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魔王選定  作者: 華宵 朔灼
第一章 幼少期・ガラム
6/113

01 お風呂と散髪

 第一章開始です

 最初だけ一人称です


 では第五話、始まります

今日馬たちがいつもよりそわそわしてるなー、と思ってたけど、どうやら馬車でエビュリーズにおじ様たちが行くらしい。

 久々に殴ったり蹴られたりすることがないんだとわかると、ふわふわした気分になる。確かメティはこの気持ちのことを「うれしい」と言っていた。でもこの「うれしい」という感情はいっぱいあるみたいでなかなか見分けるのが難しい。

 正門前がなんだが騒がしかったけど、教会の鐘が鳴ると馬車は町を出て行った。


 「なにしよう………」


 はっきり言って、私がこの屋敷で許されている行為は少ない。

 朝、馬たちの世話

 昼、裏の雑草取り

 夜、小屋に籠る

 それだけだ。


 「おう嬢ちゃん。迎えに来たぞー」


 厩舎の中で一頭だけ残った馬とじゃれていると、料理長のシーブが入ってきた。


 「………もういいの?」

 「おう。大抵のヤツはもう屋敷を出て行ったからな。暴力家政婦が使用人の離れで待ってるぞ」


 なぜだが知らないけど、この大きな声で快活に笑う料理長のシーブは、私の味方をしてくれる。おじ様たちは本当に残飯を食べさせろと命令しているのに、シーブはちゃんとした料理を食べさせてくれる。

 それがばれないようにわざわざ日よけを設置したりもしてるから、なにか私に利用価値があったのかもしれないけど。

 正直シーブが厨房の裏で直接対応してくれる前まで、一日二食をちゃんと食べることなんて無かった。草むしりの時に食べられる雑草を見つけては食んでいたのが少し懐かしい。


 「来ましたね、シン。さぁ、お風呂に入りますよ」

 「………おふろ、ヤダ」

 「はいはい、少しは身綺麗にしないと、あなたの小屋の藁に虫が湧きますよ」

 「………がんばる」


 藁には、藁に似せた母様の手記が埋まってる。

 虫が湧いたら母様の文字が読めなくなっちゃう。それだけはダメ。


 「全く。沐浴で良いから、少しは身を清めなさい」

 「ひつようない、なぐられるだけ」


 体を拭いたところで、汚れを洗い落としたところで、それを理由におじ様たちは殴ってくるだろうし、蹴ることも止めない。だったら汚くして、暴力を振るう気を削ぐ方がましでしょ?

 でも、そう言うと、メティは「悲しい」顔をする。

 なんだか涙を流しそうな顔。

 私のせいで涙なんて流さないで?


 「はい、服は脱いでゴミ箱に捨てましょうね」

 「まだきれる」

 「止めなさい、虫が」

 「捨てる」

 「はい、よくできました」


 暴力に耐えた長袖と長ズボン。

 いままで一緒に頑張ってくれてありがとう。


 「さむい」

 「―――風よ、温まれ。温風」


 裸になって入った風呂場は、凍えるような空気で出迎えてくれた。

 メティも一緒にお風呂に入るらしいけど、寒かったのか魔術を使って空気を温めてくれた。私が使う魔術だとやり過ぎちゃうから、その魔術を教えて欲しいって言ってるんだけど、なかなか教えてくれない。

 魔術を教えるほど、私には価値が無いのかもしれない。

 きっとメティは子供好きなんだろう。奴隷のみんなにも優しいみたいだし。


 「さ。目を瞑ってください。頭を洗いますよー」

 「うぅ」


 お風呂はあんまり好きじゃない。

 こすると沢山出て来る泡は好きだけど、なみなみと注がれた水の中に落されるのは好きじゃない。

 目を瞑って、メティにされるがまま頭を擦られる。

 暖かくて、眠くなる。


 「あ、ちょっ、こら、寝ない! 背筋をピーンと伸ばす!!」

 「ふわぃ」


 眠い。

 頭の後ろにふわふわの枕があるのがいけないんだ。


 「ほら、流しますからね」


 頭からお湯が流れ落ちる。

 いつもより頭が重い。

 そう言えば一週間に一度、使用人たちもお風呂に入るらしい。ここはメティ個人の風呂場だけど、使用人の屋敷の地下には大浴場が設置されているらしい。

 それができてから職場結婚が増えたんだとか。なんでだろうね?


