09.9 昇格試験裏側 領主
どこで見たんだが、数十年後に氷河期が訪れるかもしれ無いと言う話を見てた時。突然後ろから
「これ。どうなんだろうかねー」
なんて声がかかってきて。
「ま、その頃には十分人生堪能してるだろうから僕は大丈夫だけど、君はどうするの?」
なんて声をかけられて、これは呆然としてちゃまずいと思い、
「どうですかねー、世論に沿うように生きてるかも知れませんねー」
なんて返したら、
「それじゃ駄目だって! まぁ、氷河期が来て、あったかくする為に人為的に地球温暖化起こそう! なんて言う科学者が現れないと良いんだけどねぇ」
と言って去っていく点滴をぶら下げたおじさまがいらっしゃいました。
うん、いつから見てたんだろうね?(in病院)
さて、本編始めましょう!
領主何て言う仕事で仕様するのは、顔と名前と署名ぐらいな物だ。それを所持するのが領主本人でなければならないのは、王族への謁見であったり自らよりも上の爵位を持っている者と相見える場合であり、本人の力量が求められると言うよりも、周囲の、部下や領民の力量が求められることが多い。
確かに求心力を持っていなければ、全く成り立たない訳なのだが、その求心力こそ領主本人が持っていることの方が少ない。古くから家に使えている者でなければ、本当の領主について知ることだってないのだから当然だろうが。
もちろんそうでない領主もいる。
その筆頭が、ここルイーデの領主であったりする。
「はぁ……」
冒険者ギルドの二階にある応接間の一室に備え付けられている上等なソファーに深々と腰掛けた領主は自らの手を摩っていた。
男の手らしくゴツゴツしていて、剣だこと筆だこが同居している手を彼が摩れば、直ぐ後ろからしっとりと濡れた手巾が差し出される。
「どうぞ」
「ああ……」
迷わず受け取り手を拭けば、濡れて濃い青になっていたそれに黒っぽいシミが広がる。
領主はそれを顔を顰めてみるものの、拭き終わるとそのまま後ろに控える者に渡した。
受け取った者は手巾を広げピンと伸ばすように引っ張り、元あったように畳み懐にしまう。
しまう時には既に乾いていることから、大分魔術に長けた者なのだろう。しっとりと濡らす程度の水分を集めるのも、その水を全て取り払うのも、生活魔術と比較的簡単な部類に入る魔術だがそれでも無詠唱で行うには難易度の高い魔術である。ひとかどの魔術士であっても、生活魔術を扱う時は一言魔術名を呟くものだ。魔術師となればそうでないものも現れるが、大抵は詠唱破棄はしても無駄に力を消耗する無詠唱を選択しない。戦場だったら別かもしれないが、戦術級とも言われる魔術が無詠唱で扱える訳もなく、そんな自体になったら生活魔術を自らの魔力で補おうとはしないだろう。
「……」
部屋の中には、領主と側付きの二人のみ。
もともと多くは語らない領主は茶を優雅に飲み座り、側付きはその後ろでただ立っている。誰か他の者が訪れるまで、二人に目立った動きは無さそうだ。
さて。
いくつかある応接間の中でもここは高位の貴族を招く為の部屋なので、窓枠すら輝きを放っている。
シシラギヤ国民として華美過ぎると思う領主だが、ルイーデは未だ何かと難癖を付けてくる敵国との国境の街。いく段階品質が落ちるものの、形式はフロウェルに合わせている。
勿論その機能はフロウェルに合わせている訳もなく、窓枠には薄く削り取った魔石が埋め込まれており部屋の外からこの場所に攻撃が加わった際数回の攻撃に耐え得る性能を保持しているし、壁に描かれている冒険者ギルドの紀章はクズ魔石を砕いて作った顔料なので、有事の際魔力を通せば冒険者ギルド全体を補強してくれるようになっている。
実を言えば領主の館よりも冒険者ギルドの応接間の方が防御力の面で優れていたりもする。他にも色々な機能がある訳で。
ちょうど領主のカップに茶が無くなり、それを机に置こうとした時、唯一廊下と部屋を繋ぐ扉が開かれた。
「申し訳ない。遅れた遅れた」
杖を突きながら入ってきたギルド長と、その側に控える副ギルド長。
ギルド長が微笑んでいるのに対して、副ギルド長は無表情作ろうとして失敗したのか顔が少々引きつっている。
ゆったりとソファーに腰掛け、茶で喉を潤うしてからギルド長は口を開く。
「あんなに貸してくれるとは思わなかったから嬉しいよ」
「……ふん。冒険者ギルドが勝手に始めたことだが我ら領主一族も街を憂いている。あの手勢でどうにかなるのなか貸し与えると言いに来ただけだ」
「ふふふ……偉くなったの、小僧っ子。そういう事にしといてやるさ」
嬉しそうに微笑み皺ができるギルド長と対照的に、領主の顔には面倒臭そうに顔を顰めた為出来た皺が寄る。
