ以前は今の都道府県が藩という独立国家でした。今でも顔を見てその人の出身地を当てる人がいますが、江戸時代以前では地方ごとに顔つきがはっきり違っていました。特に人口の大半を占めていた小作人の場合、自分が生まれ育った場所で一生を送り、たいていの場合、彼らの配偶者も近隣出身者でした。

 彼らは日本より藩に自分のアイデンティティーがあったはずです。

 日本人が単一民族という考えは虚妄に過ぎません。

 ともかく分子生物学は人種の違いや国家の概念を曖昧にします。人種差別が無意味であることをアーサー・キング牧師以上に証明しているのです。

 さて、ここでわれわれが目指していた一パーセントの支配層だけが感染するウイルスの作成は、一度は頓挫したかに思えました。

 ところが彼らは人種ではなく、血族で構成されていたのです。

 ユダヤ人ではなく、ロスチャイルド家、ロックフェラー家など名門家の血縁が欧米を支配しています。また日本では江戸時代、現在の山口県田布施町に朝鮮人部落があり、そこの出身者の血族が日本の支配階層と見事に一致したのです。

 

 さて、コミュニティーでは早速、ウイルスの開発が再開されました。

 支配者層のDNAを入手するのは簡単でした。

 彼らが通う病院の患者データを保存してあるサーバーをハッキングすれば、彼らのDNA情報を得られることがあります。また彼らに中には精子バンクに登録している者も多く、ここのサーバーにもDNA情報が落ちてました。

 いかなるサーバーにも侵入できるハッキングの名人が、サイトの登録ユーザーにはたくさんいました。

 さらには彼らのシークレットサービスの中にサイトの登録ユーザーがいて、彼らの髪の毛を盗み、コミュニティーに送付しました。

 二ヶ月前のことですが、ジョンというハンドルネームの米国人がついに支配者層だけが感染するウイルスを開発し、ドローンを使ってニューヨークの外交問題評議会(CFR)や連法準備制度(FRI)のビルにウイルスを散布した、とコミュニティーに書き込みました。感染するまで半年かかるとのことです。

 ジョンは開発したウイルスの製造法もコミュニティーに公開しました。つくば市在住のハンドルネーム、ミチオという人が、ウイルスを製造して冷凍宅配便で私の自宅まで送ってきました、ミチオは政府機関のバイオ関連の研究所に勤める科学者で、仕事の合間にこっそりウイルスを製造したとのことです。

 私はジョンにメールし、ドローンを使ったウイルスの散布法について詳しく教えてもらいました。

 後はご承知の通りです。

 今となっては私は逃げも隠れもしません。ただ私の胸ポケットには隠しカメラとマイクが装着され、スマホを使って、現在、この部屋の様子をネットでストリーミング配信しています。私を拷問したり、私に危害を加えれば、世界中の私の仲間が然るべき手段に訴えるでしょう。

 私は自分の行為をすべて正義だと確信して疑いません。


     **********


 テレビニュースでは、十代の少年が記者会見を開いていた。

 彼がドローンを皇居上空に飛ばした犯人ということになっていた。

 ニュースの解説者はドローンについて厳しい規制が必要だと繰り返し主張した。

「警部」村島が言った。「あの少年、いわゆるクライシスアクターですよ」 

 田沼は無言のまま煙草をくゆらした。

 夜の九時を回っていた。捜査一課の部屋にまだ詰めているのは田沼と部下の村島だけだった。

「芸能事務所か劇団に所属する子役の俳優です。やらせで犯人役を演じてるんです」

「やらせか・・・・」

 田沼は椅子に座ったまま大きく伸びをする。

 変な世の中になったものだ。でも自分が気づかなかっただけで、昔からそうだったのかも知れぬ。

 窓の外のネオンサインが煙草の煙越しに滑稽に揺れていた。




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