 「今日は綺麗にして、シーブの家に泊まってください。たまには顔を出してあげると喜びますよ」


 シーブの奥さんは、一時期母様に勉強を教わっていた人。

 私の事を普通の子供みたいに扱って、心配してくれる人。

 確か今、お腹にシーブとの子供がいるんだよね。


 「………うん」


 私が行ったら、不幸せになったりしないかな? 大丈夫かな?


 「一応言っておきますね。子供は子供らしく遊んでいなさい。それに付きまとう問題の処理は大人の仕事です。難しいことは考えず、まずは体を動かしなさい」

 「………」

 「返事は?」

 「はい」


 そのままお湯に漬け込まれ、六〇まで数えて出た。

 逃げ足は負けないもんね。

 考えるより行動なんでしょ?


 「わぷ」

 「嬢ちゃん、レディなんだから裸で飛び出してくるなっての」


 浴槽から出て、脱衣所に出たところで大きなタオルにくるまれた。


 「じぶんでやる」

 「はいはい」


 とか言うくせに一向にタオルを放してくれない。

 そんなに子供じゃないもん。体拭くぐらいできるよ。


 「シノ、まだ………」

 「にげるがかち、だもん」

 「あっはっは、一本取られたなーメティ」


 メティも風呂場から出てきて、かけてあるタオルで体を拭く。

 一年くらい前まではそんあメティにシーブは引いていた見たいだけど、「あの暴力家政婦はきっと女捨ててるんだ、きっとそうなんだ」とか言って納得したみたい。


 「相変わらず邪魔そうな胸だな」

 「邪魔だけど、それなりに使えるのよ。視線を集めるとか」

 「あー確かにそれだけ大きけりゃ目線集まるわな」


 シーブの奥さんはメティと違って胸が無い。 

 メティと比べるのが間違ってるかも知れないけど。


 「さぁ、シノ。これが新しい服です」


 渡されたのはひざくらいまである長袖のワンピースに足にぴったりくるパンツ。

 チョットばかりおしゃれなその服はメティ原案のシーブ製作らしい。

 破けてない服であるだけで十分なのにな。

 もしかしたらおじ様は使用人のお金の使い方まで調べてるのかも。私にこんなにしてるのがばれたらきっと大変だもんね。


 「ありがと」


 手作りだからかぴったりしていて着心地がいい。

 肩から袖は黒い生地で、胸から下はチェック柄。真ん中に二つボタンが付いてて、クルット回るとフワッとスカートの端がめくれて面白い。

 履かせてくれたもこもこしてるブーツも履きやすいし歩きやすい。


 「ンじゃ、俺んち行くか」

 「ん」

 「シノ、行ってらっしゃい」

 「いってきます」


 多分いまちょっと「恥ずかしい」。

 行ってらっしゃいって言うことは、帰ってくるのを待ってるよってことだから。帰ってきたら、きっとお帰りなさいって言ってくれるから。


 ―――シノ、お帰り。今日は何してきたの?


 そう言ってくれる母様はもういないけど。

 シーブと手を繋ぎ、西の商業区にある家へと向かう。

 南の住宅街にあるこの屋敷からすると少し遠い。


 「あいつがなー、嬢ちゃんが来るのすっごい楽しみにしてるんだぞー。いつ連れて来るんだーってうるさくてな。思う存分可愛がられてくれ、頼むから」

 「ぜんしょする」

 「難しい言葉知ってるよなー、流石魔女の娘」

 「かあさまはもっとすごい」

 「そうだったな」


 母様は凄い。

 町の皆から慕われて頼られて、絶対に期待を裏切らなかった。

 貴族に殺されたって私を匿ってくれてた町の人が言ってたけど、きっと貴族様にも何かしらの事情があったのだと思う。だって、町の為と言ってもおかしくない生き方をしてきた母様が死ななければならない理由が私には分からないし。