いくつか事務的な会話をした後、これからの事を話し合い、領主としての援助内容を紙に纏めると副ギルド長は部屋を出て行った。
「そう言えば……」
「うん? なんだい⁇」
出て行って暫く、側付きに下階から茶の肴をくすねさせ茶を楽しんでいた領主が口を開く。
「夜のあの変動はなんだったんだ? 精霊の怒りでも買った奴が居たのか」
ルイーデの街に引きこもっていた者にもしっかりと見る事が出来た大爆発。
人間族には見えず妖精族にのみ見える精霊の起こす出来事は、気紛れらしいが普通の者には災害に他ならない。空に渦巻きが現れ、海に高波が現れ、大地は割れたり火を吹き出したりと忙しい。
見えない人間には、どれが自然災害で精霊の気紛れか判断がつかないのだ。
だから普段は変動呼び、自然災害ではないと精霊の怒りと例えられる。
妖精族に言わせると、怒りだけではないらしいが。
「いや。あれは冒険者が狙って起こした事だよ。少々被害がでかすぎたと反省はしていたようだったが」
「冒険者……一人か? クランでもなく、一個人がやってのけたと言うのか」
ギルド長の言葉から、複数人で行ったわけではないと感じた領主であったが、一人で行ったと思うには流石に規模が大きすぎて信じられなかった。町中が見下ろせるようにある領主の館の物見台から一部始終を見ていた領主だったが、フロウフェルの旗が立っている山以外全ての山で爆発が起こり、中腹辺りからは例外なく煙が立ち、広がる森にも土煙が立ち込め、魔物の叫び声やら足音や悲鳴なども聞こえてきた。
冒険者ギルドの者が総力を挙げて事に取り組んでいると話を事前に話していなかったら、おそらく街は大混乱に見舞われただろう。
「……そいつは妖精族か?」
「いや。普通の冒険者さ……見た目は、ね」
「勧誘を」
「拒否する。私らは自由を愛する冒険者だ。一切話をする事もない、自分の力で解決しな」
「……そうか」
もともと無理だと言われると思っていた領主に落胆の色は出ない。
優秀な者が欲しいのはどの職場でも当然の事だ。
「フィル」
「何でしょうか」
領主の後ろに静かに佇んでいた側付きが声を上げる。
「今回の件、お前にもできそうか?」
大災害一歩手前の天変地異を意図的に起こせるか? と領主は問う。
側付き、フィルは少し考えるように黙り、口を開いた。
「時間をかけ準備を万全にすればあるいは。ただし、私の魔力が尽きるかと」
「そうか……ふむ」
普通はできない。
時間をかけ、魔術陣や魔石で補助したとしても、一個人でそうそうできることではない。天変地異を意図的に起こせる妖精族だとしても、あの規模を起こそうと思えば入念な準備と頭数の増加は避けられない。
「ダブルのお前でも出来ないか……」
「はい」
「なんだい。その子、ハーフじゃなくてダブルだったのかい?」
領主フィルの会話にギルド長が口を挟む。
混血の事をハーフと言う、一番広まっている言い方だが、混血によって外面的種族特徴以外の能力を有した場合、ダブルやトリプルなどと言う称号が領主または国から与えられる。
「ああ。こいつは俺が拾った……人間と妖精のダブルだ」
一礼するフィルに、ギルド長はたまげたとばかりにため息を零す。
聖戦において、多くの戦災孤児たちはハーフであった。まだ終わってそう時は経っていないが、両方の血を受け継ぎ片方の力も十全に扱えないハーフは聖戦を思い出させる負の象徴として身勝手にも蔑んで来た過去がある。蔑まれた者が普通の社会で生きていくには困難だ。伴侶を得るにしろハーフと言う言葉が付いて回る。獣人族は形に囚われる事なく血縁関係で家族として集落を形成しているが他の種族はそうもいかない。結果、ハーフだけの集落が出来てしまったのは必然だっただろう。そして秘匿されたその集落では、ある異常現象が起きた。主軸的特徴を兼ね備えた者が生まれ始めたのだ。ハーフ同士の間の子にそれが起こる事が多く、秘匿された社会とはいえ普通に周囲と関わりを持っていた彼らは狙われるようになってしまい隠れ里に住むようになってしまった。今現在、ダブルやトリプルでも無駄な争いを避ける為に自らをハーフと偽る者が増えている。
「俺のもんだ。手を出すなよ」
「……小僧っ子、不利になると思った途端睨んで脅そうとする癖は直せ。だから剣呑な領主なんて言われるんだぞ」
「…………」
ギルド長の言葉に黙って顔をしかめる領主。
仕方ないため息を零したギルド長は、フィルを真剣な目で見つめて口を開く。
「フィルとやら。辛くなったら愚痴ぐらいは聞いてやる。冒険者ギルドの門はいつでも開かれてるからな」
