05 執事の天使
まさかの投稿し忘れΣ(゜□゜;)
だいぶ前に書いてたのに、これだけ落としてた………
う そ だ ろ ( 愕 然 )
本当の五話です………
今日から、正確には教会が鳴らす正午の鐘の音と共に、現在仕えている旦那様一家と共に、旦那様の兄君の長女であられるクリュエル様のお誕生日会に向かうことになった。
一言で言ってしまおう、至極面倒臭い。
「旦那様、朝食の準備ができましたとのことで―――」
「うるさいっ黙れ執事風情がッ! 命令なぞされずとも食堂には勝手に行くわッ!!」
叫ぶなよ、豚。
唾が飛び散って不快になるだろーがよぉ。
焼いたらいい感じに油が染み出してきそうな肉体を動かしてくる様を見てると、豚がかわいそうになってくるぜ。
しかも命令なんてしてねーし。なんでお前に命令しなきゃなんねーんだ?
もしお前が俺の部下だったら即刻首、落してるところだぜ? あ、落す首無かったわ。削ぐには時間かかりそうだな。
「出過ぎた真似を。本日の御予定をまとめておきましたので、後でご覧になってください………執務室の机の上に置いておきます」
「お前が理解していればいいことだ。俺に直接関係ないことは持ってくるな」
そう言い残して、俺が仕えている屋敷の旦那様は食堂の方へと服を軋ませながら歩き去った。
俺は執務室に入り、さっき旦那様の手で床に投げつけられた資料を机の上に丁寧に置く。
「屑がっ」
お前が理解していれば良いだとぉ? 執事はお前の期限を取る為に尻尾振ってる奴隷商人でもねーし、なんでも言う事を聞いてくれるペットでもねーんだよ!
ああ、なんて有能で報われない俺。
言葉で説明しようとすれば、とりあえず暴言で始まり、周囲の物に当たり散らす。書類にして渡そうとすれば、お前が理解しておけば問題ないといい、目を通そうとすらしない。
まして「俺に関係ないこと」ってどういうことだよ?
俺がまとめた資料は、一枚目に今日から約三か月先の屋敷への帰還までの予定表で、二枚間からは詳細なスケジュール管理、それから一か月後にクリュエル様のお誕生日会でお会いになられるだろう貴族や、有力な若手実業家なんかをまとめたもの。
今回エビュリーズにある本邸を訪れるにあたって必要最低限な情報を詰め込んだ貴重な資料だぞ? 見もしないで無造作に投げやがって。
「ふぅ………」
毒づいて少しは晴れる。
壁にかかる時計に目をやると、そろそろ家政婦たち使用人の朝礼が終わる時間だ。いつも家政婦たちが朝礼に使っている部屋に行く。
「メティオノーラ、居るか?」
ノックをして開けた部屋には予想通り家政婦長のメティと奴隷たちが居た。
「メティ、本日よりこの家の管理を任せる。あの娘のことも頼むぞ」
「ええ、もちろん。安心して行ってきてください」
家政婦長。
彼女はこの屋敷に赴任する前、今の主人に仕える前からの付き合いだ。
なんて言ってもこの家政婦、本邸でみっちり仕込まれた近接格闘を熟す戦闘訓練を積んだ家政婦なのだ。
彼女に関して心配するとか、無駄な事だと俺は思う。
「心配すべきは彼女だな」
ここまで、執事長として主がどんな人であれ、育ててくれたエドワル家には感謝しているが、今の主について行きたいかと言われると、全くそう思えない。
屋敷が全焼しようと、その中で旦那様が火だるまになって悲鳴を上げていたとしても、俺は高らかに笑いながら………違うな、冷酷に微笑みながらそこらへんに落ちている紙屑のように片づけられる自信がある。
でも、それが彼女だったら話が違う。
この家に居候という扱いで滞在している彼女。しかし実態は、町の領主にも知られていない|生きているはずのない少女だ。
奴隷以下の扱いの彼女はいつ死んでもおかしくない。むしろ自害したとして、その結果が連想できない物はこの屋敷に居ないだろう。そして俺はそんな彼女をめちゃくちゃ可愛がってる。別に顔とかが原因なんじゃない。
あれは彼女が来たばかりの頃、俺たち使用人のほとんどは彼女を腫れ者扱いをしていた。暴力を振るわれるからにはそれなりの理由があるのだろうと理由をつけ、ただ主人の暴行を看過していた。その頃彼女の味方をしていたのは、多分メティだけだろう。
しかし、そんな考えが大きな間違いだった。
「次に会うのは三か月後だな………いい土産でもあればいいが」
彼女は主人に何をされようと懸命に働いた。
最初のうちは諦めて逃げ出すだろうと考えていた使用人のほとんどが見直した。
因みに逃げるか逃げないかで賭けて、メティがその全てを持って行ったのには皆呆れた。今となってはいい思い出でしかないが悔しかったなぁ………。
まぁ、それで俺は、今でもバカだったと思うが、旦那様に進言したのだ。あの娘を養女にしたらいかがでしょう? と。
理由はいろいろあった。なんと言っても、まだ幼いのにその頭には膨大な知識が詰め込まれているという事を知った、それが一番の決め手だった。その時の俺はいくら鈍な主人でも、利益を目の前にぶら下げられたら食いつくか思案するだろうと思っての事だった。しかし、俺はその直後体験する。
俺は旦那様の投げた酒瓶を頭で受け、あれよあれよと言う間に三階の執務室の窓から下に落ちていたのだ。
『クソッ………いてーな………』
