プロローグ
『蜜蜂男爵の館』へようこそ。
遠方よりはるばるお越しいただきまして、ありがとうございます。
お飲物や軽食などご用意してございますので、よろしければ地階ビュッフェへお立ち寄りください。
当館オーナー、蜜蜂男爵様は風変りな方でいらっしゃいまして、大変な人間嫌いでございます。一日中、書斎も籠ったまま、食事を届けたりする数人の召使以外、誰とも会わないで毎日過ごしていらっしゃいます。
私も長い間、こちらへ奉公させていただいておりますが、まだ一度も男爵様のお顔を拝見したことはございません。
そのようなお方ですから、古今東西の奇妙な物語を収集するという変った趣味をお持ちでございましても、不思議ではございますまい。
男爵様が収集しておりますのは、いずれも短い物語ばかり。お客様がたとえ読書嫌いでございましても、苦もなく読めるものばかりでございます。
これらの物語は、現実や常識を超越した未知なるワンダーランドへお客様を誘います。
申し忘れておりましたが、当館の通路はすべて迷路になってごさいます。一度、足を踏み入れたお客様は二度と生きて当館の外に出られない仕組みになっております。
ではごゆっくり、『蜜蜂男爵の館』をお楽しみください。
支配人 草間秀勝