「私は現状に満足しておりますので」
「そうかい。ま、今はそれでいいけどね」
「婆ァ……」
「小僧、お前さんの末の愛娘に言うぞ」
「ぐっ……」
「相変わらず不器用なんだなぁ。彼奴に似てもう少し器用に接してやればいいものを」
ギルド長は、領主が幼い頃から知っている。
その時は領主一族のお抱えの冒険者であったが。
「母上に育てられてこうなったんだ」
「人のせいにするな、と言いたいところだが……彼奴は正義を反論にするからなぁ」
幼馴染として育った、現領主の母を思い出して苦笑いを顔に浮かべる。
正義感に溢れ、子を得た時にも立派な領主に育てると息巻いていた彼女の唯一の欠点は、自らの正義を弱いものに押し付けるところだった。何が悪いかわかるか聞く前に、相手がどう感じたのかを告げ自分がどう思うかを告げ、それかた自ら言った言葉を繰り返させる。子供に何が悪いか感じさせるのではなく覚えさせれば、確かに利口に育つだろう。しかし柔軟性は生まれない。子供の方の素質もあるだろうが、自らが考える現実を知る者と他人の考えを踏襲するだけの者では、考え方も大きく変わってくるものだ。ギルド長から見て、強面の顔だから良かったがもし柔和な顔だったら取り込まれていた可能性が大きいとも考えられた。
自らの育ちを親のせいにするなとはよく言うが、世に生まれ落ちて思考の基本を形成するのは親だ。母なる大地、なんて言葉があるが、立つ為に必要な大地は確かに子からすれば育ての親に値するだろう。
「不器用なお前は愛娘に同じような事をしているらしいが?」
「母からか?」
「その子飼いからだ」
ミーシャの傍に常に存在する執事を思い出す。
年頃の少女に付けるには丁度いいかも知れないが、一番近くに居るのがあれでは聞きたくもない良い噂が遠ざかるのも納得がいくと何度頷いた事か。
「…………教育は乳母に任せている」
「父親の死に顔しか思い出がないなんて言われても知らないからな」
「…………」
「せめて食事ぐらいは共に食べる時間を作りなさい。親と分かっていても、親しみが信頼に変わるには時が必要なんだ。このままだと義務的に家族として暮らしている、なんて思いかねないぞ」
実際、話に上がっているミーシャは、領主の娘として産まれた、なんて言う認識よりも、先王の姫の孫、という認識の方が強い。
権力を欲しているわけではないが、この街の守護である領主一族の一員である事は頭から完全に抜けている。兄姉が居る、というせいもあるだろうが、一番の要因は祖母以外と会う機会があまりにも少ない、という事だろう。兄姉は歳が離れていて、姉は全員輿入れしまだ婚儀を上げていない兄も王都で働いている為遠いルイーデに戻ってくる事は稀だ。
家族が、まるで近所の兄姉感覚になるのは避けて通れなかっただろう。
「……帰る」
「おう、帰れ帰れ。何かあったらフィルを寄越すといい。裏口開けとくよ」
「ああ。部下どもは好きに使ってくれ」
「失礼します」
「はい、またおいで」
下階からは楽しそうな談笑が聞こえてくる。
表の出入り口に顔を向け、安堵にも悲痛にも見える顔を聞きしめた領主を見て、フィルは提案する
「……裏から、お出になられますか?」
「ああ、そうしよう」
フィルより冒険者ギルドの内部構造に造詣が深い領主はフィルを置いて裏口へと足を向ける。
後ろに控えるように追いかけるフィルは、不器用すぎる、領主ではなく父親としての顔である領主を見てほんわかとしていた。表情には現れていないが。
フィルは幼い頃から優秀で、残念ながら親はその親からハーフと伝えられず、フィルが産まれた時不貞の子だと蔑み、両親から捨てられたフィルは別の村に住む祖父母の元へ預けられた。
完全に人間の外見で産まれたフィルは、妖精族の隠れ里で暮らす内、自らの異常性と周囲との乖離を幼い頃から感じていた。祖父母から事あるごとに向けられる憐憫の目が最たる者だったが、次点として挙げられるのが自らの能力の高さだった。
祖父母は柔軟な思考を持つ妖精族であったが、まさか人間族の容姿をした子供に精霊が見えるとは思わなかったのだろう。当然お世話になっている、という感覚がどうしても拭えなかったフィルが直接言う機会もなかった。そんなフィルに転機が訪れたのは、昔から祖父母と仲の良かったらしい客がその知り合い、後の領主を連れてきたことだった。
ーーー怖がらなくても大丈夫。このお方はこの村を援助してくれている方だから
そう言われてまだ成人していなかったフィルが領主を見上げれば、皺のないまだ青年らしい幼さの残る顔でフィルを見返し、こう言った。
ーーー珍しいな、ダブルか。将来ウチで働かないか?