霞む視界、動かし難い片腕を動かし額に手をやると、手が赤く染まったのが視界の端に写る。躰は異常に冷たく、漠然的に「ああ、死ぬんだな」っていう感覚が伝わってきた。
そんな時に彼女が現れた。
『いきたい?』
『………ったりめーだろ………こんなとこで。死んで………たまるかよっ』
言葉にして、死ぬことを嫌っている自分に驚き、更に歪んだ視界に泣いているという事を強制的に理解した。
何度が目を瞬かせると、汚れた少女が立っていた。金茶の髪から覗く少女の瞳は青く澄んでいて、まるで空に見守られているみたいだと思った。
『のぞみにはこたえる、かあさまのおしえだから』
一瞬思ったのは、彼女は死神なのではないか、と。主人の暴行を看過した俺への罰が下ったのではないかと。でも、そんなことは無かった。その時起きた事で、俺の中で死神は天使になった。
『『“Sanguinem” monere apparet mutari mea. Hemostasis. Zochi. 』』
何を言ったのが、全く分から無かった。
しかし、そう少女が言った瞬間、体から何かが無くなっていくような感覚が無くなり、徐々に体に温かみが増してきた。手を動かせそうだと思って動かした瞬間に訪れた痛みに声にならない悲鳴を上げる。
『あ。『“Electricity” monere apparet mutari mea. Paralysis. 』これでだいじょうぶ? 』
痛みは和らいだが、まるで痺れてしまったのか体を動かすことも、喋ることさえできなくなってしまった。
何とかして少女に礼を言おうとするが、少女は俺からすこし距離を置く。
『すぐに、ひと、くるから、だいじょ、ぶ』
少女派息を荒げ、体を引きずるようにしてこの場を去って行った。
その後、三階から落ちたのに、片腕の骨折、肋骨の骨折とヒビ、その他もろもろで全治三か月と言われ、数日で治療院から出た。衝撃の落下で広がったはずの酒瓶でできた傷はいまではもうほとんど気にならないくらい修復され、家政婦長のとっさの判断でなされたコルセットと添え木のおかげで腕が変な方に固定されてしまうという事態は何とか回避することができた。
ってか、女ってあんなの腰に巻いてんだな。助かったけど、あんとき体が痺れてて本当に良かった。絶対普通の状態でやられてたら吐いてたか、それなりの状況に陥っていたはず。
今でもたまに治療院に行くと、その時治療してくれた神父が居るからよくからかわれる。血だらけでドレスを着た青年が運び込まれてびっくりしたよ、と。意識が朦朧としていたから仕方ないけど、後になって聞けば聞くほど消し去りたい過去でしかない。ちなみに痛みをこらえる為に唇を噛み切っていて、口の端に血が垂れてるわ、目の焦点が合ってないわで、神父さんは怪我の具合を見るべきか心の傷を考慮すべきかでかなり悩んだらしい。どうでもいいわ。
「さて、仕事しますか」
俺は公私混同しない男。
これでもかなり優秀なのだ。もちろん自称ではない。
乱雑に置かれた書類を分類分けしてまとめ、更に馬車の中に持って行くものと置いて行って旦那様の直属の部下に任せるものに分ける。
旦那様に関しては、税をごまかしたり、賄賂を使ったりしていないことだけが救いだ。エビュリーズで一、二位を争う商家の支店なだけあって、賄賂を渡してくるようなヤツが居ても、こっちから渡さなければならない状況に追い込まれるようなことが無いから助かっている………んだろうな。
「腹、減ったなぁ」
ふと窓の下で日よけが広がる。
きっと俺の天使が朝食を食べるのだろう。
俺は旦那様が飯の匂いを嫌がるから朝食を抜いているのだ。本当はメティと一緒にアルの作った飯が食いたい。最初に食う権利があるのに食わせないとか拷問でしかないと思うんだ、俺。
「あまってるといいなぁ………」
俺、思うんだ。
豚に餌をやるくらいなら、俺たちが食べた方が食物も嬉しいんじゃないかってさ。
そんなどうでもいいことは考えるだけ無駄だ、止めよう。
「土産、かぁ………」
首都に行くんだから、ここら辺じゃ手に入らない物がいい。しかも三か月も本家でお世話になるからには少しぐらい休暇が宛がわれる筈。その時にぱぱっと買って、持っていることがばれないようにしなければならないから、大きさはどんなに大きくても拳大が上限だろう。
小さい物………たしか首都のはずれにはまだ新しいけど成長途中の迷宮があったはず。迷宮があるなら、魔力貯蔵結晶なんかが丁度いいかな? 安いし、もし見つかっても記念に持ち帰ろうとしているくらいにしか見えないだろう。
魔結晶なら魔術が使える人しかその価値は分からないし、ネックレス………ブレスレット………は無理だからアンクレットかな。足首ならばれ難いし。
もし彼女がアクセサリーを付けているとか分かったら、絶対に折檻コースだし。………豚、解剖されないかな。人に化けてる魔物とかいう設定で。
なんであの兄君と、あんなに差が出てしまったのか、本当に不思議な豚だ………あ、旦那様だ。
過去使ってたUSBを見てたら発掘したこの話。
なんで落としたんだ………自分
おそばせながら、入れさせていただきました。
視点移動の激しいプロローグはこれで本当に終了です。