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魔王選定  作者: 華宵 朔灼
プロローグ
3/113

03 家政婦の思案

 投稿したはずなのに・・・

 おちるってこともあるんだ


 三話、始まります

 私たち使用人の朝は早い。

 主人よりも遅くまで仕事をし、主人が起きた時には完全に準備を終えておかなければならない使用人の仕事は私の天職だ。


 「はい、では今日の朝礼を始めます」


 私たちが仕えるのは、この町で一番の商家エドワル家。

 我が国、商業都市と呼ばれるディルエバースの首都、豪商の街エビュリーズで一、二位を争う商家、エドワル家が経営する店の、支店を任されている当主の弟が私たちの書類上の主です。

 正直に言ってしまえば、私の主となっている弟様は、酒飲みで、怠惰で、暴力にモノを言わせる最低で最悪な人間だと思います。私がそんな風に思っている事を知るのはこの屋敷で仕える数人の同僚と、エドワル本家に仕える同期のメイドだけです。そうそう喋れる内容でもありませんからね。


 「皆さん、おはようございます」

 「「おはようございます」」


 今や私はこの分家で家政婦長なんてものをやる始末。

 まだ若手に入ってもおかしくない年齢であるはずなのに、本家から派遣された身元がはっきりしている人間であることが後押しになってしまったのか、元の身分が貴族であるからせめてもの配慮というやつなのかはわかりませんが、はっきり言って迷惑です。配慮してくれるならもっと給料が欲しいですね。

 ま、弟様、いえ主様より人間出来ていると思いますよ? 心で豚野郎と罵っても、笑顔で対応する事なんて呼吸のようにできますもの。


 「本日、旦那様は奥様とご子息のカール様共々、エビュリーズの本家の方へと向かわれます」


 どうやら長男様、本家当主様の御息女の誕生日会が開かれるらしいんですの。

 長男様は弟様と違って使用人にも配慮ができる、お優しく芯の強い素敵な方なのですが、同じ腹から生まれたはずなのになぜこうも違ってくるんでしょうね? 

 奥様も少し病弱ですけど、可憐で優しく才のある賢母と言っても過言ではないお方です。大きな魔力を生まれつき持つ方で、水の系統が得意な奥様が開発した瞬間冷凍の技術はエルドワル家を支えています。

 お子様も男の子が二人に女の子が一人と、みなすくすく育っているご様子。お腹の中にもう一人出来たという話も聞きました。どうか両親に似た素敵な子に育って欲しいと願うばかりです。


 「同行するメイドは先日話した通りで変更はありません、それ以外はいつも通りの仕事を行いなさい、明日以降の役割分担は出発後に執事長のエヴァンスからお話があるでしょう」


 手を二度叩き、私は同僚たちの解散を促します。

 私の部下のほとんどは女性で、主な仕事は主人の生活環境の保全とでも言いましょうか。主人たちこの屋敷の支配階級の人を起しに行く者、着替えを用意しその着替えを手伝う者、こう言った主人に直接かかわるものから、調理場へと向かい食事の内容を把握する者、屋敷の掃除や主人たちが心地よく過ごせるように環境を整えることまで、多岐にわたります。

 そんな私の仕事は現場監督………と言えば聞こえはいいですけど、内容は主人が買われた奴隷の躾と、主人や他の使用人から寄せられる苦情の処理。本当、お給料、もう少し多く取ってもいいんじゃないかしら。


 「メティオノーラ、居るか?」

 「はい、居ますよ………どうしました?」

 「朝礼は………終わっているようだな」


 部屋に入って来たのは執事長のエヴァンス。まだ若いのに苦労を背負(しょ)い込むタイプの青年ですね。何度彼女に逃げられたんでしたっけ?

 それは置いておいて。

 彼の他には私と奴隷しかこの部屋にはいません。今奴隷に今日の仕事の予定と主人たちと絶対に顔を合わせない道筋の確認をしていたのですから。

 奴隷と言っても生活奴隷ですので、意識的に隷属されている者たちではありません。そういうこと(・・・・・・)の為に買われた奴隷ではありませんし、唯一残った商人らしさが働いたのか、懇意にしている奴隷商が優遇しているのか、比較的安い子供の奴隷を雑用として買われるので、気にすることと言えば主人たちと絶対に顔を合わせないように配慮するだけで済んでいるのが幸いです。