驚いたのは祖父母とその友人である。
領主としては既に周知の事だと思っていたし、フィルとしてはダブルと言う言葉に聞き覚えが無かった。寧ろ出来損ないだと納得していたから、祖父母に恩返しが出来るようにひっそりと努力していたし、挫けそうになったことは何度もあって泣きながら取り組んで、自分は出来損ないだから、もう半分の力を付けなければ恩返しができないなんて思ったりもして、自分がそれ以上の存在だと思うことさえ無かった。
元々長命な妖精族は、魔力以外の成長はかなりゆっくりだ。しかも不便な事にいくら保有魔力が増えても、妖精族は精霊と契約をしなければ上手く魔力を扱う事ができない。人間としてフィルは生活魔術ぐらいは使えるようになったが、それ以上をやろうとすると拒否反応が出てしまいできなかった。
魔力があっても大きく使う事ができない魔力過敏症と言う症状も周知されている今、無理をさせるのもやめた方がいいと考えフィルには一切の魔術教育が行われていなかった。
ーーーダブル? って何……です、か
使い慣れない敬語に若かった領主は笑い、まだ呆然としている祖父母に向き直って言葉を重ねる。
成長が遅いと感じた事はないか、周囲と比べて能力が劣るが一定に能力が向上しているなどはないか、魔力の保有量が増え続けているのに関わらず魔術使う時に拒否反応が起きていたり魔術陣に魔力を付与しようとしても弾かれたりしていないか、などなど。
苦笑いしながら言う領主に、実力はどうか分からないが確かに成長が遅いかもしれない、そう答える祖父母。祖父母、と言うより祖父は純粋な森人で、祖母は獣人と人間の間に産まれた者。双方とも人間の成長速度を詳しく知るわけではない。然し乍ら多くの獣人族も妖精族も子供の頃の成長は遅い。それよりは早い為、人間はこの程度なのでは無いかと勝手に判断していたのだ。
ーーーで、俺としては彼の能力を買いたんですが
顔を僅かに強張らせた祖父母に領主は苦笑いして言う。
別に彼を買いたいわけでは無いと。彼の優秀な能力を手元で花咲かせたいから隣で働いて欲しいと。そう言葉が続けられ、硬い顔が解れた祖父母だが、それでも少し困ったような笑顔をフィルに向けた。
ーーー恩返し。……婆ちゃんと爺ちゃんに恩返し……できる?
ニヤッと領主は笑って、やろうと思えば出来るさと言う。
その為にはまず言葉遣いと、精霊との契約を早々に結ばなければな、とも。
ーーーじゃあ、また来る。何年後か分から無いが迎えに来るさ。その時、まだ答えが変わっていなかったら一緒に仕事しような。
一つ頭を撫でて出て行った領主、と共に来た妖精族の男は肩を竦めると廃材の骨片から名刺のような物を作り出し、妖精族の国ギルドーナに行くときがあったらコレを渡せばいいとフィルにそれを押し付けた。
短い挨拶をして小屋を出て行った彼はまた何度かフィルの元を訪ね、魔術教師としてフィルを育て上げる。その彼は現在領主直下の魔術士団の師団長を務める男だ。
「どうした?」
歩みが止まったフィルに、目ざとく気付いた領主がわざわざ振り返って声をかける。
現在、フィルは領主お抱えの秘書兼最終兵器として領主に付き従っている。
「……いいえ。戻りましょう」
「ああ」
本当の父親は知ら無いが、心配して声を掛けてくれる。そこに確かに信頼はある。
義父として、上司として慕っている領主が、娘さんと早く仲良くなれますようにと、フィルは心の中で祈っていた。自分のように、親の顔さえ思い出したく無いなんて思うようになる前にどうにかなって欲しいと。
そんなフィルも、まさか領主の娘との婚約話が既に領主とその母とで、双方の思惑は違うが、進んでいるとは知ら無いのである。
時間にしたらきっと30分程度しか時間が進んで無い事実。またきっとフィル君は活躍してくれるでしょう。
先日友人から「生きてる⁉︎」と電話に連絡があり何事かと思えば、SNSにログインできず放置してたらいつの間にか死んだんじゃないかと噂が広まってたらしいです。電話番号、教え無いからねー最近は。
勝手に音がない場所で広がる噂話って怖いね!
次はやっと10話です。9話の裏舞台はここまでです。
さて、また次回、お会いしましょう!