 シーブは話が長いからこうやって考える時間が沢山ある。

 私から話すことも無い分、すっごく助かる。


 「お、その野菜いいヤツだな。3でどうだ?」


 商業区の道の両端には屋台や露店がいっぱい出てる。

 その中で見つけた野菜を売ってる露店の一つでシーブが立ち止った。立札がそれぞれの野菜の所についててそこに値段が描いてあるんだけど、シーブはそれを見ずに店番のおじさんに指を三本立てて話しかける。


 「おいおい、いくらお得意さんだからってそこまで値切るのはねーだろー?」

 「んー、じゃあ4」

 「殆ど変わってねぇじゃねえぇか! 6だ」

 「ならさーこっちも一緒に買うから10」

 「何言ってんだ、15だ」

 「ならこれも追加で、13」

 「バカ言うな20だ」

 「14」

 「こっちも生活かかってんだぞ? 18だ」

 「なら15」

 「あーもう分かったよ! 15でいい! もってけ泥棒!!」

 「ありがとよ! これからも宜しくな」

 「てんめぇ………こんな調子で売ってたら破産するわ!」


 シーブは懐の巾着から銅貨一枚と賤貨五枚を取り出し、野菜と交換する。

 そういえばよく母様が言ってた。切が悪いから数えにくいって。


 ―――賤貨一枚がだいたい百円でしょー? もっと細かく買いたいわ


 とか言ってた気がする。円ってお金の単位なんだろうけど、どこの数え方なんだろう?


 「偶に良い飯食わしてやってるだろー」

 「あれは偶にじゃなくて稀にって言うんだ! ほれ、行った行った」


 シーブの豪快な値切りに露店の周りには人だかりができてしまっている。

 とりあえず隣の籠屋で背負う形の大きい籠を選んでその中に野菜を入れてもらう。ギリギリ入りきって、重そうだと思うんだけど、シーブは軽々と籠を持って歩いて行く。そんな力を持ってるのがうらやましい。

 私はお金を持っていないけど、母様に算術と一緒にお金の数え方を教えてもらったことがある。

 賤貨十枚で銅貨一枚、銅貨五枚が大銅貨一枚、銅貨二十枚が銀貨一枚。

 母様が作った歌を歌いながら覚えた。小さい町で営業してたから銀貨を持ってくるようなお客様はなかなか見なかったけど。


 「うし、つい」

 「キャー! シノちゃんお帰りなさい!! 疲れた? 疲れてるわよね。中に入ってー! 髪切りましょー、もうみんなが目を放せなくなるぐらい綺麗な髪型にしてあげるわ! あら?お風呂入ってきたのね! この石鹸の香りは王都で人気の香りよー! メティが使ってるヤツかしら? すっごくいい香り! もーずっと抱きしめていたい!! あ、あなた。裏の井戸で水汲んで来て。私、シノちゃんの髪切るから」

 

 シーブの「着いた」、という発言は途中で遮られ、木製の扉が軋むぐらい大きな音があたりに響き、出てきたのは毛先がくるくるした女の人。

 町民向けの散髪屋を営んでいる、この話の終わりが見えない人こそ、シーブの奥さんのエイファさん。

 元修道女で、ある程度治癒術が扱えるけど、魔力保有量が少ないから治癒術師になるのをあきらめたって聞いた。


 「おま…………」

 「シノちゃん、ダメよ? 女の子なんだからもっと可愛くしなくちゃ! さーその地面につくかどうか怪しいぐらい伸びた髪をバサッと切るわよー!! んーショートがいいかしら? 短いのも似合うけど、長いのも似合っちゃうから長いのも捨てがたいわねー! 美少女ってなんでも似合うからホント楽しいわ!! シノちゃんの希望はあるかしら?」

 「まかせる」

 「まっかせて! 精一杯可愛くしてあげるわ! まずはバッサリ切っちゃうわねーそんなに長いといろんなところに絡まりそうだしね! じゃ、奥に座って待ってて頂戴! シノちゃん専用の髪切りバサミ持ってくるからおとなしく待ってるのよー?」