 公的に売買されている奴隷でも、特に生活奴隷に関してはかなり優良物件でしょう。教養や見目麗しくないだけで、一般の農民や町民が税を払えなくなって奴隷落ちしたのが生活奴隷ですし、口減らしや問題ありとして売られた子供だった場合は生活奴隷になることができませんからね。


 「メティ、本日よりこの家の管理を任せる。あの娘のことも頼むぞ」

 「ええ、もちろん。安心して行ってきてください」


 主人が出立したら、私と数人の使用人以外は休暇を取らせる算段です。本来であれば休暇の申請と共に休暇をとれるはずなのですが、そういう事を許可しない主人ですので、こういう機会にまとめて休暇を出さなければなりません。

 ま、休暇にかこつけて帰ってこないとかいう使用人も居ますが、そういう方には恐ろしい仕打ちが待っているので、年かさの者は絶対に帰ってくるでしょう。若い使用人については要注意ですが、別に帰ってこなくても困るのは向こうだけなので私はどうでもいいです。

 ああ、勿論奴隷はこの家からでることが許されていないので休暇なんてものはありません。使用人が働いた報酬として給料をもらうように、奴隷は働いた報酬に食事と寝床が与えられます。その待遇の差で差別や意識低下が起きたりするんですけど、ウチの奴隷に反旗を翻すような子はいません。

 なんたって、あの娘が居るんですから………。

 

 「あ、あの。メティオノーラ家政婦長」

 「はい?」


 話しかけてきたのは、今の所奴隷の中で一番年上でしっかりしている男の子。


 「今日の………仕事ですけど、魔女の娘と共に作業するのでしょうか?」


 厩舎の横の粗末な小屋で寝泊まりをしていて、主人だけでなく奥様や御子息からも定期的な暴行を受けている娘。

 奴隷たちは、この屋敷で働くと決まった場合、一番最初に彼女への暴行の様子を見せつけられることになっている。鞭打ちや焼きごてなど、もはや拷問と言ってもいいその主人たちによる所業の数々を見せつけられるのだ。

 あの娘が居なくなって一番困るのは、この屋敷で最下層の奴隷だろう。最下層であるがゆえに慰み者になるのは簡単に想像が付く。奴隷商と契約する際に不適当な暴力、過剰な暴行を禁止されているとは言え、死亡届が提出され、その場にいない人間にされたら何をされても文句は言えないのだ。

 ウチの奴隷が逆らわない一番の理由は、あの娘への暴行を散々見せられてきたからなのかも知れませんね。


 「そうですよ、何か問題が?」

 「………いえ」


 あの娘、と呼ぶのは使用人でもごくわずかで、直接会話をしたことがある者のみ。大抵の者は魔女の娘と呼ぶ。

 彼女の出自からそう呼ぶ者もいますが、あの暴力の中生きているという畏怖と尊敬をこめて下っ端の使用人と奴隷たちは呼んでいる気がします。


 「さぁ、働きましょう」


 あの娘が既に飼葉の交換も水の交換も、古い藁の除去も行ってくれている為やることはほとんどないのですが。やれることと言えば、古い藁を集めて厩舎の外へと運びだし、火をつけて燃やすくらいでしょうか。

 寒くなってきましたし、ファベルの根を焼くのもいいかもしれません。


 「………おはようございます」


 厩舎へと奴隷たちが入り、何処で燃やそうかと思案していると、隣の粗末な小屋からあの娘が出てきました。

 足を地面にするように歩いています。昨日の夜よって帰ってきた主人が妙に上機嫌だったのは暴行していたからなのでしょうか。もしそうであるならば、腹か背を殴られたか蹴られたか。お昼過ぎには主人も出立なさいますし………、薬を指し入れなければならないかもしれませんね。


 「ええ、おはよう」


 相変わらず靴も履かせていないなんて、主人とは言えど殴りたくなってしまいます。可愛らしい容姿をしているのに、何もしていないその姿は流石に涙を誘います。

 主人に本当に商才があれば、彼女を一般町民に登録させた後、赤の他人として養子縁組をし、養女に迎え、教育を施し他所へと嫁がせるハズです。なのにこの娘に与えているのは理不尽な暴力のみ。不毛です。

 吸い込まれそうな青い瞳、まっすぐに伸びる金茶の髪。身を清めそれなりの格好をさせれば貴族の子女にも見えることでしょう。

 本当にもったいない。


 「わたしに、なにかできることはありますか?」


 礼節も弁えていて、主人がいらないと仰れば養女にでもしたいくらいです。ええ、本当に。


 「調理場の裏へと周り、残飯でも食べていなさい」

 「はい………ありがとうございます」


 しかも俺を小声で言うと言う周りへの配慮。ああ、爪の垢を主人が飲んでひねくれた性格を治してくれたらよかったのに。え? もう飲ませましたよ。

 ゆっくりと屋敷の裏手へと歩んで行くあの娘。

 あの娘は主人の実家エドワルの血縁ではありません。

 主人の奥様の妹の忘れ形見、と言うのが使用人の知る彼女の来歴。

 奥様は元下級貴族です。その妹と言えば貴族になるのでしょうが、その妹君はここから三つ隣の町で細々と生活する薬屋を営んでいました。少々魔術に詳しく、薬を調合する片手間に魔力回復薬や体力回復薬なども良心的な値段で売っていた、町に愛された女性だったそうです。

 それが、ある貴族が召し抱えようとして彼女に打診したことから悲劇が始まります。

 男爵位を持つ貴族でしたが、彼女の容姿に惚れこみ、腕を買いたいと言うのは言い訳で、本音は妾として、いえ娼婦として雇うという算段だったようで、文字が読める妹君はその契約書を見て拒否します。

 妹君が拒否した理由も、慰み者になりたくない、という理由ではなく、町の人々に簡単に薬を渡せなくなることを忌避したのが理由だったそうです。

 町の住民も彼女の見方をし、立つ瀬が亡くなった貴族は町の住人を人質にして脅し、最終的に不敬罪として処刑されたそうです。


 「本当にお美しい方だったのでしょうね」


 初めてこの話を聞いたとき、まるで御伽噺でも聞いているような気分になりました。町では気高き白魔女と呼ばれて親しまれていたようです。

 あの娘の話に戻りますが、貴族から商人に奥様が嫁がれたことからも分かるように、奥様以外の親類は全員死んでいたらしく、唯一の肉親である奥様に親権が移り、今のような状況が形成されているのです。

 もし身元がはっきりしない普通の娘であれば、町人の誰かが親代わりになって育てたのでしょうが、家出をして薬屋を営んでいたとはいえ下級貴族であった実家のせいでここに送り込まれてしまったのは不幸としか言えませんね。

 母親の出自が仇となってここに来てからもう一年と半年になります。本用によく耐えられるものです。


 「さて、馬の誘導をしなければ」


 馬車の準備は庭師の男衆に任せてありますし、そこまで馬を引っ張って行けば、今日こなさなければならない大きな仕事はおしまいです。


 「皆さん、急ぎなさい。朝食を食べ損ねてしまいますよ」

 「はい!」


 奴隷(こども)たちは素直でよろしい。

 食事をとる順番は、上位の使用人、主人たち、下位の使用人、それ以下の者、と決まっていますから、調理場の者も早く食器を片づけて昼食の準備に取り掛からなければならなくなるため、ちんたら仕事をしていると食事が片づけられてしまいます。


 「メティオノーラ家政婦長、たき火の準備と馬の搬出、終わりました」

 「よろしい。良く手を洗い朝食になさい」

 「はい!………行くぞ、みんな」


 奴隷たちは仲がいい。

 決して少なくない人数だが、良く働くしいう事を聞いてくれる。どれもこれもあの娘のおかげなんだけど、本家の紹介じゃなく入ってくる普通の使用人には嫌われることが多い分、彼ら奴隷たちが素直なのは助かっている。

 嫌われても直接的に逆らうなんて真似はしてこない分苛立ちが増す。

 これでも戦闘訓練を積んだ家政婦ですから、直接向かって来られるならばいくらでもボコボコにしてあげられるのに………。

 今の主人であるこの屋敷の旦那様に命を賭して守る価値も、意志もないんで、戦闘訓練積んだ意味がイマイチ発揮できてないんですがね。


 「ままならないですね」


 少ないとはいえエルドワ家には恩がある。

 その恩さえなければかの娘を攫って、追ってくるならエルドワ家を潰してどこかへ行きたいんですけど。この国で商家に喧嘩を売ると、もれなくどの国に行っても売買ができないようにされてしまいますからね。

 ま、あの娘がこの町を出られる機会が訪れる事を祈っておきましょう。


 今回は家政婦長さんでしたー


 次話、明日投稿(予定)

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