 嵐の元凶は裏手へと走り去る。


 「はぁ、ダメだ。俺はあのテンションについていけねぇ。おとなしく飯でも作るか」


 家に帰ってもやることと言えば調理。

 趣味が実益になったものにとっては最高な環境なのかも知れない。

 散髪屋の中はガランとしていて、客もいない。

 一番奥の椅子によじ登って腰を落ち着け、床に届かない足を遊ばせる。


 「楽しいか?」


 ひょこっと顔をだしたシーブが尋ねてくる。


 「たぶん」


 よくわからないけど、やめたいとは思わないから「楽しい」のかも知れない。

 目の前の大きな鏡に映る自分の姿が妙に汚れていなくて変な感じがする。桶の水面に映る顔と変わらないはずなのに、お風呂に入ったせいか、鏡のせいか、いつもより顔が強張ってない。

 そういえばこの鏡。

 商業都市ディルエバース発祥の工房品で、この国じゃある程度普及してる。母様も手鏡って言う掌ぐらいの大きさの鏡を持っていた。

 でも、この散髪屋見たいに全身を映せるぐらい大きな鏡は普通手に入らない。お金も当然かかるけど、まず手に入れるためにはそれなりの伝手がないといけない。そこは旦那が勤めてる家が家だけに一番苦労するはずの伝手づくりを省けたんだろうけど。


 「嬢ちゃん、今日の夕飯はどんなんがいい?」

 「あったかいの」


 なぜか苦笑された。

 シーブは頭を撫でてから出て行く。


 「ちょっと? 水は? 桶は? 井戸行ったの?」

 「はいはい、今行きますよ!」

 「もーシノちゃん待たせちゃダメなのよ? 私を待たせるのはもっとダメなのよ?」

 「わーったって。すぐ汲んでくるから!」


 そんな夫婦の会話が店の奥にある母屋から聞こえてくる。


 「シノちゃん、さあ切るわよ!」

 「それ、たちばさみ?」

 「違うわ、シノちゃん専用髪切りばさみよ」


 床に着きそうだった髪は、肩口から切り落とされ、床に切られた髪が広がる。


 「シノちゃんの髪って、魔力耐性高そうよね~」

 「たいせい?」

 「ん? 多分シノちゃん、保有魔力多いでしょ」

 「たぶん?」

 「そっか、まだ五歳だもんね。」


 肩口まで切られた髪をエイファは一か所にまとめ、今度は小さいはさみを持ってこっちに戻ってくる。


 「十歳になったらどのくらい保有魔力があるか教会で測るのよ。ほら、職業体験ってお母さんに聞かなかった? 十五歳で成人でしょ、十歳から十五歳までの五年間は職業体験って言って、ひとりひとりに適性のある職業に付けるのよ」

 「ひとりひとり?」

 「建前だけどね。ある程度なら、親が受け持っている仕事以外の体験ができるのよ。そんなことをしてるのはこの国ぐらいだけどね! さあどうかしら! 可愛くなったとは思わない?」


 喋りながらも休まず動き続けていた手が止まり、改めて鏡を見てみると、鏡の向こうから自分が見つめ返してきた。


 「うん、私完璧!」


 顔が見えるのが久しぶり。


 ―――シノ。女は顔が命よ………どんな時も笑顔だけは忘れちゃダメだからね?


 今じゃ笑顔なんて作るしかないけど。

 母様が居ないと、分からないよ。

 優しいんですよ、本当は。

 身を挺してでも守りたいけど、身を挺すとさらに被害が広がるから居なくなったら精一杯甘やかすと。

 やっと出てきた主人公シノちゃん!五歳の将来が楽しみな美幼女です。


 更新は明日だ!きっと


 【登場人物整理】

 シノ………主人公、五歳、エドワル家(分家)の居候

 メティオノーラ………エドワル家(分家)の家政婦長

 シーブ………エドワル家(分家)の料理長

 エイファ………ガラムで町人向けの散髪屋を営む、シーブの妻

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